第4話 燃え上がる闘気

 俺は十二歳になり、遂に修行の一つであった巨岩の破壊に成功した。

 そして師匠もそれに喜んでくれたが、それでも「まだまだだ」と完全には認めてくれなかった。

 それもそのはず、師匠の見た目は八十歳くらいのお爺さんだが、その力の差は歴然。

 いや、化け物と言っても等しい。


「良いかファウスト! 岩砕きはこのようにやるのだ。よく見ておれ!」


「あぁ!」


「とりゃあああぁぁ!!」


 師匠は俺の集中時間も必要無い程に素早く闘気を練り上げると、大声を上げて拳を俺が壊した同程度の岩にぶつける。

 すると、ドンやバチンといった音を鳴らさずに、師匠の拳が岩にぶつかった瞬間に、岩は木っ端微塵に砕けた。


 それも俺の時より激しく、岩は手の平サイズの小石にまでバラバラに砕け、まるで爆弾を岩の内部から爆発させたかのように、岩が周囲に吹き飛ぶ。


「え、えええええ……」


「分かったか!!」


「分かった!」


 何も分かってない。師匠はやっぱり師匠だということだけ分かった。

 もし殴り合いになったら絶対勝てる気がしない。というか殺されるかもしれないレベルだ。


「そいじゃあ、次が最後の修行じゃ。これさえマスターできれば、闘気術を使う者として、次の段階へ進むことが出来る。

 修行はこれが最後と言ったが、その先は自分の力で身につけるものじゃ。ワシが手伝えることは無い……」


「そうか……分かった。じゃあ最後の修行を教えてくれ!」


 最後の修行。修行ってのは決まった内容を続けてやることで自分に眠る力を引き出したり、自分の中に既にある力を増幅させるための訓練だ。

 だから師匠の言っている次の段階とは、修行では身に付かないものなんだ。

 自分の特訓法を作り出して、自分の技を身に付ける……。

 こんなこと十二歳になるまで全く思っても見なかったな……。


「ならば教えてやろう! この技の名は……劫火鋼ごうかこうじゃ! 煮えたぎられせた闘気を燃焼し、本物の炎に変えることじゃ。

 これも、魔力を転換したものではない。己の気力を極限まで高め、その限界を突破した時、身体は炎に包まれる。

 よく見ておけ……これがその技じゃあ……」


 そう言えば、師匠は最初に体の周りに闘気を纏うと、さらに気力を高めるために大声で叫ぶと、急激に師匠の体から炎が噴き上がり、師匠はたちまち火達磨と化する。


「あ、熱くないんですか師匠! み、水を!?」


「こいつぁワシの熱から出た炎じゃ。ちっとも熱くないわい。この炎はワシの闘気の表れじゃが……、勿論これで殴れば物体に炎をつけることも出来る。

 これだけで驚いちゃあ元も子もないわ。まずはこの炎の威力見てからにせぃっ!!」


 体を燃え上がらせる師匠に俺は慌てていると、師匠は岩を砕く時と同じ姿勢で、同じ動作で、思いっきり何もない砂漠に向けて拳を真っ直ぐ正面に突き出す。

 すると熱風が俺の方へ吹き、宙で何かの膜を破ったかのような衝撃波が遅れて俺に向かって吹き荒れる。

 あまりの突風に砂塵が舞い、思わず咳き込むが……落ち着いてから師匠の方を見れば。


 師匠の正面の地面が、真っ直ぐ十メートルほど足元から大きく抉れ、まるで超高熱のマグマでもそこに流れたかのように、抉れた地面がドロドロに溶けていた。


「はっはっはっは! ちと弟子の前だから力を出し過ぎてしまったかのぉ?」


 師匠は笑っているが、この師匠の言葉に俺は更に驚く。俺の前で力を出し過ぎたということは、本気より力を抑えるつもりだったということ。さらに出し過ぎたことに笑っているということは、今の力はまだまだ本気には至っていないということになる。


 あぁ、師匠はやっぱり化け物だ。喧嘩になったら絶対に勝てねぇ……。そう思った。


「よし! ファウスト。次はこれを習得するのじゃ」


「えっとーどうすればいいんですか!」


「いつものとおりに気力を高め続けろ! そうすれば自ずと炎が燃え上がる!」


「わかった! うおおおぉ!」


 俺は師匠の言うとおりにとにかく気力を高める訓練をし続けた。

 深呼吸で息を大きく吐きつつ、ただ精神を集中することだけを考え、他のことは何も考えない。

 とにかく体の中に眠る熱いものを下から押し上げるイメージで、体温をどんどん上げていく。


 砂漠の日差しではなく、気力を練り上げ……。

 俺は途中で砂漠に日差しによってぶっ倒れた。


 俺はぶっ倒れるたびに師匠に介抱、水を飲まされ、何度倒れても何度も訓練をし続けた。強くなるために。


 そうしてその習得は、記録更新の六年経って遂に達成した。


「うおおおおぉ! 燃えるぜえええぇ!」


 十八歳。身も心も炎に包まれるようで、なんだか精神的にも師匠に似てきた気がする。

 取得した劫火鋼によって体を燃え上がらせている時の俺は、テンションが有頂天に昇るということも分かった。


「くはははは! 遂に、遂に取得したか! ならば本当の最後。『最終試験』をするかのぉ」


「最終試験……?」


「おうよ。その内容は……ワシと戦って、勝て……。例えお前が負けても、何度も挑戦権はやろう。勝てるまでワシと戦え」


 遂にずっと恐れていたことが始まった。師匠は俺と戦えなんて言っているが、これは最終試験と言っているだけあって、殺し合いと言っても良いはずだ。

 本気をまだ見せたことがない師匠に勝つなんて出来るのか?


「あー別に、弟子が師匠を倒して

やっと免許皆伝なんてルールは無いぞ。何せお前がワシの初の弟子じゃからのぉ。

 ただ、ワシはお前が毎日毎日自身を鍛える姿を見ての、いつかワシを超えるんじゃ無いかと思ったのじゃ。

 ワシはこう見えて、もう九十二歳じゃ。どんなにこれ以上技を磨いても、更に強くなることはもう望めない。

 だからワシは決めたんじゃ。お前がワシのを倒すことが出来れば、お前はワシを超えたということになる。だから、お前の成長した姿を見届けたい。それだけじゃ……」


「師匠……」


「さて、早速やるかの?」


 俺は師匠の想いを受け取った。しかしそれでも師匠に勝てるかどうかはさっぱり分からない。というか負ける確率の方が高いだろう。

 しかしそんな俺は、何度も挑戦権は与えるという言葉に釣られて、その勝負を受けてしまった。


「あぁ、やろうぜ。師匠の本気、見せてくれよ」


「はっはっはっ! お前も減らず口が叩ける歳になったっというものか。良いじゃろう。ファウスト。死ぬなよ?」


「ふっ、来い! クソジジイ!!」

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物理最強の脳筋男が歩く異世界踏破譚 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs

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