第十八話
「お父さん!」
「何だ母さん。そんなに慌てて?それより、新聞取ってきてくれたか?」
「それどころじゃないのよお父さん!」
「何がだ母さん。」
「それがね!大変なのよ!」
「何が大変なんだ?」
「聞いて下さいなお父さん!」
「聞いてるよ母さん。」
「私が新聞を取りに玄関のドアを開けたの。そしたら、郵便受けのところにいたんですよ。」
「何がいたんだ?」
「ちょっと変わった人がですよ。」
「母さん。」
「何です?」
「話がさっぱりなんだが。」
「だからね。私が新聞を取りに玄関のドアを開けたの。そしたら、郵便受けのところにちょっと変わった人がいたんですよ。」
「だから母さん。」
「何です?」
「さっぱりなんだよ。」
「もう!あのね。私が・・・・・・・・・。お父さん来て下さい!」
「ちょ、母さん。母さんは、力があるんだからそんなに引っ張ったら背広が破れちゃうじゃないか。」
「破けたら縫いますから。それより、その細い目を大きく見開いて、ちょっと変わった人を見て下さいよ。」
「おいおい母さん。細い目はないだろ。この細い目と母さんは、何十年間一緒に生活していると思ってるんだ?かれこれ三十」
「その話は、また今度ゆっくりと聞きますから!いいですか?開けますよ?心の準備をして下さいよお父さん!」
「心の準備って母さん。そんなに一大事なのか?母さんが口で説明してくれればいいじゃないか。」
「それを上手く説明できるなら、わざわざお父さんをこんなところまで連れて来ませんよ。」
「こんなところって、玄関じゃないか。だいたいちょっと変わった人、ちょっと変わった人って言うが、何がどうちょっと変わっているんだ?母さん。」
「だから説明できないんですって!いいから自分の目で確かめて下さい。」
「ガラガラガラ。」
「まったく母さんは、朝から大騒ぎなんだから。だいたいそんな人・・・・・・・・・!?な、何だ!何なんだあのちょっと変わった人は!?」
「だから言ったじゃありませんか。」
「母さん。」
「何ですか?」
「あんなにちょっと変わった人を見たのは、わし生まれて初めてだ。」
「私もです。」
「何であんなにちょっと変わっているんだ?」
「さあ?」
「聞いてみよう。」
「やめといた方がいいですよお父さん。」
「母さんは、気にならないのか?」
「そりゃあ、何であんなにちょっと変わっているのか気になりますけど。」
「だったら聞いてみようじゃないか!」
「気を付けて下さいよお父さん。」
「分かってる。あ、あのう、つかぬ事お伺い致しますが、あなたはどうしてそんなにちょっと変わっていらっしゃるのですか?」
「お父さん!」
「母さん!」
「見ました今の?」
「見たよ。何なんだ今のちょっと変わったリアクションは!?」
「何なんでしょう。今のちょっと変わったリアクション!?」
「母さん!」
「何ですか?」
「触ってみよう!」
「ちょっとお父さん。それはどうかと思いますよ?ちょっと変わった病気とかもらったらどうするんです?まだ家のローンも残っているのに。」
「大丈夫だ。こう見えても会社の健康診断では、トップクラスだったんだからな。」
「頭の方もトップクラスだったら、今頃部長になっていて、ローンも払い終えているんですけどね。」
「母さん!それを言ったらおしまいだよ?ん!?」
「どうかしました?」
「何かちょっと変わった匂いがしないか?」
「言われてみれば、ちょっと変わった匂いがしますね。もしかして!」
「そう思うか母さん。」
「そう考えてらっしゃるんですねお父さんも。」
「このちょっと変わった匂いは、あのちょっと変わった人から漂っているに違いない!母さん!」
「はい?」
「わしは、もう我慢できんぞ!触る!」
「あっ!お父さん危ないですよ!ちょっと変わった事をされるかもしれませんよ!」
「な、何だ!?このちょっと変わった感触は!?母さんも触ってみなさい!」
「私は、遠慮しときますよ。」
「いいから触ってみなさい。その段々腹が引っ込むかもしれないぞ?」
「お父さん!お腹の事は、関係ないでしょ!このお腹あってのお父さんじゃありませんか!」
「訳の分からん事を言ってないで早く触りなさい。」
