第38話 魔眼炸裂! モーダント家の絆
「死んでもらうだと? 笑わせるな。魔王の討伐が先だろうが」
「それはキミの事情だろう?」
イツキは嘲笑った。
ルザノスの返り血がついた手を振り払う。
「ボクにとって、魔王も悪役貴族も変わらない。悪の根源という点においてはね。優先順位はない。キミが魔王に殺されれば、手間が省けて助かるくらいだ」
もっともな話だ。
立場が違ければ考えも違う。
正義と悪という真逆の存在なら、なおさらだ。
「しかし魔王を倒さないと被害が広がる。お前の正義はどうなる? 兵士を見殺しにしてまで、俺を殺したい気持ちを優先するのか?」
さすがのイツキも反論につまったらしい。
「……キミを放っておいては、いつ虐殺がされるかもわからない」
「あくまでイツキの想像にすぎんだろう?」
「一理あるね。不本意だがここは組むとしよう」
一時休戦。
魔王を殺すことが第一だ。
「いったん組むだけだ。魔王を仕留めるのは俺だ。
「それはボクのセリフだ」
勇者は構えた。
「お前は魔法を無効化できる。ゆえに防御を任せる。いいな?」
「ああ。ボクにとって最善の動きをするよ」
従ってもらえない前提で動いた方がよさそうだ。
そもそも敵だからな。
いずれにせよ倒せれば構わない。
「いくぞ」
爆発させたうえに勇者によるトドメが入り、さすがにルザノスも息絶えた。
ルザノスの体が魔王に取り込まれたのがその証左だ。
魔王は死んだ魔獣の力を吸収して強くなる。
魔王を先に倒せばよい、と反論されそうだな。
ただ、四天王や竜が壁となり厄介だったのは紛れもない。
各個撃破がよいと判断したのだ。
デメリットのない選択などない。
勇者が加勢したことでプラスマイナスはゼロになったはずだ。
よしとしよう。
「やるではないか……だが、四天王と竜の力を手に入れた私に勝てるかな?」
魔王の体に変化が生じた。
立派な羽が生え、ツノが伸び、竜のような顔となる。
体は巨大化し、見た目は四天王と竜のキメラのようだった。
「そもそも四天王たちは私だった。力を分け与え、能力を特化させ、四人の魔物とした。であるから、能力の使い方は作り手である私が熟知している」
翼を上下させ、宙に浮く。
竜ほど華麗ではないし、高く飛べてもいない。
あくまで劣化能力だった。
「私はすべての能力を極めているわけではない。しかし、手札は多いのだよ」
魔王は右手を広げると、紫がかった黒い球を生成し始めた。
「……ダークボール」
いって、射出した。
単なる拳サイズの球だったはずが、分裂を分裂を重ねる。
狙いは俺たちのようだった。
「イツキ!」
「わかっているさ」
イツキが注意をひく。
半分ほどは奴のところに向かった。
お得意の無効化魔法を、イツキは発動する。
ダークボールは見事に消失した。
さすがでたらめな能力である。
感心している場合ではない。
残りの半分は俺たちを狙っている。
「失せろ」
魔力の壁を作って防ぐ。
それぞれ魔力の扱いには慣れっこだ。
直に受けるような者はいない。
「しかし、大きさの割には重い一撃だった」
シャーリーたちも納得のご様子だった。
バルスはそれほどでもなかったらしい。
「大きさだけが強さではないのだよ」
今度は羽を素早く振って風を送る。
風は刃となって飛んでくる。
さらに先ほどのダークボールもやってくる。
加えて、合間を縫うように光線までもが放射された。
「やってくれる!」
魔王には、こちらに攻撃をさせようという考えはないらしい。
やはり防御するので手一杯である。
「奥の手をを使うか、アネット」
「いま使わずにいつ使うっていうの!?」
「オーケー、いまだな」
アネットの【縮地】である。
瞬間移動ができる優れもの。
だが、そう何度もバシバシやれるものではない。
一度使えばしばらくダメになる。
いまはブレイクスルーを求めている。
ある程度のリスクは許容するほかない。
「俺に任せろ」
「いや私もいく」
「父様もいかれるのですか?」
「なんだ、『魔王なら俺でも倒せる。父様には役不足だ』とでも?」
答えは否である。
俺ひとりで楽々魔王を倒せるなら、もう魔王はこの世にいない。
厳しい相手だからこそ、奥の手まで必要なのだ。
「いえ。では、父様も一緒にお願いできますか」
「当然。私がら始まった因縁だ。お前らだけに背負わせるのは筋が通らん」
話は決まった。
アネットはこの意見に同意し、俺とバルス・モーダントに【縮地】が使われることが確定した。
「頼むぞ」
「私を誰だと思ってるの?」
「……王国で最高の古代魔法オタクだ」
「わかってるじゃない! いくわよ!」
この間にも攻撃は迫ってくる。
勇者のイツキがいい動きを見せてくれるおかげで、被害はすくない。
腹立たしいが、この作戦を実行するうえではありがたい存在だ。
モーダント親子が抜ければ、当然守りに穴ができる。
穴を埋められるだけの実力を、イツキは持っていた。
「【縮地】!」
魔法の濁流を完全に無視して、距離を殺す。
視界が歪み、真っ黒になる無があって、また歪む。
魔王の目の前に、投げ出された。
文字通り、投げ出されただけだ。
そこから即座に状況を判断し、体勢をとらねばならない。
実に距離は一メートルを切っていた。
「直接決めるぞ息子!」
「わかっているさ父様!」
突然の肉薄に、魔王も驚嘆を禁じえなかった。
事態の把握からタイムロスが生まれた。
その間、コンマ数秒であろう。
短くとも時間を奪えればこちらのものだった。
隙をつくことが可能になる。
体の中では、膨大な魔力が渦巻いている。
「勇者イツキ、お前が俺を苛立たせてくれたおかげだ……」
勇者が魔王と戦う。
そこに正義の正義たる姿を見出した。
すると、俺の中のデクスター・モーダントが顔をのぞかせた。
【悪の帝王】、である。
「モーダントは悪の道を征くもの――たぎる力は悪を滅する」
「悪をもって悪を制す。それが我らの征く修羅の道」
「地獄で待っていろ……魔王!」
バルスが叫んだ。
指先に、魔力をすべて集中させる。
俺が貫かんとするのは心臓。
バルスの目指すは脳天。
速度と鋭さと魔力の濃度。
集中させた攻撃を直接ねじこめば、魔王とて逃れられまい。
そして――。
「【蒼穹の魔眼】」
俺の瞳が魔王の両眼を捉えた。
死ね、という単純な命令を下す。
遠距離でも死を導く必殺の奥義が、決まった。
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