Ⅰ‐7
部活を辞めた中学生は死ぬほど暇だ。前はムラケンのこと辞めたくせに先輩面して部室に来てんじゃねえよとか死ねばいいのにとしか思わなかったけど、今ならムラケンの気持ちがよく分かる。あいつも暇だったんだ。
今さら勉強しようなんて気になれないし、まともに授業も受けてない俺は朝っぱらからずっと暇で携帯をいじりまくってた。各SNSのチェックとか携帯ゲームとか無料漫画とか、携帯でできる暇つぶし全部に手を出して、家を出る前に満タンにしておいたはずの携帯の充電は放課後になる頃には無くなるか残り5%を切る日もざらにあった。
家に帰って携帯の充電しながら動画見て、テレビ見て、ゲームして一日が終わる。別にいいんだけどさ、北総中学のトップを倒して今や王座に君臨した人間とは思えない地味な生活だ。
ヤンキーになったはずなのにオタク化が進むっていうね。携帯の持ち込み禁止の学校で堂々と携帯をいじってゲームしてるのはヤンキーらしいけど、そこは透明人間の利点でもある。
暇って嫌でしょ? だからどんどん時間を埋めていってた。特に動画の方にハマって、宇宙の話とか都市伝説とかマンガのシーンを科学的に考察したりとか、アングラ世界の裏話から日本古武術にジークンドー、システマとかの近代格闘技、アイドルのメイク動画やら流行りの歌のPVまで、無料で見られる面白い動画があふれてたし、サブスクで映画や海外ドラマやアニメにも手を出し始めちゃって眠気で気絶するまで何かしら見てて携帯握りしめたまま毎朝起きるのがデフォになってた。
めっちゃ睡眠不足だったし学校では1限から給食の時間にバンブーに起こしてもらうまでガチ寝の時もあった。給食を食い終わってまた眠くなったら寝るし、起きてられたら動画見るかSNSのトレンドワードをチェックして、携帯いじってる時間全部を勉強に回したら、いくら頭が悪いっつったって東大に入れるんじゃねえかってくらい携帯いじってた。
目の下にでっかいクマ作ったまま学校に行って即寝して、放課後になったら一直線に家路に着く俺を見て、バンブーやヨッチやカズさんが心配したし、たまたま会ったムラケンからは「クスリやってんのか?」って聞かれた。
俺のありさまに教師達も黙ってたわけじゃなくて、何度か注意してきたけど、ガン無視。怒鳴ったり、俺の机を叩いてきてもフルシカト。携帯を取り上げられそうになった時だけはブチギレて暴れて「後で職員室に来い!」って言われても行かなかったし、教師5人に囲まれて「同じ教室に一人でもやる気のないやつがいると、他の生徒達のやる気まで削ぐ」みたいなことを言われても「そいつらの集中力が足りないか、お前らの授業がつまんないのを俺のせいにすんな」って鼻で笑った。
「学校に来なくていいって言っただろ!」とか結構酷いこと言われても「すいません、義務教育なんで」ってこの頃には笑顔で返せるようにもなってた。
相手が一番ムカつくタイミングでぞんざいな態度取ったり、しおらしくしたり。俺は透明人間扱いした教師達を全然許してなくて復讐の鬼と化してた。
大の大人が集まってガキんちょ一人を肉体的にボコそうとしたり、無視して精神的に追い詰めようとしたんだから、俺にだってやり返す権利くらいある。殺すんだったら最後までやってみろよって気持ち。私はあなたに興味を持っていませんと誰かに伝えることがどれだけの暴力になるのか、身をもって知ればいいと思ってた。
教師との冷戦みたいな期間は、俺に関わらなければ終わることに教師が気付くまで続いたし、冷戦の終結は俺の治外法権の獲得と互いの半永久的な決別を意味した。まあやってることは主に寝るか動画見てるかだけだったんだけども。
ようやく冷戦が終わって、サブスクの映画や海外ドラマやアニメ、各動画サイトも興味あるのは大体見尽くして、さすがにちょっと飽きてきたのはカズさん達が部活を引退してバンブーが柔道部の部長になって夏休みと冬休みも終わってカズさんが卒業してからだった。
そうして俺は中三になる。
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