「分かりましたよ。はっ!?何ですかこのちょっと変わった感触!?」
「だろ?触ってみる価値あっただろ?」
「ありました。ありました。」
「母さんが買ってる奇抜な洋服より、よっぽど価値があるってもんだ!」
「聞き捨てなりませんよお父さん!私の服装に何か文句があるんですか?」
「そんな事言ってないだろ?」
「言ったも同然です!」
「おいおい母さん。何もそんなに怒らんでもいいじゃないか。ん?今の聞いたか母さん。」
「聞きました。聞きましたよお父さん。」
「今のちょっと変わった言葉を言ったのは、母さんじゃないよな?」
「はい。お父さんでもないんですよね?今のちょっと変わった声でちょっと変わった言葉を言ったのって。」
「て事はだよ母さん。」
「て事はですよお父さん。」
「ちょっと変わった人が喋ったのか!」
「それしか考えられませんよ!」
「これはもう、祝うしかないな母さん!乾杯しかないだろ母さん!酒だ!酒を持ってきてくれ!我が家で一番高い酒を頼むぞ!」
「お父さん?お言葉ですが、お酒、お酒って事あるごとに言いますけど、いったいそのお酒にいくらかかっているのかご存知ですか?お父さんの安月給でただでさえ毎月やり繰りしていくの大変なんですからね。ですから、お父さんがお酒をもっと控えてくださると、火の車の家計もだいぶ助かるんですけどね。」
「母さん。」
「何です?」
「酒の事をどう言われようがいいとしよう。わしも反省せねばと思ったよ。だが、給料の事を持ち出すんじゃないよ!これでも汗水流して一生懸命働いているんだよ!それを言うに事欠いて安月給はないだろ!!」
「お父さん!」
「何だ!」
「後ろ!」
「後ろが何だ!」
「いいから振り向いてみて下さい!」
「そんな事を言って、話をごまかそうったってそうはいかんぞ!って何なんだこのちょっと変わったダンスは!?どうしてちょっと変わった人は、ちょっと変わったダンスをしているんだ!?」
「分かりませんよ。分かりませんけど・・・・・・・・・。」
「けど何だ母さん。」
「ちょっと変わった人だからじゃありませんか?」
「なるほど。確かに母さんの言う通り、ちょっと変わった人だからだな。」
「それにほら、ちょっと変わった人がちょっと変わったダンスをしながら、ちょっと変わった鼻歌を歌っていますよ。」
「本当だ!!ちょっと変わった人がちょっと変わったダンスをしながら、ちょっと変わった鼻歌を歌って、ちょっと変わった決めのポーズをしている!?はっ!なんてこった!」
「どうしました?」
「わしは、馬鹿だ!」
「知ってます。」
「母さん?」
「冗談ですよ。それより、何なんですか?」
「写真だよ!」
「写真?お父さんの昔の浮気現場のですか?」
「母さん?そりゃもう数え切れないほど謝ったじゃないか。」
「冗談ですって。」
「その話は、冗談にならないからやめてくれ。」
「はいはい。それで?写真がどうしたんです?」
「おお!そうだった!こんなチャンスを写真に撮らないでどうするんだ母さん!」
「そうですよお父さん!あのちょっと変わった人とちょっと変わった記念写真を撮りましょうよ!」
「そうと決まればカメラだ母さん!カメラを持ってくるんだ!」
「すぐ取ってき・・・・・・・・・。」
「どうした母さん?」
「お父さん!」
「どうしたんだ母さん!早くしないとちょっと変わった人が帰ってしまうじゃないか!」
「帰っていきます。」
「何!?何てこった。ちょっと変わった人が帰っていってしまう。」
「残念ですね。」
「残念だ。」
「撮りたかったですね。ちょっと変わった記念写真。」
「撮りたかったな。ちょっと変わった記念写真。」
「お父さん?」
「何だ母さん?」
「それにしても見て下さいよ。あの歩き方を。」
「ああ。ちょっと変わっているな。」
「ちょっと変わっていますね。」
「なあ、母さん?」
「何ですかお父さん?」
「それにしても、ちょっと変わった人だったな。」
「そうですね。」
第十八話
「想像力トレーニング」
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