第31話 魔眼、開眼
魔王領侵攻の作戦は失敗に終わった。
圧倒的な力の前にひれ伏すことしかできなかった。
それでも、四天王のうち三人も倒せたのは大きな戦果であった。
侵攻から二週間が経つ。
ここまでの行動を振り返ろう。
帰還後。
モーダント家の主導とはいえ、勝手に敵国に侵入したことをスルーされるわけにはいかなかった。
「身勝手な行動は許されがたい。
が、四天王を三人討伐した功績は無視できない。
よってモーダント家にはしかるべき恩賞が与えられよう」
それが、議会で出た結論だった。
先に裏から手を回した成果である。
公にやるとはいっていないが、まったく知らせずにやったわけじゃない。
反対意見を、傘下に入れた勢力で封じ込める。
これぞ悪役貴族の特権だ。
むろん、黙っていなかった奴もいた。
「なんたる失策! この逆賊め!」
大声があがった。
それは、会議のあとのことである。
人通りのすくない路地でそいつは襲いかかってきた。
正義感に駆られた、覚悟の据わった眼差しで真っ直ぐ向かってくる。
両手でナイフを握っている。
狙いは俺らしい。
錬成した魔力を刃先に込めていた。
「覚悟!」
捨て身で挑んできたが、無駄である。
俺を消すことが正義――そう考えるのは【闇の帝王】の前では逆効果だった。
魔王領同様、魔力がぐっと湧き上がる。
この程度であれば、徒手空拳で問題ない。
「甘いな」
左手で素早く手刀を繰り出す、
目にも留まらぬ速さで、襲撃者の両手首は吹き飛んだ。
苦痛に悶えるまでもなく、連続で突いた。
吹き出る血を指にとり、そいつの近くにあった壁にメッセージを記しておいた。
『君たちの賢明な判断を祈る』
あえて相手の命を奪う真似はしなかった。
回復ポーションなるものを適度に振りかけておく。
反対勢力に、奴の口からも恐怖を植え付けるのだ。
我ながら邪悪だ。
しかし、これでわかるだろう。
モーダント家がさらなる脅威と化していることが。
帰宅後、襲撃者の件を伝えた。
もちろん驚かれたが、
「デクスター様には取るに足らぬ敵でしょう」
シャーリーが断言した。
刃傷沙汰だったが、あれは正当防衛であったし、デクスター陣営の力で大事には至らないだろうとまとまった。
この件はそこで途切れ、話題は魔王領戦の反省に移った。
「……最強にはほど遠かったな」
「魔王戦まで持ち込めたのは前代未聞。誇っていいよ」
「ありがとう。褒められたと思っておこう」
ここに来て半年も経っていない。
そんなペーペーが、生を享けてから何百年にもなる魔王に勝とうとすること自体、無謀の極みだ。
褒めるに値することではあるが、かといって慢心してはいけない。
悪の道に果てはない。
極め続けねばならないのだ。
俺がモーダント家のデクスターである限り。
まだ足りない。
そんな思いが渦巻く。
「考えたくないけど、魔王はまだ戦いが終わってないとみなしているはず」
「いずれ俺たちの元へ駆けつけると」
「魔王ならやりかねない。そのうち必ず駆けつける」
恐れを含みながらも、確信をもったひと言だった。
「国を巻き込んだ戦いが始まるのかしら」
「魔王がその気なら。私たちが勝てば問題ないけど」
「簡単に勝てないのが問題なんです、フレデリカ」
絶望的なまでに強いのはわかっている。
それでも、魔王領を攻めた俺たちが責任を負わねばならない。
マッチポンプ的なきらいがあるが、勝てばモーダントの勇名はさらに広がる。
なにがなんでも勝つしかない。
魔王に勝てば、勇者の討伐も夢ではない。
「強さに限界はない。限界を作るのはいつも我々の方だ。勝つために、新たな戦術を構築するまで。必ず勝つぞ、魔王に」
「「「承知しました、デクスター様」」」
大見得を張った。
実現するしかない状況である。
頭を使うほかない。
「今回はここまでにしておこう。各自、戻るように」
話し合いを終えて、解散とした。
「うーん」
自室に戻った俺は、新技シンキングタイムに入った。
無属性魔法の探求はむろん必要である。
ただ、今回求めるのはブレイクスルー。
突き抜ける勢いが求められる。
まったく手をつけてこなかった領域に踏み込みたい。
「未知の領域、か」
大概のことは手元の無属性魔法が解決してくれるからな。
便利すぎるものにはつい頼ってしまう。
元・現代人の悲しき
「わかんねえな」
考えても埒があかないので、椅子に座って舟を漕ぐ。
あてもなく視線を走らせると、俺がいた。
鏡があったのだ。
ここに来てデクスターの顔を確認した、あの鏡だ。
映るのは、より邪悪さを増した異世界人フェイス。
自分でいうのもなんだが、蒼き瞳が美しさを増している。
他人を魅了させるように、瞳が光を放つ。
「ん?」
思い返す。
一時期、俺は瞳が光ることに対し、
「魔眼みたいじゃん。厨二の心がうずくね」
とワクワクしていた。
そして、ついぞその効用を試すことなく、放置したままになっていた。
ステータスにも反映されないし、ただのお洒落かと思い込んでいた。
「そうだ、魔眼残ってるじゃん!」
天啓が降りた。
自らの手で閉ざした選択肢を、自らの手で解放した。
気づいてしまえば、もうその後は決まっている。
ひたすら検証だ。
鏡を活かしつつ、効能を調べる。
ついにはアネットから実験魔獣なるものを調達し、彼らには尊い犠牲となってもらった。
かくして、この日は徹夜で能力検証に明け暮れた。
そして実証結果が出た。
能力を行使したためか、ステータスにも魔眼の内容は反映されていた。
――――――――――
スキル:
【蒼穹の射手】
使用を重ねていくことで成長する魔眼。
蒼い光を両目から放ち、それを見たものを萎縮させる。
使う相手や強化の仕方によっては、命を奪うこともできる。
相手の意識を操作することも条件によっては可能。
優秀な能力である分、魔力と体力の消費が激しい。
使いすぎは命に関わる。
――――――――――
かなり万能スキルだったらしい。
代償は他にもきっとあるのだろうが、流れを変える一手になりえる。
他にも開拓できそうな能力がないか思案しつつも、【蒼穹の射手】の強化に意識を傾けた。
――――――――
あとがき
更新が滞りすみません。
週3回(!)にも及ぶ模試で体が終わり、なぜか執筆用のキーボードも壊れまして踏んだり蹴ったりです。
戯言は以上です。本日から再開します。
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