第5話 都市の深い溝
菅野と江川が合流してから数週間の時が過ぎた。今里が武装警備員に捕獲されて以降、2人は都市内での迂闊に目立った行動をすることを避けて周囲に対する警戒を高めて慎重に隠密に行動することにした。まだ、よく分からない場所とはいえ、江川は比較的、警備が少ない場所に連れて行かれたことで運良く逃げる事が出来たが、今回捕まった今里の行方は依然として掴めず、生死さえ確認できない状態だったが、その影響を感じ取れる出来事が立て続けに起きていた。
案の定、街の警備と巡回といった警戒態勢が一層厳重になり、電気パトカーでパトロールする警察官だけでなく警備ロボットや青空を飛行する監視ドローンが以前よりも頻繁に巡回している。この都市の隅々まで抜け目なく監視が行き届いているかのように感じられ、菅野は不安と焦りを覚えた。この15分都市が持つ「効率性」を覆す真実の闇を外部に発信するためには、次の一手が必要だったが、流石に大きなリスクが伴ってくる。
街中が殺伐とした空気に包まれる中、江川がある情報を持ち帰った。
「菅野さん、ここ地下に、俺らが知らない施設があること明らかになったぞ。」
江川は菅野に情報共有をした。
菅野はその情報に正直、驚いている。
「地下に施設?そんなのがここにあるのですか?」
菅野は相変わらず動揺して江川に聞き直した。
「うん。開発の古いデータ資料を調べていた時に、偶然その存在を示す情報が出てきた。普通の公共、福祉施設とは異なるように、極秘に管理されている場所の可能性が高い。何らかの重大な極秘実験か、もしくはもっとやばい何かが…」
江川の表情は強く硬めでそれには隠された都市の真実を暴く覚悟が滲み出ていた。
菅野は江川の言葉に耳を傾けながら疑念と共に鼓動が高まるのを感じた。
この都市の裏に潜む「本当の目的」とは一体何なのか。そして、地下に存在する施設で行われている内容が、この街に住む人々にどのような影響を及ぼしているのか正直気になって仕方ない。
2人は地下の施設へ潜入するための作戦を立てた。もしもこの施設が15分都市における監視・管理社会の真の姿を示す証拠になるのであれば、その証拠を見つけることが、今里の犠牲を無駄にしないことにも繋がると確信した。
丑三つ時の深夜、2人は人目と監視の目を避け、最初に初めてお互い出会った廃墟雑居ビルのの地下へと続く階段を下りていった。その雑居ビルは何年も前に時間の流れに置き去りにされた古い建物で、江川が調べた資料によると、地下の階段を降りてずっと通路を進んだこの先に地下施設への入り口があるらしかった。
正直、江川も初めて知った事で驚いている。
地下へ向かう階段を下りると、そこには冷たいコンクリートと張り詰めた空気、わずかな蛍光灯途切れ途切れに照らされた廊下が続いていた。奥へ進むにつれ、空気が重く、霊界に吸い込まれたような異様な雰囲気が漂っていた。菅野は心の中で何度も自分の決めた覚悟を確かめ言い聞かせながらも、足が震え、背筋に冷気が出て寒気が走るのを感じていた。
廊下の奥に到達した菅野と江川は錆びない丈夫な金属でできたような大きな扉を見つけた。その扉には、複雑なセキュリティロックが施されており、開けるのに難易度が高いように思えた。しかし江川は、以前の仲間の情報収集で得た電子機器を取り出し、扉のセンサーに接続すると、何やら操作作業を始めた。
数分後、金属扉が両方へ開いた後、銀行にある大きな金庫のようなロックが解除され、次々に扉が重々しく開いた。2人は互いに目配せしながら、一歩ずつ慎重に解錠された扉を通り抜けることにした。
奥へ進むと広大な施設が広がっていた。冷たい金属、コンクリートの床と、無数のコンピュータ端末が綺麗に整頓するように並べられている光景が広がっており、白い照明が無機質に灯されていた。そして、壁一面に設置されたモニターが、都市全体の様子を映し出している。画面上には各区域ごとの住民の行動データがリアルタイムで文字起こしで表示されており、一人ひとりの動きや健康状態、生活のルーティンまでが詳細に記録されていた。
