第二十五話
「博士~!博士~!」
「おお!やっと来たか!待ちくたびれたぞ!」
「ハァ、ハァ、ハァ。いやこの時代に伝書鳩はおかしいでしょ。」
「フォロッフォ~。」
「私は、近代文明が生んだ機械社会に埋もれたくなどないんだよ。」
「バサバサバサ~。」
「でも、この手紙ってパソコンを使って打ち出していますよね?」
「そうだよ。」
「おもいっきり近代文明の利器を活用しているじゃないですか!」
「気付かんかった。」
「無意識レベルにまで達しているじゃないですか!ったく・・・・・・・・・それよりも、見せたい物があるって言うのは?」
「ふっふっふっふっふっ。」
「何ですか?その不敵な笑いは?」
「遂に完成してしまったんだよ!助手君!」
「博士?いい加減名前を覚えて下さい。結構長い付き合いなんですから。」
「まあまあ、御愛嬌ですよ。助手君。」
「どんな御愛嬌ですか!失礼ですよ。」
「気にする事はない。二人で過ごした時間は、けして無駄ではないのだよ。新しい恋を探しなさい。」
「失恋じゃなくって、失礼です!何の話をしているのかと思いましたよ。」
「いい事言って損した。」
「どんな感覚ですか!それで?いったい何が完成したんですか?」
「よくぞ聞いてくれた!!」
「博士の方から言ってきたんですよ?」
「タイムマシーンだ!!」
「今なんて!?」
「タイムカプセルだ!!」
「変わったじゃないですか!前者と後者じゃ驚きがまったく異なりますよ?」
「タイムマシーンだ!!」
「近代文明だの機械社会だのと、言ってる事とやってる事が矛盾していますが・・・・・・・・・凄いじゃないですか!いったいどうやって!」
「私が昼間、いつものように公園のベンチに座ってカレーライスの味を思い出していた時。」
「毎回そんな事をするために、公園に行ってたんですか!」
「子供達がブーメランをして遊んでいたんだよ。」
「なるほど!ブーメランは、投げると戻ってくる!そこからヒントを得たと言う訳ですか!」
「いや、何となく出来ちゃった。」
「ブーメランは、何だったんですか!」
「それは、上手い事やるもんだなぁ。って感心していただけだよ。」
「羨ましかっただけですか!何となくですか・・・・・・・・・まあ、博士らしいと言ったら博士らしいですね。」
「しかも二つ。」
「二つも出来ちゃったんですか!天才ですよ博士は!」
「忘れた頃にやって来るんだよ。」
「それは天災です。さっそく学会に発表する論文の作成に取り掛かりましょう!」
「待つんだ助手君!」
「どうしたんです?まさか!?何となく僕の事を騙したんじゃないでしょうね?本当は、タイムマシーンなんて作っていないのでは?」
「タイムマシーンは、ちゃんと作ったよ。」
「またまた。騙されませんよ?この前だって砂糖を塩にする機械を発明したと言って、大変な目に遭わされましたからね。作ったのなら実物を見せて下さい!」
「さっきっから目にしているじゃないか。」
「えっ!?」
「ほら。それだよ。」
「それってまさか!?この冷蔵庫ですか!?」
「いや冷蔵庫じゃなくってタイムマシーンだ。」
「冷蔵庫でしょ。」
「元はな。元は確かに冷蔵庫だが今はもうタイムマシーンなんだから、あんまり旧姓で呼ぶんじゃないよ。」
「俄かに信じがたい光景ですね。」
「勝手に氷を作ってくれるやつだ。」
「冷蔵庫の機能については聞いてませんよ!」
「その機能は、ちゃんと残しておいたから安心しなさい。」
「どんだけ僕は、氷好きだと思われていたんですか!」
「では、行くぞ!」
「行くって?」
「論文を書くには、まだやり残した事がある。理論上タイムマシーンであっても、正確に作動するかテストする必要があるのだよ。助手君!」
「我々自ら実験台になると言うのですか!?」
「当たり前だ!我々がやらずに誰がやる!!」
「分かりました博士!博士の世紀の大発明に僕もお供します!」
「ありがとう。」
「で、いったいどの時代に行くんですか?未来ですか?それとも江戸時代や平安時代ですか?」
「何をヌルい事を言っているのだね!」
「では、博士の大好きな戦国時代ですか?」
「確かにその時代にも行ってみたいが、まず最初に行くのならば、まだ誰も目にした事のない時代・・・・・・・・・。」
「やはり未来ですか!」
「いいや!恐竜時代だ!!」
「なるほど!確かに実物の恐竜をこの目で見た人間はいない!」
「そして映像に記録し、それをこの時代に持ち帰って来るのだよ。二つの意味で人類の大きな一歩になるはずだ!助手君!」
「行きましょう博士!」
