Ⅱ‐5

 蘆名から呼び出された日の放課後、また図書館行くかなって向かおうとしてたら、また宮城さんに呼び止められて話があるって言ってきて、蘆名の呼び出しなら行かないって言ったんだけど違うって言うし何か思い詰めた感じだったから話を聞くことになった。


 それで、家庭科室近くの階段で宮城さんの話を色々と聞いたんだけど、かいつまんで話すと蘆名にいじめられてて助けてほしいって話だった。


 正直、宮城さんとは特別仲が良かったわけでもないし、蘆名と本格的にもめると教師とか他の生徒を使ってめんどくさいことをしてきそうだからあんまり気乗りしなかった。


 ただ、自分がいじめられてるなんて今日、初めてまともに喋ったような人間に言う話じゃないし、そんな赤の他人にすがるしかないくらい味方もいなくて追い詰められてるっぽかったからさ、一応、宮城さんの話を聞いてたんだけど、宮城さんから携帯渡されて「見て」って言われて見た蘆名達とのグループLINEがエグ過ぎて萎えた。


 宮城さんのこと同じグループLINEで見てるって分かってんのにずっと公開処刑してるわけですよ。ある日のある瞬間を境に、唐突にメンバー内で「あいつブスのくせに調子に乗ってる」「本人カワイイと思ってんでしょ?」「あれで?(笑)」って宮城さん以外のメンバーが悪口書き始めて宮城さんが「何の話?」って聞いてんの無視して悪口が続いて、そのうちだんだんヒント出すみたいに宮城さんのこと言ってるのを分かる内容が続いて「あんなのと友達だと思われるの恥ずかしいよね」「そうそう、うちら恥ずかしいの我慢して遊んであげてるのにね」「マジ鈍感でイラつく」とか性格の悪い言葉の暴力が羅列されてて、散々タコ殴りにして「本人にバレちゃうよ(笑)」「いいじゃん別に」とか「見てるくせにシカトとかメンタル強いね」「不感症なん?」「何か言えよ」「本当に空気が読める人なら名乗り出て私達に謝るべきだと私は思う」みたいな書き込みが続いて、宮城さんが「ごめんね」って謝ったら「いきなりどうしたの?」って、散々悪意の大喜利やって遊んでたくせにしらばっくれて「悩みなら聞くけど(笑)」「私達に何か言いたいことあるの?」みたいな感じにして「自分がされて嫌なこと人にやっちゃダメだよね?」とか「あんただったらどう思う?」ってあおってて、宮城さんも散々空気読めないみたいなこと言われて責められてるから思い付く限りの言葉を使って自分で自分をけなして、私は分かってますっていうアピールして蘆名達に許しを乞うみたいなことしてんだけど「今さらおせえんだよ」とか「えっ、自分で分かってるのにやってるのは確信犯?」「ひくわ」「何で生きてんの?」ってとにかくボロボロ。


「こんなん、俺が見ちゃっていいの?」って聞いたんだけど、いいみたい。宮城さんが隠しても、どうせ蘆名達が他の子達にこのLINE見せるからって。言いながら宮城さんはポロポロ涙をこぼしてた。これでほっとくとかさすがに無い。しかも、西島と蘆名がもめたのも、このLINEを見た西島が宮城さんをかばったのが始まりらしい。


 ただこういうのは俺は苦手でねぇ。男みたいに腕力でねじ伏せりゃいいってもんでもないじゃん? 女子に手を上げるってのも気が進まないし、手を上げたら蘆名はそのこと教師に自分の都合のいいようにあれこれ尾ひれ付けてチクるだろうし、そうなったら何を言おうが嫌われ者の俺の言うことを教師が聞く耳持つとは思えない。


 蘆名はあんだけのLINEを笑いながらできちゃうやつだ。いろんなやつ裏で動かしてやり返してくるだろうし、最悪、宮城さんのいじめの主犯は俺みたいな話にまで持ってかれる可能性だってある。個人戦の喧嘩ならまだ俺にもやり方があるんだろうけど、蘆名は絶対に団体戦に持ち込むだろうし、団体戦になったら俺の個性が死んじゃう。


 俺は宮城さんに「こういうの得意なやつに相談していい?」って言って、ヨッチに連絡して宮城さんのLINE見せて状況を説明して段取りを組んでもらうことにした。


 ヨッチも急な話だったからか結構考え込んでたし、しばらくして方向性が決まったっぽい顔してるのに自信過剰なこの男にしては珍しく慎重に言葉を選びながら、宮城さんにアドバイスをし始めた。


 ヨッチが宮城さんに一番最初に言ったのは、今の環境のままなのはまずいから、蘆名と同じ女子バスケ部は辞めることと、学校はしばらく休むか来ても蘆名とは関わらないようにしてまず環境を変えることを勧めてた。無理に我慢して心が壊れる前にそうした方がいいって。


