第16話 女暗殺者は糸と踊る
俺の頬を、生暖かい液体が
「これは、糸か?」
光の反射で見え方が変わり、透き通った細い糸を視認できた。
対策せずに上の階に行っていたら、俺たちは今ごろ、肉塊と化していたのかもしれない。
危ういところだった。
「こんな糸、デクスター様と私の敵ではないでしょう!」
シャーリーが炎魔法を発動し、糸をことごとく焼き払おうとする。
魔法は糸を捉えたが、焼けきれはしなかった。
そして、糸が意思を持っているかのごとく動き出した。
「ただの糸じゃない、魔法らしいな」
何本も束ね、太くなった糸が迫る。
触手のように伸び縮みし、俺たちを殺しにかかろうとする。
「せっかく出向いたというのに、対話すらしてくれないのか」
不幸なことに、やはり罠だったということだろう。
逆転の発想を強いるとすれば、予想の範囲内で事が進んでくれているということだ。
心の準備はできていた。
「崩れろ!」
無属性魔法を使う。
目には目を、糸には糸を。
こちらも、相手と同じ戦法を使って戦う。
「くっ」
見えない糸と見える糸が重なり合う。
あちらの方が圧倒的に強度が上である。
対抗手段とはなりえないようだった。
「お前の本気はその程度か」
「まだだ」
迫りくる糸に、別の魔法で防ごうとする。
糸の本数は増え、動きも複雑だ。
攻撃を避けるのが精一杯で、反撃を食らわせることができていない。
そんな中でも、着実に敵のいるであろう場所まで迫る。
半ば無理やりだ。
だが、進まないことには始まらなかった。
「嫌な人……でも、かなりの実力者と見た。お遊びはここまで」
糸が止まる。
するすると二階の扉の方へ吸われていくように。
視線で追うと、ちょうど部屋の主が外へ出るのが見えた。
「女性、なのか?」
それは細身で背の低い女性であった。
女の子といった方が近いような幼さが残っていて、可愛らしい。
紫がかった白髪の持ち主であり、戦闘に特化した服装である。
「そう……私が、アネット・レズリーを誘拐した張本人――フレデリカ」
虚な目と力の抜けた口調は、魂が抜けているかのようであった。
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