第6話 真実を突き止めた代償
地下の研究施設で目撃した光景が脳裏にこびりついたまま、菅野と江川は暗闇の中を慎重に歩き続けた。
15分都市の冷たい街灯の下で息を潜め、二人は再び今里が無事に生きている確信する得る方法を探していたが、すでに彼消息不明同然となっていた。もはや自分たちの身を守るだけで精一杯で余裕の無い状況で、15分都市が持つ「理想の管理システム」に対する疑念が確信へと変わってきていた。
あの日、地下の研究施設で発見したカプセルの中で眠る被験体たち。彼らは元々はこの街の住民であり、何らかの目的のために「最適化された社会」の実験台になっている。それはもはや管理社会の名を借りた、徹底的な人間の監視と搾取構造になっていた。
菅野は、15分都市という概念の持つ意味を考えながら、いつか名もない誰かが自分たちの存在に気づいてくれて、この都市の管理システムに一石を投じてくれることを願うことしかできなかった。
空が明るくなる朝が来て、菅野と江川は抵抗組織の仲間たちが待っているアジトに戻った。荒れた倉庫の一角に隠されたその場所は、いまだ見つかっていない都市の監視網の盲点だった。そこで抵抗組織の仲間たちは監視カメラや監視・偵察用ドローンの目に入る事なく彼らは活動を続けていた。しかし、2人がアジトに持ち帰った情報は、監視社会に対抗する小さな希望に対してあまりに重すぎて残酷すぎるものだった。
アジトには数人の仲間が集まっていた。彼らは皆、15分都市の裏側に潜む陰謀に気づき、抵抗を続ける少数派であり、いつも冷静沈着にあらゆるトラブルを解決できるリーダーの
「残虐でえげつない事が、この都市の中で行われているとは。想像以上に酷い。ここは確かに日本だが…」
藤方の言葉には驚きを通り越して爆発寸前の怒りが交じっていた。
彼もまた、15分都市が行われてる住民管理の真実を奥深くまで知らなかったのだ。アジトにいた他の仲間たちもその映像に目を奪われ、唖然とした表情を浮かべていた。流石にそうなるのも無理もない。
その夜、藤方は菅野と江川を含む少数のメンバーを集合させて次の作戦についての会議を開いた。地下施設で行われている人体実験の情報を外部に流出させることで、この管理社会の闇を暴く計画を立てようと考えていた。しかし、その実行には大きな危険が伴う。都市のシステムは外部からのアクセスを厳重に制限しており、誰かが直接システムの中枢に潜伏する必要があった。
「菅野、江川があの地下の研究施設で見てきたことを、どうしても世間に世界の人々に知らしめる必要がある。そのためには同じ釜で飯食った仲間たちが犠牲になることを覚悟しなければならない。」
藤方の視線は幾たびの悲しみの現実に立ち向かい、修羅場を掻い潜ったかのように鋭く、2人にに責任転嫁するものではなく、むしろ共に戦う決意を表すものだった。菅野もこの状況で自らが最前線に立つ以外、道が残されていないことを理解していた。
「藤方隊長、この戦い、俺たちもお供しますよ!何としてもこの都市の闇を外に伝える義務があるのです!」
抵抗組織の仲間のひとりの決意の表情に、江川も力強く頷いた。彼も自分がこの戦いを引き受けるつもりである。
次の日、菅野と江川な再度、あの地下研究所に潜入する計画を立て、綿密で用意周到な準備を進めた。都市の監視システムに干渉するための装置や通信機器を持ち込み、15分都市の中心へ向かうための隠し通路を探し出した。今回の作戦内容は、地下施設の核心部にあるサーバールームにアクセスし、そこで得た情報を外部へ発信して拡散する事である。
だが、この作戦計画には大きな危険が伴う。今回の潜入する先の都市のセキュリティ要員は前回の警備員と違って極めて優れた監視システムと機会に頼らず、己の身でトラブルを対処する戦力をを保有するお得意のプロで、2人の行動が発覚した場合、前回みたいに上手く行くわけもなく捕らえられてしまう可能性が高かった。それでもなお、菅野と江川にはやらねばならない理由があった。2人こそが自分たちを信じ、支えてくれる仲間たちの存在を背負っている。そして、この都市の真実を外に届けることこそが、彼らにとって抑圧から解放する希望なのである。
静かさに覆われる深夜、再度、施設の入口にたどり着いた二人は、静かに深呼吸して落ち着かせ、覚悟を決めた。今回は前回以上に緊張感が高まっていたが、それでも彼らは互いに目を合わせて、目に見えない約束を交わした。菅野は何も言わずに江川とグータッチをすると、そっと頷き、施設の奥へと足を踏み入れた。
サーバールームは研究施設の最奥部に位置しているのが、前回の潜入で分かっていた。しかし周囲には前回にはいなかったAI警備ロボットが配置されており、侵入者があればすぐに反応して武装した警備員や状況によってセキュリティ部門の精鋭チームを要請するシステムが組み込まれている。二人は息を潜めながら、慎重に進んでいった。
サーバールームの扉にたどり着いた時、江川は電子ロックを解除するための端末の操作を開始した。あっさりと扉が開き、静かにそのサーバールームに入り込んだ。そこには巨大なサーバーがずらりと整頓されたように並び、その端末にアクセスすることで、15分都市の監視データが流れ込んでいるのが見て取れた。
菅野と江川と共に装置をセットし、外部へのデータ送信を開始した。画面に映し出されたのは、都市の各地域で行われている住民の監視データ、管理資料、文字起こしされる情報、そして人体実験の詳細なレポート。菅野はそのデータをすべてコピーし、外部へと広める準備を整えた。
しかし、その瞬間、研究所内の警報が鳴り響いた。2人で一瞬息をのんだが、すぐに状況を理解し、脱出を試した。だが、扉がいきなり閉められて施設のセキュリティシステムが二人を閉じ込めようと作動していた。
「江川さん、急いで下さい!俺たちがここで捕まったら、すべてがお陀仏になります!」
菅野は江川を急かすように促して、残りのデータを外部に送り出そうとした。
しかし、AI警備ロボットがドアの外に立ちはだかり二人の捕獲を試み始めた。菅野はその姿を見て、最後の力を振り絞りながら、江川に向かって叫んだ。
「江川さん、あなたはこれから先も必要な面子です!絶対、生き残って藤方隊長と合流して下さい!」
江川は菅野の言葉を噛み締めながら、彼の意思心の中にしまって、最後の瞬間まで彼を信じて行動することにした。そして施設の非常用出口へと走り出し、警備の目をかいくぐりながら必死に脱出を試みた。
菅野は最後の力を振り絞り、管理社会の真実を外部に送り出すべくデータ転送を続けた。そして、彼の目に映ったのは、ようやく外部への通信が完了する瞬間だった。菅野は安堵の笑みを浮かべながら、江川が無事に外へ逃げ延びることを祈った。
一方、江川は無事に施設を脱出に成功して、アジトへ向かって走った。彼の心の奥には菅野の覚悟と、互いに解き放った15分都市の真実が刻まれていた。
やがて監視網と管理の鎖がその影響を受け、15分都市住む人々は自分たちの生活がただの管理社会を実現するための産物であったことに気づき始める。しかし、それが彼らの未来を変える手がかりとなるのか、それともさらなる支配のきっかけとなるのか、その答えの正解まだ見つからなかった。
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