 それとがっかりさせてしまうようだけど、蘆名に謝罪させたり、宮城さんがやられたことを同じように蘆名にもやり返したりできるかっていったら、それは自分にはできないって。自分ができるのは蘆名に宮城さんとは関わらないようにさせることくらいで、それでもいいなら、うまくいくかは分からないけど協力するって。


 宮城さんは黙ってうなずいてて、それからヨッチは宮城さんに、他にも蘆名にいじめられてたり、過去にいじめられたことがある子がいないかとか蘆名の交友関係とか身辺情報を事細かに聞いてて、それが終わると宮城さんを家まで送った。


 その帰り道、俺は余計な口出しして邪魔にならないように三人の時は黙ってたんだけど二人っきりになったからヨッチに「やられたのに何もしないで手を引かせるだけとか泣き寝入りするみたいじゃね?」って言ったらヨッチが言うと思ったって顔しながら「やり返すことができても、その後ずっと宮城さんをフォローし続けるのは無理だし、蘆名が改心したり、あそこまで力の差を見せつけた相手に謝罪なんかすると思う?」って。


「前に法律事務所のホームページとか見たことあったんだけど、トラブルが起きた場合、相手に手を引かせるだけなのと、謝罪や賠償請求まで持ってくのとでは難しさが桁違いになるっていうの見て、もめ事解決のプロでもそうなんだなぁって」

「お前、弁護士目指してんの?」

「いや、たまたま興味あったから見たことあっただけ」

「いいとこで金稼ぐ気満々だな」

「別にそこはいいじゃん。それで、ひでちゃんは明日から宮城さんの送り迎えしてよ」

「えっ? 用心棒みたいなこと?」

「うん。本当は宮城さんには学校を休んでもらった方が本人のメンタル的にもいいんだろうけど、そうなると勝手に休むわけにもいかないから親にいじめのことを話す必要が出てくるじゃん?

 でも宮城さんは親に話せないか話したくないから秀ちゃんに助けを求めてきたんだし、宮城さんの両親が出てきて余計ややこしくなるかもしれないじゃん?

 親だからまず最初は学校に文句言いに行く可能性が高いし、それで教師が本気になっていじめを解決しようとするかどうかも怪しいもん。

 あのいじめのLINEを突き付けられても蘆名なら口八丁手八丁で教師達を言いくるめてもおかしくないじゃん? そもそも学校はいじめなんて面倒なことは隠したがるんだから。

 いじめの解決よりも先に、後で問題になっても大丈夫なように、自分達は真摯しんしに対応したって証拠だけ欲しいみたいなやついっぱいいるでしょ。

 蘆名もそこら辺のとこ分かってるだろうし、そこを狙って話を進めたり、頃合い見計らって一旦は謝ったりするかもしれないけど、絶対にいじめはやめないよ。

 むしろ、次からはLINEなんて証拠の残るやり方じゃなくて、親にも教師にもバレにくい陰湿なやり方でやってくるだろうし。だからもろもろのこと含めて俺達だけで動いた方がいいし、宮城さんには学校に今までどおり通ってもらおうと思って。

 で、宮城さんの状況って部活は辞めて学校は通って、それを親に黙ってる状況なわけで、それって秀ちゃんとほとんど同じじゃん?」

「まあ、そうだね、そこだけはね」

「取りあえず秀ちゃんは宮城さんの用心棒してて。その間に俺は蘆名の情報集めて段取り詰めてくから」

「もう青写真はできてるんじゃないの?」

「できてるけどそれが本当にいけるかどうか確認するための情報が必要なんだって」

「ふーん。あとさ、宮城さんは俺がガードするとして、西島はどうするの?」

「えっ、西島さんなら男にも女にも人気あるし、蘆名もそう簡単に手は出さないんじゃない?」って言われて俺も「そっか」って答えたんだけどさ、ヨッチが「えっ、何が? 何か西島さんが大丈夫だとダメなの?」って聞いてきて「別にそんなことないよ」って言ったのにヨッチが何かに気付いた顔して「そんなに気になるなら西島さんの用心棒もしたら?」って言ってきて、俺は「いや、大丈夫そうならいいよ」って言ったのに「宮城さんはバンブーに行かす?」って。


「まだ西島さんと連携するかどうかは決めてないけど、連携するってなったら西島さんの用心棒は秀ちゃん行きなよ」って言ってくるからますます俺もムキになって「大丈夫ならいいって言ってんじゃん!」って突っぱねた。


 ヨッチが「いや、そんなん知らなかったしさぁ」って言ってきて「何が? っていうか俺は素朴な疑問として西島は大丈夫か聞いただけで、宮城さんが大変な時にそんな下心みてえなゲスな気持ちで動こうとしてるやつだとお前に思われたのが腹立つわ!」「別にそんなん思ってないって」「じゃあ、もし西島に用心棒つけることになったら西島にはバンブーに送り迎えさせろよ」「分かったよ、うるせえな」「うるせえな? あったまきた! 言っとくけど俺ぁへそ曲げたかんな!」って何かヨッチとガチャガチャした。

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