「よし!開けるぞ!まだ見ぬ未開の地への扉を!」
「ガチャッ。」
「ずいぶんと冷ややかですね博士。そして狭い。」
「まあ、元々は冷蔵庫だからな。いいか?この弱・中・強のダイヤルで行く年代を決める。過去・現在・未来と言った具合にな。だいたい恐竜時代ならこの辺だ。そしてドアを閉めれば時空の旅に出発する。」
「タイムマシーンに乗っている気がしませんね。まるで野菜や肉の気持ちですよ。」
「実験が失敗に終われば、こいつはただの冷蔵庫にすぎんからな。行くぞ?」
「緊張しますね。」
「では!恐竜時代に!タ~イム!ワ~プ!」
「それ言わないといけないんですか?」
「別に。」
「バタンッ。」
「真っ暗ですね博士。」
「冷蔵庫だからな。」
「冷蔵庫なんですか?」
「冷蔵庫みたいなタイムマシーンだよ。」
「タイムマシーンみたいな冷蔵庫にならないように願っていますよ。」
「ありがとう。」
「いえ。」
「ウィ~ン。カラカラカラカラカラカラ。」
「何の音ですか?」
「勝手に氷が出来た音だ。つまり、到着したと言う事だよ。」
「勝手に氷の部分にも意味があったんですね。」
「当たり前だ。では、未開の地への扉を開けるぞ!」
「待って下さい博士!」
「どうした?」
「確か冷蔵庫って中から開けられないのでは?」
「それは都市伝説だ。証明するのに物凄く勇気がいったけどな。」
「なるほど。製作段階で試されたんですね。」
「当たり前だ!」
「・・・・・・・・・まったく、天才なのか馬鹿なのか分からない人だ。」
「何か言ったか?」
「いいえ。」
「さあ、開けるぞ!」
「ガチャッ。」
「は、博士!」
「助手君!」
「成功ですよ博士!タイムマシーンは完成したんですよ!!」
「痛い痛い。喜ぶ気持ちは分かるが、頭叩きすぎだよ助手君。」
「すいません。」
「まあいい。では、恐竜をこのカメラで撮影しようじゃないか。こりゃ、年甲斐もなくワクワクしてくるってもんだよ!なあ、助手君!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうした?この光景に開いた口が塞がらないのか?うんうん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「その気持ちは、手に取るように分かるぞ助手君。だが、今は私情よりも人類への」
「博士!!」
「びっくりしたなぁ!?なに?どうしたんだ?」
「あああああ・・・・・・・・・あれ!!」
「後ろに何かいるのか?ななななな・・・・・・・・・なんと!?」
「あれって博士!!」
「間違いない!ティラノサウルスだ!!」
「最強の肉食恐竜と言われているやつですよね?」
「そうだ。まずいぞ助手君!私達は、とっくにあいつに気付かれていたようだ!」
「どうするんですか?」
「どうするもなにもないだろ!!逃げろー!!」
「はいー!!」
「ドスン!ドスン!ドスン!ドスン!」
「でも博士!追って来ますよ!」
「そりゃそうだ!私達は、餌なのだからな!!」
「ドスン!ドスン!ドスン!ドスン!」
「ガシャーンッ!!」
「あぁぁぁぁぁ!!タイムマシーンが踏み潰されてしまいましたよ!!」
「そりゃそうだ!私達は、タイムマシーンから直線上に逃げているのだからな!!」
「何を悠長な事を言ってるんですか!!僕達は、もう二度と元の時代に戻れなくなってしまったんですよ!!」
「そりゃそうだ!タイムマシーンが壊されたのだからな!だがなぁ助手君!私がさっき言った事を思い出してみるのだ!!」
「博士の言った事ですか?」
「タイムマシーンを二つ作ったと言ったろ!!」
「言いました!確かに言いました!が博士!あんな大きな物!いったいどこにあるんですか!」
「ふっふっふっふっふっ。」
「その不敵な笑いは!持っているんですね!もう一つのタイムマシーンを持っているんですね!ボタン一つか何かで瞬時に時空を越えられるリモコン型のようなタイムマシーンを」
「ほれ!」
「何ですか?この手の平の上にある小さな冷蔵庫は?」
「さっきのタイムマシーンを最軽量化し最小化したものだ!!」
「えっ!?」
「まさに時代の最先端をいったタイムマシーンなのだよ!助手君!!」
「どうやって乗るんですかー!!」
「あっ!」
「ドスン!ドスン!ドスン!ドスン!」
「助手君!とにかく今は逃げろー!!」
「はいー!!」
第二十五話
「モダン・タイムス」
『COSMIC☆COMEDY』 PYN @pyn
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