Ⅳ‐3

 おっぱい山が見える高層マンションから望遠鏡で尾笠原達のことを見てた。康介の言った通り人数は8人。俺達は康介入れても5人だし武器も持ってないから正面から行くと負ける戦力差だ。


 この状況をどうひっくり返そうとしてるのか知らないけど、孔明こうめい曹操そうそうに仕えなかったのは義侠心や劉備りゅうびの人徳なんかじゃなくて、劉備に仕えて天下をひっくり返す方が面白いしそれができる自負があったからだって言った男はおもむろに尾笠原に電話をかけ始めた。


「よお、集まった?」


 約束の時間を過ぎてからの電話。ヨッチに悪びれた様子は無い。


「こっちはとっくに集まってんよ! テメェらから呼び出しといておせえんだよ!」

「ハハッ、電話だと随分と強気じゃん。ボコられて泣きそうな顔してたのに」


 この時のヨッチは本当に楽しそうだった。俺は思う。こいつの方がよっぽどヤンキーなんじゃないかって。


「うるせえな! さっさと来いよ、この野郎!」

「ねえ、今日、俺達が行かなかったらどうする?」

「はあ? ふざけんなテメェ!」


 わめく尾笠原を無視して「じゃあね」って言って電話切った時のヨッチはとても幸せそうだった。「あいつ、めっちゃブチギレてたわ」って超喜んでるヨッチをよそに「あいつらに逃げたって言われない?」って心配そうにバンブーが言った。


「大丈夫だって。そんなことしたら俺にハメられたバカですって自分達で言ってるようなもんじゃん。勝手にあいつらが俺よりバカだって宣伝してくれるならそれでいいし」


 ヨッチはではなくてと言った。さっきからなーんか引っ掛かるわ。


「えっ、これで終わり?」

「まだだよ、ちょっと待っててみ」


 望遠鏡で尾笠原達をのぞくヨッチ。


「ほら、もめてる。あっ、あいつ、先輩っぽい人達に怒られてるよ」


 もう辛抱たまらんって感じで、ヨッチはまた尾笠原に電話をかけた。尾笠原は先輩に殴られてるみたいで、すぐに電話に出られないでいる様子をヨッチはもどかしそうに、嬉しそうに望遠鏡越しに眺めてる。


「あっ、もしもし。ごめんごめん。ねえ、もしもだけどさ、先輩達とかいっぱい呼んじゃってるのに俺達が来ないってなって怒られてない?」

「テメェ、どっかで見てんのか!」

「ううん、ただの予想。当たっちゃった?」

「うるせえな、テメェ早く来いよ! ビビッてんのかこら!」

「あん? 来てほしいならお願いしろよ。命令してくんなボケ。困ってんのテメェだろうがカス」

「非通知でかけてきて粋がってんじゃねえよ!」

「えっ? 怒ってんの?」

「当たり前だろうが!」

「えー、何か怖いから切るわぁ」


 ヨッチはゲラゲラ笑ってた。自分が仕掛けた罠にハマった尾笠原を心底バカにしてたし、リーグ優勝して胴上げされてる監督よりも達成感や幸福感に満たされているようにも見える。自分のせいでピンチになってるやつに向かって困ってんのテメェだろうがって言う? ドSが過ぎる。ついこの前、俺に才能に満足してるやつは大したことないだの、サバンナがどうのこうの言ってたけど、今のヨッチの方がよっぽど才能に溺れてるんだけど。


「秀ちゃん、あの金髪のメッシュの入ったやつ分かる」


 ヨッチが望遠鏡を渡してきて、望遠鏡をのぞくとメッシュのやつが尾笠原を殴ってる。


「さっきから見てると、あいつがリーダーっぽいからさ、秀ちゃん、あいつやれる? バンブーは竹山お願い」

「えっ、これから行くの?」

「うん、あいつらがばらけたら後つけてって」


 どっからどこまでが計算なのか分かんないけど、ヨッチとは喧嘩したくないって思ったよね。俺はメッシュ頭をやったし、バンブーは竹山をやった。ヨッチとおみやんと康介の三人で東中のOB一人をやって、主力を失った東中との喧嘩はけりがついた。

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