第3話 俺の魔法はかなり強いらしい

 魔獣。 


 その名の通り、魔法を使う獣である。

【皇道を征く】は剣と魔法の世界だ。

 人間だろうと動物だろうと、その多くは魔法を使うことができる。


 魔法は使用者の才能により個人差が大きく出てしまう。

 そこには血筋も関係していて、高貴な一族であるほどより高位な魔法を使える。


「デクスターの魔法ってなんだったかな……」


 悪役貴族、デクスター。

 その魔法がなんであったかを、俺はすぐに思い出すことができなかった。

 なんたって、奴の魔法は隠されていることが多すぎるのだ。


 ファイアボール、ライトニング、ヒーリングetc……。

 そういった名の知れた、想像しやすい魔法であれば使いやすいだろう。


 しかし、デクスターの魔法は違う。

 戦闘となると、いつの間にか敵の首がポトリと落ちていたり、「あいつはただ者じゃない!」という評価を下されたり、そもそも戦闘描写がすくなかったり。


 要するに、「デクスターってめっちゃ強い魔法使うよ!」ということはわかるのだが、肝心の魔法がどういったものか、隠されているのである。


 そういうわけで、魔獣討伐の前に、魔法を試してみることにした。

 原作通り、モーダント家には、地下に魔法の鍛錬をできる場所があった。

 シャーリーに許可をとっているし、ここなら強大な魔法を放っても平気なはずだ。


「さて」


 精神を統一させ、魔力の流れを感じとる。

 身体中を巡る、強大な力が存在感を増す。


 これが魔力というものなのか。

 なんだか全能であるかのように錯覚される。

 楽しいね。


 なんだか視界がぼやけてきた。

 青く透明な光の筋が見える。

 手のひらを目の前にかざすと、両眼が光を放っていることがわかった。


 なんかすごい。

 これがいわゆる魔眼ってやつなのかな? 

 テンションが上がってくる。


 魔力がみなぎってきたし、いざ魔法を発動してみよう。

 何が出来るかはわからない。

 でも、やってみないことには始まらない。


「いけ!」


 右腕を伸ばし、手のひらを広げて魔力を集める。

 そして、一気に解き放つ。


 轟。


 魔法が壁にぶつかり、音を立てた。

 勢いのあまり、風が起こる。

 地面の砂が巻き上げられ、髪がなびく。


 強力ではあるものの、見栄えは地味。

 それでも、現実の理を超越した、未知なる力を使ったことに対する興奮は並々ならぬものがあった。


「すごいね。さすがは剣と魔法の世界」


 初めての魔法発動とはいえども、やけに違和感がない。

 きっと、デクスターの体が魔法を使うという動作を覚えているのだろう。


 一度自転車の乗り方を覚えれば、しばらく乗っていなくとも、すぐに感覚を取り戻せる。

 そう考えるとわかりやすいかもしれない。


 はてさて、魔力は飛ばせたけど、いったいどんな魔法が使えるのだろうか。

 そう考えていると、視界にとある文字列が目に入った。


「これは、いわゆるステータスってやつかな?」


 ――――――――――


 名前:デクスター・モーダント


 ユニークスキル:


【悪の帝王】 


 悪の道に走るよう、価値観が自動修正される。

 善いことをしようとすると、ことごとく酷い目に遭う。

 

 また、清廉潔白な人物とは相容れない関係にあり、敵対関係になることを強いられる。

 悪としての生き方を強制される悲しきユニークスキルである。


 スキル:


【魔力操作】


 無属性魔法。

 純粋な魔力の操作で相手を翻弄する。

 

 魔力を飛ばしたり、宙空での移動を可能にしたり、筋力を向上させたりと、使い道は多岐にわたる。

 ただ、無属性魔法は対策がされやすい魔法であり、使用者の技量が問われる。


【暗黒結界】


 体に霧のような黒いオーラを張り巡らせ、相手の戦意を喪失させる。

 スキルの使用者よりも実力が低いほど効果は高く、逆もまた然り。

 実力者を実力者たらしめるスキルである。


 ――――――――――


 うん。思ったよりもすくない。

 これから増えていく感じなのだろうか。

 

 まず目につくのが【悪の帝王】。

 これはユニークスキルのようだが、名前からして悪役貴族っぽい。


 内容を見るに限り、俺の目標は早くも頓挫してしまったようだ。

 平和に生きていくことは難しそうである。

 スローライフはまだ望みがあるかもしれないが……。


「悪としての生き方を強制される悲しきスキル」っていう説明が説明だよな。

 俺の行動に強い制約がかかるのは確定みたいではないか。

 まあ、実際に試してみて真偽を判定するとしよう。



 次に、無属性魔法【魔力操作】だ。


 使い方次第で可能性は無限に広がるらしい。

 実に面白い。

 地味そうだという欠点を除けば……。


 前向きに考えれば、暗殺にお誂え向き、といったところか。

 原作において、知らないうちに敵の首を飛ばしたのは、【魔力操作】によるものだった。

 そう考えると辻褄が合うからな。



 最後に【暗黒結界】。

 実に厨二心をくすぐられる。

 強者のオーラを、一度は纏ってみたかったものだ。


 たぶん、これは全男子の夢だと思う。

 これがあるおかげで、魔法が地味でも許せるといっても過言ではない。


 そもそも論、悪役貴族って表舞台で派手に動き回っていちゃまずいよな。

 無属性魔法でよかったと思っておこう。


「よしっ、試しに空中浮遊でもしてみるか」


 能力の詳細を確認したところで、実践に移ってみる。

 体が浮かび上がるイメージを鮮明にしていく。

 

 体重、そして重力の感覚が失われていく。

 世の理から外れた事象が実現されようとしている。


 思考はやがて現実となる。

 足が地から離れ、わずかに十数センチほど浮遊した。

 一分も経たないうちに限界がきて、やや体勢を崩して地面に落下した。


「次は【暗黒結界】、と」


 同様にして、イメージに沿って魔力をうまい感じに動かしてやると、見事に黒い霧らしきものが顕現した。


 かくして、俺は自身の魔法を試しまくった。

 体はやり方を記憶していたようで、わりかし短時間で魔法は急激に上達した。

 問題なく魔獣討伐には臨めそうだ。


 もしかすると、俺の魔法はかなり強いのかもしれない。

 そんな傲慢ともいえるような考えが浮かんだ。

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