第8話 始伝
「……あんただって使ってないじゃないか」
「このまま続ければ何事もなく勝利する。それを覆すために使えと言っているんだ。そうしたら、私も使うさ」
ライセンスを持つ者には、それぞれに技がある。
「講習で習っただろう。実技でだって単位があった。そもそも始伝がなければライセンス取得はできなかったはずだが」
「できないわけじゃない。ただ——そう、こういう場面ではどうかと思ったんだ」
「範囲攻撃か」
「似てる。でも、ちょっと違う」
「やってみろよ。友達だろう?」
「それは、なりたかったものだけど、なってみるとどうも違うような気がするね」
「はっはっは。そんなものだよ」
アリスは腰を上げ、構えた。先ほどまでの戦闘が遊びであったとしてもうなずける気迫が、焦げるような臭いとして鼻をひくつかせる。
『始伝使用可能』
「やるぜアリス。もう、逃げないよ」
鎧の肩口にある小型の格納スペースが迫り出す。現れたのは小さなスピーカーだ。
「始伝
スピーカーからはその音量を確かめるように、小さなノイズが流れた。そして人工音声の、いつも許可を求めるあの声が響く。
『マイクチェック、マイクチェック。音量に異常なし』
「な、なんだそれは」
アリスは面食らったのか、怪訝な顔を隠そうともしない。
「私の始伝さ。さあ、よく聴け。不退転の行進曲だ」
壮麗なコーラスの後、いつ聞いても不明瞭な言語が柔らかく響いた。八小節ほどそれが続くと、単調なボイスパーカッションが鼓動のように空気を叩き、そして勇ましい歌声がスピーカーから迸る。
「身体機能と魔力量の増加が能力か」
「正解。だけど、そこは老兵だ、この曲はね、一切の回避行動を禁止するのさ」
アリスの表情は一転し、友人にするような優しげなものではなくなった。回避不能の意味を、彼女はよく理解している。
「文字通りの不退転、か」
「ああ。幸いなことに防御はできる。ここからは、一歩も退けない。この鎧がそれを拒むんだ」
「難儀な技だ」
「本当だよね。でも、実は気に入ってたりして」
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