Ⅰ‐6
サッカー部の先輩で
先輩だし、後輩の俺から調子に乗ってすいませんでしたって言えばすんなり終わったかもしれなかったんだけど、何て言うのか、人に頭下げるのが絶対嫌モードに入ってたっていうかアホらしくて。
俺が鏑木先輩に何かやっちゃってて、本気で怒らせちゃってたんなら別だけど、尾笠原と学年主任とのことで悪目立ちだったとしても名前が売れた俺を鏑木先輩が面白く思ってなかったのが見え見えだったし、ここで一丁かましてやろうって俺にマウント取ろうとしてるだけなのが寒かった。
この時の俺は誰かと仲良くしようって気持ちも反省しようって気持ちもこれっぽっちも無くて、少しでも自分を否定する人間は片っ端から相手してやるって気持ちだけだった。自分の欠点は見つけられなかったり気付いててもスルーするし、他人の悪いところはしっかり見付けるし、それを言うか態度には出す。
そもそも気に入らなかったのは鏑木先輩はヤンキーのくせに真面目なやつとも教師とも仲のいい学校の人気者で、別にそこはいいとしても、陰でいじめもしてた。
でもそれを他の生徒は見て見ぬふりをしてたし、いじめても誰も何も言わなさそうなやつを見つけるのがうまい人だった。学校内の政治みたいなのに長けた人で小器用な感じがいけ好かないっていうか「ヤンキーっぽく見せるのがうまいね」って意地悪く思ってたりもした。
教師は教師でヤンキーと
話を元に戻すけど、俺は鏑木先輩に呼び出されて学校近くのコンビニの無駄にでかい駐車場に行ったんだけど、先輩は自分の名前を売るのにちょうどいいカモと思ってたやつが素直に頭を下げないことにイライラしてて「なめてっとやんぞこの野郎!」とかペチャクチャ言ってくるしにらんできたりはするんだけど、殴ったりとかそういうのは全然してこない。そういえばこの人がタイマン張ってるとこ見たことないわって。
「お喋りかにらめっこでもしたいんすか?」って聞いてようやく喧嘩が始まったんだけど激弱い。尾笠原よりも手応え無かったよ。
とにかく打たれ弱くて、パンチ来てそれ弾いて先輩のみぞおちにズドン。首が下がったところを左フックでこめかみにボカーンって感じで軽く殴っただけで簡単にうずくまった。うずくまって蹴っ飛ばすのにちょうどいい場所に頭があって、やってやろうかとも思ったけど気の毒になるくらい弱いし、鏑木先輩の他に二人その場にいたんだけど、二人ともビビッてたし、そのまま「帰りまーす」って言ったら帰らせてくれたから帰った。
ほいでもって、このことがまた悪い形であっという間に学校内に広まって、俺にビビッてんだか教師や鏑木先輩に目を付けられるのが嫌なのか分かんないけど、鏑木先輩とのもめ事がある前から女子は完全に全滅してるところに男も俺に話しかけてくるやつが激減した。
カズさんとかバンブーとか柔道部連中以外じゃ、ヨッチしか話せる人間はいなくなって、俺の存在は学校から
歴史の授業中に「この問題分かる人」って教師がみんなに聞いてきて、俺が手を挙げたのよ。その時、クラスで俺一人しか手を挙げてなかったんだけど無視されちゃったもんね。
変だなって思ったんだけど気のせいじゃなくて、担任の教師や学年主任だけじゃなくて今まで結構仲良く話かけてくれてた他の教師とかも全部がフルシカトしてきたし、明らかに聞こえる声で挨拶しても無視された。
ホントにガチで誰にも相手にされなくなってて、この時ももっとしおらしくしてればまだやり直しはきいたかもしれないんだけど俺は「あーそうですか」って開き直って学校に行っても寝るだけの毎日を過ごした。
寝続ける俺を見かねた歴史の教師から「何で寝てるんだ?」って注意されたけど「今日は俺のことが見えるんですか?」って言ったし、言った瞬間に教室が凍り付いて、その日から本格的な透明人間化も始まる。
自分の存在が黙殺される日々が続いていくうちに、最初は思いもしなかったけど、だんだん根性が悪くなってきて「お前らの思ってる通りのことしてやろうか?」って気にもなってくる。
どうぞグレてくださいって教師や生徒から毎日言われてるような気がしてた。俺が暴れだすのを手ぐすねを引いて待ってるんじゃないかって。キレさせる環境にさせて暴れさせて「あー、やっぱりな」って俺の周り全員が言いたがってるような気がして気持ち悪かった。イライラした。
今はインターネットでヤンキーのなり方まで載っている時代だ。別に特攻服着て学校に行ってもよかったけど、俺一人だけやるのはサブい。
これみよがしに、あなた達のせいで僕はグレちゃいましたグスンって言ってるみたいでめっちゃカッコ悪いし俺の性分じゃない。
それに教師やクラスメイトに無視されたことで自分が傷ついてしまったことは目ん玉をスプーンでくり抜かれるような拷問にあっても白状してはならない絶対の秘密でもあった。
簡単な言葉で例えるなら意地だ。この状況で意地を張るには
学年主任には自分が恐れていることを認めたくなくて。鏑木先輩には単純に自分よりも喧嘩の弱いやつに従いたくなくて。自分を無視した人達にはそれで自分が傷ついたことを悟られたくなくて。
学校は居心地のいい場所なんかではなくなってたし、学年主任から直々に学校に来ないでくれと言われたからには行かなくてもよかったんだろうけど、自分が教師や同級生達に透明人間扱いされている子だと親に思われるのは恥ずかしかったし、周りから親に言いつけたと思われるのも
そうして先輩にも同級生にも後輩にも教師にも嫌われながら、ビビられながら、遠巻きに観察されながら、透明人間として俺は学校に通った。
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