第20話 魔王領侵略の計画

 フレデリカが仲間になった。

 そのため、俺たち四人の男女比は脅威の1:3と相成った。

 いつの間にか女性陣ばかりを引き入れていたようだ。


「どうしてこうなったんだろう……」


 フレデリカは自分の選択に疑念を抱き始めているようだ。

 俺が説得していたとき、強力なオーラを地味に顕現させており、精神にやや介入していた。

 半ば洗脳に近いものかもしれない。


 狡猾なやり方と非難されるかもしれないが、俺は悪役貴族なのだ。

 結果さえ出せば、過程など関係ないのだ!

 都合のよい解釈にもほどがある。


「別に嫌なら三日後から敵に戻るだけなんだ。そう思い悩むこともあるまい」

「こうやって純粋な少女はよくない男に引っ掛かるのかな」

「よくない男で申し訳なかったな。しかし俺はこういう男だ」

「……」

「黙らないでもらえるだろうか」


 不満は示しつつも、フレデリカは仲間になったことを認めようと努めた。

 彼女は数時間もすると心を入れ替えたようにこちら側の人間となっていた。

 しばしの雑談は、この洋館の薄気味悪さを忘れさせた。


「あなたたち、なかなか面白いね」

「そういっていただけると光栄、かもしれません」

「なぜかしら、私を誘拐した人物だと思えなくなっている自分がいるわ」

「どうして俺たちって対立したんだろうな」


 あまりにも早い馴染みぶりに、俺を含め驚きを禁じえなかっただろう。

 欠けていたピースがぴったりはまったかのようである。


「次の目標、魔王領への侵攻でいいの」

「そのつもりではいる。上の方針と擦り合わせも必要だろうが」


 つい話し込んでしまったが、すぐにバルス・モーダントに現在の状況を伝えなければいけない。

 そもそもアネットが命の危機に瀕していたわけだ。

 フレデリカが仲間になったことも伝えねば。


「とりあえず、戻りましょうか」

「そうだな、シャーリー。アネットとフレデリカは高速で移動できるか?」

「あなたって生粋のお馬鹿さんなのかしら? 私の魔法があるじゃない」


 アネットの特異な魔法、【縮地】。

 触れたモノ・人を任意の場所へ転移させる魔法である。


「完全に忘れるところだったな」

「私の存在意義をなくすつもりかしら」

「アネットから転移魔法を奪ったら……なるほど」

「納得されると傷つくかも!?」


 長い時間をかけて【縮地】の術式を組み立てる。

 視界が歪むと、目の前にはモーダント家があった。


「そういえば、アネットが拘束されてたときは、【縮地】を使えなかったのか?」

「ええ。なぜか思うように魔力を使えなかったの」


 むろん、使えていたならわざわざ助けることもなかったが……。


「フレデリカ、いったいなにをしていたんだ?」

「それは秘密。私たちは元々敵で、いまは単なるお試し期間。すべてを教えるわけにはいかない」

「そこは気にするんだな」


 結局、どうやって魔法を封じていたのかはわからなかった。

 フレデリカの切り札的な存在なのだろう。

 しかし、それが魔法無効化の能力であれば強すぎるというものだ。


 なにかしらの弱点がない限り、余裕で天下を取れるだろうな。


「みなさん、私はバルス様に報告にいきます。しばしお待ちください」


 シャーリーは駆け出し、ふわりと髪を揺らした。

 敵を無断で敷地に入れることを、バルス・モーダントが拒むかもしれないという配慮から、俺たちは外で待つことになった。


 ややあって、シャーリーは戻った。

 フレデリカの存在は、少々警戒されはしたものの、アネット同様に認められた。


「もし下手な真似をしようとすれば、命はないと思え――そうおっしゃっていました」


 バルス・モーダントの実力は未知数だ。

 ゲーム内ではデクスターがメインで出ていたし、直接対決のシーンもなかった。

 正直なところ、実際に戦ってみないと判然としないところがある。


 とはいえ、超強いことは紛れもなかろう。

 人脈の広さは底が知れない。

 ほとんど部屋から出てこないで、シャーリーにしか会わないあたり強者感が凄まじいね!


 主観でしかないな。


「フレデリカ、わかっているよな」

「始めから裏切るつもりなら、そもそも仲間になろうとなんて思わないから」

「間者という立ち位置が、敵を知るには最適だというわよ……これは単なるひとり言に過ぎないのだけれど」

「……警戒されないよう気をつける」


 フレデリカはやや不機嫌そうにつぶやいた。


 無事に部屋に上がった俺たちは、フレデリカからの情報収集タイムに突入した。

 バルスが魔王領への侵略に賛成したため、俺たちは正式に動けることとなった。


「魔王領は、魔境だから」


 手始めに、フレデリカは魔王領の恐ろしさを語った。


 魔王領は、王国や帝国を遥かに上回るほどの濃度を誇る魔力が充満している。

 当然、より強力な魔獣が生まれ、より強力な魔法が編み出される。

 一筋縄ではいかない敵ばかりが潜んでいる。


 また、人間のルールが通用しない。

 理不尽に胃の胃を奪われることも考えねばならないほど、治安が悪い。

 地獄のような街に踏み入れる覚悟があるのか、そこをフレデリカは気にしていた。


「魔王領に入れば、俺たちの魔法も強くなるはずだよな?」

「強くなるよ。ただ、魔王領の魔力に慣れているかどうかが、魔法の精度を左右するから」


 いずれにしても、なるたけ魔法の精度を向上させねばいけないことに変わりはない。


「そもそも、魔王領に入るには通行証が必要。私は持っているけど、裏切り者として身分を隠して入ることはできない」

「……偽の通行証が必要なのね」

「私はそういったことに精通していますが、すぐに作るのは難しそうですね」


 さまざまな事情を考慮した結果、魔王領侵攻はやや先の日程に延期された。

 遠足感覚の軽い気持ちで行ける場所ではないということである。


「でも、計画を練るに越したことはないと思うよ」

「もうすこし考えるか」


 かくして、魔王領のスペシャリスト監修のもと、侵攻の計画が立てられた。

 よくよく考えれば、王国や帝国の混乱もある。

 あくまでこれは余興のようなものである。


 話し合いは想定より短い時間で終わった。


「では、本日はこのくらいにしておきまそしょうか」

「ハッ! 私、古代魔法の研究、きょうはなにもやってなかったわッ!」


 アネットの補足情報によると、どうも探すべき資料もあるらしい。

 例の危険な文書だろうかね。

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