Ⅰ‐4

 尾笠原の件があってからしばらくの間、反省して大人しくしてた。力の使い方を間違っちゃったなぁって、ちょっぴりヘコんでもいた。でもそういう時にかぎって暴力というのは舞い込んでくる。


 おみやんが、通ってる塾で他校のやつにいじめられてるって俺に泣きついてきて、俺は尾笠原の件があったばっかりだし気分が乗らなくておみやんのお願いに消極的だった。


「どうせお前が悪いんだろ?」って言ったりしたんだけど、おみやんはなかなか自分の非を認めない。多分だけどおみやんが自分の身の程をわきまえずに塾の中の派手なグループに無理やり入って、でもメッキが剥がれてのけ者にされて、しかも派手なグループに入ったからって他のグループに調子に乗った態度とってたから、一軍落ちした今はどこにも居場所がないだけなんじゃないかなって思うんだけど、おみやんが言うには違うらしい。とにかく性格が悪くてネチっこいやり方で人に嫌がらせをしてきたり、女子の前でわざとバカにしたりする根性の腐ったやつらだって言い張ってんだけど、そんな分かりやすく悪者なやつっている? いるとしたら、おみやんこそそんなことしそうだし、聞いてる途中でそれお前のことじゃんって言いそうになるのを我慢するのが大変だった。


「それで俺に何してほしいの?」

「そいつらボッコボコにしてよ」

「俺はそいつらに何の恨みもないんだぞ、ヤダよ」

「いいじゃん、俺のかたき討ってよ」

「じゃあ分かった。一回お前、一人で喧嘩してボッコボコにされてきて。そしたら俺もやろうって気になるかも」

「ヤダよ、負けるの分かってるし」

「喧嘩弱いくせに粋がるからでしょ」

「喧嘩が弱いと粋がっちゃいけないのかよ」

「それ一人で立ち向かってる時に言ったらめっちゃカッコイイよ」


 その日のおみやんはしつこかった。意外と俺が思ってるよりも酷いことをされてたのかもしれない。ただやっぱりめんどくさくて適当に受け流してたんだけど、この頼み事をされてから3日後、おみやんから泣きながら電話がかかってきた。


 塾のやつらに嫌な感じで絡まれて、ハートだけは強いおみやんがキレて喧嘩になって、ズタボロにされたらしい。喧嘩が始まる前、ホントに喧嘩が弱くちゃいけねえのかよって言ったらしいんだけど、そのせいでもっとボコボコにされたんだって。


「やっぱりマンガみたいにうまいこといかないね」なんて言ってたんだけど、おみやんが決めゼリフ言った後にボッコボコにされてるとこ想像したら、かわいそうとは思ってるんだけど、めっちゃ面白くなっちゃって、笑いながら慰めてたらおみやんもふざけだして、今後なめられないためにも、まずは見た目からだって、やりもしないくせに「普段からシンナー吸って全身にタトゥー入れてくるわ」とか言うから「顔面とかも入れる?」って聞いたら「おでこにファッキンジャップって入れる」って。


「頼もしいな」とか適当に返事してたけど、そんなん聞いてたら俺も「友達でおでこにファッキンジャップって墨入れたやつがいるんだけど」ってパンチ利いた紹介を誰かにしてみたくなったし、友達がやられて許せねえじゃなくて、面白いこと言うからこいつの言うことは聞いてあげたいなっていう気にさせるアプローチされちゃうと弱い。


 何か辛いことがあった時、同情をひくんじゃなくて、はったりでもいいし虚勢でも強がりでも何でもいいから笑い飛ばすやつに弱い。もしおみやんが普通に頼んできても自分で何とかしろよって動かなかったと思う。

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