第7話 命の危機! ヤンデレメイドのシャーリー!
シャーリーは完全に正気を失っていた。
こんなシャーリー、ゲームで見たことは一度もないね。
それをいえば、魔力変態という属性も、アネット・シャーリーの隠された一面だったといえるだろう。
閑話休題。
「つまりだな――」
シャーリーと別れてからの一部始終を話す。
俺が話しているとき、シャーリーは一瞬たりとも俺から目線を外さなかった。
ガチでビクビクしながら語った。
「なるほど。しかしデクスター様、地下の密室で数時間というのがいささか気になります。なぜそんな場所だったのでしょうか?」
「だって、そこに古代魔法の研究成果が詰まってい――」
一本のナイフが高速で射出された。
髪をすかれることなく、今度は頬のすれすれを通り過ぎた。
「私が質問したのはあなたではなく、デクスター様です。わかりますか?」
「……」
強い殺気を帯びているし、言葉もきつい。
アネットもシュンとしちゃったようだ。
「抵抗する間もなく転移させられた。防ぎようがなかった」
「デクスター様が対応できない魔法など、存在するというのですか?」
「古代魔法だ」
「古代魔法、ですか」
「そうだな――」
シャーリーに説明していく。
古代魔法は、現在の魔法――現代魔法と呼ぶことにする――が成立するより前に使われていた魔法だ。
その昔、魔法を使える者は限られていた。
そして、いままで以上に絶大な威力と効果を誇っていたとされている。
第一に魔法使用者のすくなさ。
このために、魔力が濃厚であり魔法の威力は自然と高かった。
ただ、昔の文献を頼りにして推測した結果であるから、誇張や執筆者の主観が入って、実際のところはどうだったか曖昧なところはある。
第二に原理の違い。
古代魔法は魔力の使い方が違う。
現代魔法は外にある魔力を体の外で操作するが、古代魔法は魔力を体の中で操作する。
もちろん、現代魔法も体の中で魔力の流れを感じるのだが、古代魔法は魔力を時間をかけて体内に吸収してから放つという点において、特異である、
第三に魔法式の複雑さ。
理解しにくい魔導書から時間をかけて学び習得しなければならない。
詠唱は長く文章の暗記が大変で、逆に短いものの場合は複雑怪奇な魔法陣を脳内で素早く正確に思い浮かべなければ発動できない。
デメリットはあるが、時間がかかる分、威力は増す。
古代魔法は威力の面では強力に違いないのだ。
しかし、扱いが難しく、現代魔法よりも習得できるものがすくないために廃れてしまった。
以上が、アネットの受け売りだ。
意外と古代魔法も悪くないものであるらしい。
アネットのせいもあってすこし興味が失せてしまったが。
「そういうわけで、古代魔法への対処は難しい。初見ならまず防げないだろう。というわけで話は終わりだ。さあ中に入ろう」
「古代魔法の凄さは理解しました。ですが、それは私の求める弁解になっていません。注意を逸らしただけじゃないですか」
「うっ」
賢明なメイドは、俺の返事が答えになっていないことなどすぐに察知できたようだ。
一筋縄ではいかない。
味方としてはありがたいが、敵になると厄介なタイプである。
「デクスター様は、脱出しようと試みたのですか?」
「それはだな」
「答えはイエスかノーでお願いします」
「イエス、といえば嘘になる」
「ノーですね?」
「……」
勝ち目のない戦いだった。
いわれてみれば、俺はあそこから逃げようとしなかったんだよな。
「駄目じゃないですか、デクスター様。世の中の女性というのは誰しも凶暴なのです。デクスター様は一生、私だけを見ていればよろしいのです」
「シャーリーさん、もしかしてあなた、デクスターのことが好きなの?」
包み隠さずいけしゃあしゃあといったものだよ、アネット。
「そ、それは違います!
デクスター様がハニートラップに引っ掛かり、貴族としての責務を全うできなくなることを心配しているのであって。
デクスター様に対して私が最大の忠誠を尽くし続けるつもりなので、他の女性よりも私を頼っていたきたいう意味で私は……?」
目がぐるぐる泳ぎ続けている。
シャーリーは、ゲーム内ではデクスターとずっと行動していた。
すくなからず好意を抱いていてもおかしくない。
しかし、その愛が重すぎる予感がありありとしているのだ。
「アネット、このくらいにしておけ」
「残念。気になって仕方ないというのに」
「ああああああああ」
「まずいな、シャーリー。落ち着け。完全に壊れてる」
脳が処理落ちしていらっしゃる。
目が人形の目のごとく虚ろになり、ぴたりと固まった。
俗にいうフリーズ状態である。
地面に倒れた。
ナイフもそれと同時に落下する。
やはり動かない。
「しっかりしろ、シャーリー。気を確かに!」
体を揺さぶっても変化はない。
「このままだと私がデクスターの唇を奪ってしまうのだけれど?」
「アネット、どういうつもりだ?」
「魔力を感じるには激しい接触がもっともいいとされているって古文書に書いてあったの。知的好奇心が刺激されない? いい実践の機会でしょう?」
「冗談よせよ」
「私は本気――」
刹那、シャーリーは「蘇生」する。
立ち上がるやいなや、ナイフを例のフォーメーションで固定。
負の感情をバリバリに乗っけた魔力が展開される。
「その後の言葉によっては、唇ではなく命が奪われますが、よろしいですか?」
「本気……でやるといってやった試しはないわ!!」
「及第点ですね」
ナイフがシャーリーの服の中に戻っていく。
いや、本当に恐ろしすぎるわ!
黙ってれば超絶美人なのに、こんな本性を知ってしまったらせっかくの長所がかすみそうなんですけど?
アネットも例に漏れずそうなのだ。
顔立ちは整っているんだ、顔立ちは。
もったいない、なんとも残念な女性陣である。
「問い詰めるのはもうやめにしましょう。くだらなく思えてきました」
「そうだな」
「私も同感かしら」
「アネット・レズリー、あなたは駄目よ」
「理不尽!?」
話はあやふやになって終わった。
ともかく、アネットは我が家へ入ることを許された。
それからしっかり話し合い、正式にアネットは仲間として認められたのだ!
「……では、これからの予定について話しましょうか」
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