第26話 王国の無能貴族めが!

「こんな都合のいい話があるか! くそっ!」

「まさか逃げられるとは。それに、追跡ルートまでわからないのは驚きを隠せませんね」


 逃げることも戦略や戦術に含まれるのだろうが、卑怯だろうが。

 正々堂々戦ってほしかった。

 そうはいえど、ピンチに追い込まれて能力が覚醒するとか、めちゃくちゃ主人公っぽい。


 主人公補正が羨ましすぎて、嫉妬の炎が俺の全身を瞬時に焼き尽くしそうな勢いである。


「ねぇ、今後も追跡を続けるの?」

「うぬ……」


 悩ましいところだ。

 出会っても逃げられてしまえば無駄足もいいところ。

 探すのが大変であるから、今回のように労力に見合わない結果が待ち受けている恐れが非常にある。


「別に続けなくてもいいんじゃない? それだけが目的じゃないのでしょう」

「だな、フレデリカ。イツキの捜索と戦闘だけで飯を食べているわけではないしな」

「手を引くってことでいいのかしら?」


 この意見は、賛成多数で可決された。

 また出会ったときに完膚なきまでに潰してやろう。

 その思いを胸に抱き、この件は保留ということになった。


「さて、戻るとするか……ん?」


 戦場となった周辺を見渡すと、太陽を照り返しているものが目に入った。

 手に取ると、それが指輪だと判明した。


「イツキがつけていたものだろうな」

「そのようですね」

「回収しておくか?」

「よい策だと思います」


 指輪は改修となった。

 緑色の宝石がはめ込まれたものであり、強い魔力を中に秘めた逸品である。

 罠がありそうなので、つけることはやめておいた。


 そもそも、誰もつけたがらなかっただけなのだが……。



 ここまでは順調だったが、いざ帰ろうと思った矢先に雲行きが変わった。

 面倒な後始末が待ち受けていたのだ。


「君たち、さきほど例の男と戦っていたらしいな」

「……」

「違うとはいわせない。この目で確かに見た。嘘をつくなら、国王の名の下で死んでもらう未来が待ち受けているが、どうだ?」

「そうだ、残念ながらな」


 王国の関係者、その中でもお偉方に見つかってしまった。

 あいつらは、国家の危機に関わる一件として、原作主人公ことイツキの事情を知りたがっていたのだ。

 俺たち四人は残念ながら王城の近くまで連行されて事情聴取と相成った。


 これにかなり時間を食われた。

 俺たちの知りえないことまで穿鑿せんさくされるのは、いうまでもなく不愉快の極みであった。

 ようやく解放されたかと思うと、今度は貴族による会議に強制参加。


 シャーリーらは参加できず、俺だけがその犠牲になった。


「我々の座を脅かす下衆など、すぐさま消さねばならん」

「戦っておきながら首を手土産に持ってこないなど、なんたる恥さらしか!」

「さらに捜索体制を強化すべきであろう」


 このような、己の特権を守ろうと必死こいている様子が見受けられて非常に不愉快だった。

 ネチネチ俺らを責めないでくれ。

 あと、この問題ばかりに目を向けてる場合じゃないだろ。


「どうも帝国の動きが不穏であるが、それよりも国内の心配をなくすことが先決。対外問題など後回しで問題なかろう」

「その通りだ!」

「よくいった!」


 こんな調子で盛り上がっちゃうから、国防についてはほとんどノータッチ。

 国王さんもこの問題はさほど危険視せずにいるらしい。

 本当にまずいな。


 かの帝国が不穏とか不安しかない。

 他の貴族がアレだから、頼れるのは自分たちだけ。

 俺の力で帝国の精鋭に対処できるかって話だ。


 してみると、もし帝国が攻めるようなことがあれば。

 原作主人公イツキ君の力を借りざるをえないかもしれない。

 戦争となれば、正義感を振りかざしてくれそうだ。


「……そういうわけだ」

「ひどい会議でしたね」


 会議が終わって、デクスター邸についてから一部始終を語った。

 取り調べから始まり、いつの間にか日が暮れてしまっている。

 本来なら明るい時間に帰ってこれたはずなのに……。


「出る意味なそうに聞こえるのだけれど?」

「強制参加だからやむなしだったんだ」


 いずれにしても、俺たちに求められているのはやはり圧倒的な強さである。

 実力の底上げとして、魔王領の侵攻は欠かせないだろう。

 対外問題や原作主人公に気を向けつつも、そろそろ本格的に取り掛かろう。


「魔王領、いくか」

「いつ行くんですか」

「今だろ……いや、もうすこし後だ。そう遠くない未来にするのは確かだが」

「私も賛成だわ。強くなるに越したことはないものね」

「いいと思う。だけど、状況によって計画に手を加えないといけないかな」


 フレデリカは魔王領についての情報に長けている。

 侵攻に適したスケジュールに、彼女の情報網を駆使して微調整を加えて最終版を出していく。

 この案件に関していえば、フレデリカの活躍は計り知れないものがある。


「私も調査と組織への連絡とがあるから、正式な日程は追って伝えようと思う」

「非常に助かる」

「私は強さを求めているだけ。褒められるようなことはしてない」


 アネットのようなツンデレはなく、単に冷たいと感じるのは性格の違いから来るものなのだろうか。

 黙っていても美しさはあるフレデリカである。

 よく考えると女性陣には美貌が集っているよな。


 可愛いは正義だというらしい。

 悪の組織ではあるが、正義がいっぱいである!


「ところで、魔王領にいるのって魔獣ばかりだよな」

「うん」

「人間みたいな奴はいるのか?」

「いる。でも、そういうのは大概の場合、めちゃくちゃ強い。魔人と呼ばれたりするのは、とんでもないレベル」


 なるほどな、と俺は返した。

 曰く、魔神の実力は相当なものであり、無闇に戦う相手ではないという。

 イツキの何倍、何十倍というレベルらしい。


 さすがに無茶な相手すぎるから、すぐに挑むつもりはない。

 とはいえ、いつかは倒さねばならない敵であろう。

 俺がたとえ魔法がある程度強いからといって、楽々最強を語れるほどこの世界は甘くない。


「まずは弱小レベルから確実に倒していくしかないな」

「デクスター様なら、きっとその程度なら眼中にないはずです」


 俺はうんうんと首を縦に振った。


「褒められるのは嬉しいが、実力もわからぬ相手に油断できるほど、俺は強くない」

「失礼しました。この取るにも足らぬ弱小魔法使い、とお呼びした方がよかったですか?」

「極端だな」


 今度こそ魔王領侵攻が始まる。

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