「この施設が監視のための管理システム中枢?」
菅野は唖然としつつようやくここで何が行われているのかを理解し始めていた。
この15分都市は単なる利便性と安全性の効率、生産性の追求ではなく、完全な管理社会の構築を目的して人々の行動、感情、さらには健康状態に至るまでが記録され、分析され、最適化された生活を気がつかぬ内に強制的に押し付けられているのだ。
2人が施設の中を調べていると、奥の部屋から機械音が響いてきた。菅野と江川は音を立てないように進み、機械音の発生源にたどり着くと、その部屋には巨大なカプセル状の装置がいくつも統制されたように綺麗に並んでいた。カプセルの内部には、人間のような影が薄暗い光の中で映り込んでいる。
「この中にいるの実験体か被験体か?」
江川が驚きを隠せず、流石に顔も引きつっていた。菅野も流石に絶句している。
カプセル状の装置の中にいる人たちは、眠っているようにも見えたが、まるで死んでいるかのように動かない。中の人たちの体には無数のコードが接続され、どこかへデータが転送されているみたいだった。
「もしかして、住民を監視する管理する以外でこの施設で何か人体実験が行われているってことか?」
江川は相変わらず愕然している。菅野もそれに合わせるように息を呑みつつ拳を強く握りしめた。この都市が「理想の世界」としての効率性や管理性を安全性を謳いながら、実際には人々を観察して、さらに何かしらの目的で人体実験まで行っていることを知り、菅野の心と脳の中に怒りの沸点が湧き上がった。
2人が被験体の入ったカプセル装置を眺めていると突然、施設の奥から足並みの揃ったタクティカルブーツで歩く足音がなり始めた。施設の管理者いや、ブーツのような足音からして、よく訓練された2人の警備員が巡回していると確信したが、少しでも些細な事でも証拠を残しておかなければならないと菅野は思い、急いでスマートフォンを取り出してカプセルの様子を急いで撮影し始めた。
「菅野さん、もうすぐ警備員が来る。直感で言うのも何だが以前の素人ガードマンとは違うぞ。ここが退き際だ!退却するぞ。」
江川は血相かいて菅野に退却命令を出した。
菅野なその提案を受け入れ、江川と共に物音を立てずに元の廊下へと引き返した。後ろから聞こえる足並みの揃った足音が近づいてきているのを感じながらも、息を潜めて地下の研究施設からの脱出を一か八かで試みた。
地下施設から地上へ出ると、再び夜の暗い静寂に包まれた街が広がっているのを実感できた。しかし、菅野の心には重苦しい疑念と怒りが脳の奥へと渦巻いていた。街の住民たちは、理想の生活を追い求める名目で、知らず気づかずのうちに実験体として良いように思う存分に支配者たちに利用されている。この真実をどのようにして伝えるかが、今後の戦いの焦点となるのは確実だった。
その夜、2人はアジトに戻り、カプセルの中の人々の映像を再度、抜かりなく確認した。そこで見た光景が、自分たちがいかに危険な街の秘密に触れてしまったのかを物語っている。
「これは、純粋で単純な都市開発計画ではない。15分都市の運営者たちは、住民を管理するだけじゃなく、ここに住む者を利用して何かを研究しているんだ。」
江川は語ったが、その目には世界の闇に立ち向かう覚悟が溢れ出ていた。
「今を生きる上で触れてはいけない部分に触れた事ですし背に腹を変えられませんね。もう後戻りできないのは最初からですし抑圧からの解放のため死ぬまで闘う運命だったのでしょうから、逃げずに立ち向かいましょう。」
菅野も江川に強く頷きながら自分の心構えを話した。もはや自分ひとりだけの問題ではない戦いが既に始まっていた。2人の決意は、15分都市の中で隠されている本当の真実を暴き、自由と人間性を取り戻すための希望となっていくのであった。
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