第3話 修行
俺はファウスト・ハーデットという名前を師匠から付けられた。
名前を勝手に付けられた以上、これから俺は師匠の元で修行をするんだろう。
俺は内心楽しそうにして師匠の後をついて行った。
しかし、この先に待っていた『修行』とは俺の考えていたような生優しいものでは無かった。
師匠の後をついて到着した場所は、建物の影すら見えない、どこまで見渡しても地平線しか見えない。
地獄のような暑さの陽射しが照りつける砂漠に来ていた。
どうやってここまで来たかはよく分かっていない。外に出るのも初めてな俺には、砂漠までの道も新鮮だったからだ。
そしてその訓練内容とは……砂漠を百キロメートル走れというのが最初の修行だった。
「し、師匠! 無理だよ! 死んじゃうって!」
「ワシはこれを毎日やっていたのだ! それも死ぬ気でな!」
「俺はまだ子供だよ! はぁ……はぁ……もう倒れる……」
「なら倒れろ! しっかりワシが介抱するから安心せい!」
「ええええぇ!」
これは基礎体力作りというもので、己の限界を超えることが意味を成すらしい。
俺はこの修行を師匠の言われる通りに毎日やった。
最初は朝から走って夕方になる前にぶっ倒れていたけど、一週間、一ヶ月と続けていくことで、体力と砂漠という走りにくさから脚の筋肉がモリモリとついていき、一年経った頃には半日で百キロを走り終えていた。
「体力は十分に付いたな! なら次の段階だ! 気力を練り上げるのじゃ!」
「きりょく?」
「うむ。簡単に言えば気合い。ワシは闘気と呼んでおる。人間には必ず体内に微力な魔力を循環させているというが……そんなものは必要ない!
良いか? 精神を研ぎ澄まし、集中し、闘気を体に纏う事ができれば成功じゃ。
まぁ、良くみておれ。はぁああっ」
そういえば、師匠の体の外側に白い霧のようなものが現れた。
それは汗をかいた時に出てくる煙ではなく、確かにもやっとした霧が出て来ていた。
「な、なにそれ!?」
「これが闘気じゃ。これを習得しなければ次の段階には行けぬ。これをやらずに次の段階へ行ってしまうと、お前の体なぞ簡単にボロボロになってしまうからの」
「な、なにそれ……」
深く息を吐き、気力を集中し、闘気という力の源を練り上げる。
これが言わば衝撃から体を守る防具にもなるし、武器にもなるという。
俺はただひたすらに、灼熱の日光が照らす砂漠の中心で、気力を集中させた。
ただ心を気合いで煮えたぎらせ、自身から闘気という名の気力を練り上げるイメージで息を吐く。というあまりにも地味な修行。
でも、師匠が言うのだから、きっとこれにも意味があるのだろう。
そうして俺はこれを半年間続けた。そしてついに、練り上げられた闘気が自分の体の周りに纏えるようになった。
「よくぞ習得した。ならば次の段階じゃ! これを砕け」
師匠が指差すのは、俺の体の十倍はある巨大な岩だった。
「え?」
「その闘気を使って、この岩を一撃で粉砕するのじゃ! これができれば次が最終段階となる」
「し、師匠。流石にこれはデカすぎるって……」
「出来ないか?」
「で、出来る!! こ、こんなの余裕だ!」
「よくぞ言った!! なら頑張れぃ!」
俺は巨岩の前に立つと、体に闘気を纏わせる。そしてその闘気を全て拳に移すイメージをして、集中。
「ふううううぅ……」
拳に纏わせた闘気をさらに増幅させ、気合いの塊を岩にぶつける!
「てやあああぁ!」
俺の拳はゴツゴツした岩の面にぶつかり、バチンと気持ちのいい音が響いた。
ただ、それだけで。後から腕全体に激痛が走る。
「うむ。今のは良い線をいっておるの! しかし、折角拳に乗せた闘気が、拳を岩にぶつける直前に霧散しておったわ。そりゃ痛くなるのも仕方がなかろう。
大声を上げて力を上げるのも良いが、岩を破壊するまで決して気を抜かんことじゃ……はいもう一回! そんな痛みで諦めるのか!!」
「こんなの痛くねえええぇ!」
俺はこの修行を二年間続けた。今までの修行より長く期間が経ってしまったのは、闘気をぶつける難しさもあるが……。
ただ単純に岩が硬すぎる上に、俺は九歳になったが、されど九歳だ。
子供にこんな岩を破壊させるなんて、師匠は流石だぜ。
「はぁあああっ!!」
その二年間で俺の闘気術はかなり鍛えられたと思う。まだ岩にヒビ一つ入っていないが、巨岩を破壊できるのではないかという自信と手応えをだんだん感じ始めている。
もう闘気を岩にぶつける自体はほぼマスターしたと言ってもいいかもしれない。
後は岩を破壊出来るほどの、単純な筋力が必要だ。
俺はまた砂漠の走り込みをして、全身の筋力を鍛える基礎トレーニングを追加し、より強い闘気を練り上げる特訓を始めた。
これをさらに三年間。俺は十二歳になった。
「ファウスト。最近、なかなか良い体になってきたではないか。だが、それでも子供らしさは抜けないのぉ……」
「でも師匠。今日こそ岩をぶっ壊してやる。ただ強くなるため、鍛えまくった俺の力をみろ!」
「よし行けえぃ! その力。ワシに見せてみろ!」
俺はまた岩の前に立つ。毎日毎日訓練して、毎日毎日殴り続けた岩は、流石に窪みが出来始めているが、俺は今日この岩を木っ端微塵に吹き飛ばすつもりだ。
「すううぅ……はぁああぁっ」
先ずは深呼吸から吐くと同時に、闘気を全身に纏わせる。
次に腰を深く落として、拳を低く構える。
そこから全身に纏った闘気を片手拳に全て移し、さらに集中する。
「行くぜ! せいやあああぁっ!!」
気合いの大声を上げで、拳に纏わせた闘気をさらに増幅させ、最後まで増幅させながら拳を打ち出す!
俺の拳は岩の面にぶつかれば、ドンッという鈍い音を響かせ、岩を殴った衝撃は周囲に波として発散。
「うおおおあああああ!!」
最後は岩に拳をぶつけるだけでなく、拳を振り切るイメージで、全体重を拳に乗せれば、遂に岩にヒビが入り、それは放射状へ伸び、そして破壊。
岩は巨大なゴロゴロとした瓦礫と化し、一気に崩壊する。
「……! よ、よっしゃああああああ!!」
「おぉ……遂にやりおったか! よくぞやったファウスト! 五年間も鍛えまくった賜じゃのぉ!」
「へへっ、あぁ。拳って最高だな! 武器も魔力も必要無くて……知識も必要無い! ははははは!」
俺は一つの拳で岩を破壊した事にめちゃくちゃ喜んだ。
正に素手こそ最強。俺はそう確信した。
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