第29話 激闘、魔王軍
魔王軍の四天王、リオグランデと遭遇したのは侵攻開始から一週間が経過したときのことだ。
「魔物の肉って割合食べれるものだな」
「どれもこれも私の準備が功を奏しただけです」
すっかり魔王領での暮らしに慣れていた。
火をおこし、魔物の肉を
そこにシャーリーの特製調味料をひと振りすると。生臭い魔物の肉が絶品に変わるのだ。
「いっそ魔王領に永住するのもありかもしれないな」
「私も半分くらい賛成かしら。そろそろ家の研究所が恋しくなってきたもの」
「やっぱり永住は過言だったな。家も恋しいな」
私はここが故郷だから逆に落ち着くかも、とフレデリカはこぼした。
「しかし、まるで魔王軍の反応がありませんね。どうしたものでしょうか」
それまでの五日間は、順調にもほどがあった、
魔王軍からの刺客を送られるようなことはなく、そこにいた魔物を倒しただけ。
どれも人間の言葉は通じなかった。
フレデリカいわく、人間の言葉を使えるのはほんのひと握りであるという。
使えるものはおしなべて強い。
「そろそろ人間の言葉を使えるくらいの相手に遭遇してもいいかもしれん……なんてな」
打ち立てたフラグはきちんと回収されることとなった。
焚き火を囲んで肉を食ってから、およそ数時間後のことである。
夜のとばりが降り、空は陰鬱さを増していた。
リオグランデは空からやってきた。
魔王領は夜でもそこそこ明るい。
ゆえに、姿を捉えるのは難しくなかった。
「俺たちの方に迫ってくるぞ。臨戦体制だ」
手にとっていた肉を、無理くり喉に押し込む。
シャーリーは諦め、フレデリカは焚き火の中に捨て、アネットは意地でも食べた。
「食ラエ、人間風情!」
悪魔と呼ぶにふさわしい異形が、鉤爪を立たせたまま急降下してくる。
狙いはもちろん俺たちだ。
すかさず走って距離をとる。
「なんてスピード! めちゃくちゃよ!」
アネットがぼやくやいなや、彼女の髪の一部が宙を舞った。
鉤爪が髪を捉えたのだ。
「やりやがったわね、女子の生命線を」
攻撃が入るのはまずい。
次の進路を高速で予測。
「初対面にしては無礼すぎやしないか?」
相手の動きが止まった――否、止めた。
そいつの腕に、生成した魔力の壁をぶつけて力を相殺したのだ。
衝撃波が広がった――。
「侵入者ヨ、コレ以上ノ暴虐ハ許サン」
風が止むと、そいつはいった。
敵はすでにバックステップをしており、距離ができている。
互いに構え、次の行動に備えている。
「誰だ、お前は。人語を喋っているとは、さぞかし強い魔物のようだが」
「リオグランデ。魔王ニ仕エシ四天王ダ」
四天王か。
なかなかの大物が登場らしい。
最初からクライマックスみたいだが、魔王領での立ち位置を測るのにはもってこいの相手だ。
全力でかかろう。
「どうして四天王様が私たちをお出迎えしてくれのかしら」
「貴様ラハ魔王領ニ住ム者ヲ殺シスギタ」
「だから、私たちを殺すってこと?」
リオグランデはうなずいた。
「当然デアロウ」
「だろうとは思っていた。しかし、むざむざと殺されるわけにもいかない。あんたの提案は拒否させてもらう」
「……交渉決裂。覚悟シロ」
瞬く間に攻撃が繰り出される。
小手先の魔法に頼らない肉弾戦である。
魔王領特有の、並外れた魔力量がものをいう。
クロー、キック、拳……どれをとっても、重みが桁違いだ。
四人に分散されているとはいえ、一回の攻撃が確実に刺さってしまっている。
「ソノ程度カ、人間」
「いいや、まだだ」
間断なき攻撃は、防御以外の選択をさせる余地を与えていないように見えた。
が、そのスピードにはもう慣れた。
辺境伯の騎士の方が速かったかもしれない。
「クッ!」
反撃に出る。
単に魔力をぶつけるだけのものは、さして意味がなかった。
魔法の糸をはじめとした、捻った魔法で戦いにいく。
「アネット、新技」
「いわれずともわかるわよ、フレデリカ。あなたの目線で察したわ」
フレデリカが糸を発動したタイミングで、アネットも動く。
「【縮地】!」
彼女の転移魔法は、人間以外も対象になる。
それは魔法も例外ではなかった。
フレデリカの放った糸がリオグランデに届くまでの時間、それを短縮させる。
原理は【瞬間移動】と似たようなものだ。
あまりの速さに、リオグランデとて対応しきれなかった。
なにせ、気づいたら魔法が目の前に迫っているのだ。
「……フザケタ真似ヲ」
糸が深々と刺さり、行動が鈍くなる。
リオグランデはかろうじて脱出を試みていたが、決定打であったことは否定できなかった。
流れはこちらのものとなった。
「あとは任せたわ!」
アネットは戦線から離れる。
そう、【縮地】はバコバコ打てる代物ではなのである。
さきほどの技は、一種の切り札だったのだ。
「了解だ」
「承知しました」
鍛え上げられた肉体は、魔法や打撃を加えてもすぐには弱らなかった。
ただ、いずれにせよあちらはジリ貧だった。
何度か強力な魔法を放ってきたが、それによって着実に魔力は減っていた。
地面にクレーターがボコボコできたぐらいの技だったからな。
反動で次第に鈍さが増すのも当然といえる。
「これで最後!」
何度目の攻撃だったろうか。
魔法が当たると、リオグランデはようやく戦闘不能となった。
実に長期戦だった。
これまでの中で一番厄介な相手であったこと疑いえない。
「倒したな」
「ええ……ハァ……デクスター、様」
「まさか、倒せるなんて、ね」
どうもフレデリカには予想外の結果だったらしい。
ともかく、疲れた。
魔力があたりに満ち溢れているから割合どうにかなっているが、体が重かった。
「これが四天王級か……さすがは魔王領。骨がありすぎるってもんだ」
しばらくすると、リオグランデは全身が砂のように溶けて消失した。
「デクスター、まだ戦うつもり?」
予定としては、四天王くらいサクサク倒しているはずだった。
だから、アネットの新技を使おう計画を実践に移した。
現実はどうだ。
地味に消耗が激しい。
他の四天王と戦えそうにない。
「そうだな、これ以上の敵と戦うのは時期尚早かもしれん。洞窟に戻り、アネットの回復を待って王国へ……」
しかし、現実は非常だ。
「奴は四天王の中でも最弱……侵入者よ、我らが相手となろう」
空から声が聞こえる。
……おいおい話が違うじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます