第十七話

 説明しよう。ここは、どこにでもあるような喫茶店である。そして、この一見どこにでもいるような若い男。しかし、彼には、人には言えない秘密があるのだ。秘密が何だかは、とても気になるとこだろうが、大丈夫である。それは、何行か先で分かる事なのだ。

「カランコロン。」

説明しよう。喫茶店のドアが開き、怪人カマキリ男が入って来たのである。そして、さっきの若い男の真向かいの席に座ったのだ。

「遅くなってごめん。」

「別にいいよ。」

「いやー、この辺なかなか駐車場が見当たらなくってさ。参ったよ。」

「あそう。」

「いらっしゃいませ。ご注文お決まりでしたらお伺い致します。」

「えーと、それ何?」

「アイスコーヒー。」

「あっじゃあ、俺も同じので。」

「かしこまりました。少々お待ち下さいませ。」

「いやー、この辺なかなか駐車場が見当たらなくってさ。参ったよ。」

「さっき聞いたよ。」

「言った?」

「言ったよ。」

「言ったか。」

「で?」

「で?って?」

「何でこんな所に呼び出したわけ?」

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ。」

「ああ、すんません。いやほら、今日これから戦うじゃん。」

「そうだよ。何か問題でも?」

「うーん・・・・・・問題と言うか何と言うか。どうだろう?」

「何が?」

「いやほら、戦いだけが全てだろうか?」

「そう言う問題じゃないと思うけど?」

「分かる!分かってる!おたくが正義のヒーローエグゼクティブマンで、俺が悪の怪人カマキリ男だって事だろ?」

説明しよう。そう!怪人カマキリ男の言う通り!この若い男こそが、悪の怪人軍団と戦う正義のヒーロー!エグゼクティブマンなのである!そして、先程の秘密と言うのがこの事だったのだ。

「分かってるならいいじゃん。」

「いい?うーん・・・・・・いくはないんだよ。」

「いくよ。」

「待てって!落ち着けってエグゼクティブマン。」

「でも、ちびっ子達が待ってるから。」

「よーく分かる!怪人をやっつけて、ちびっ子達と遊んであげるその正義のヒーローの使命!分かるわぁ。」

「ならいいじゃん。」

「いくないんだよ。」

「お前悪さしただろ。」

「したと言うか。させられたと言うか。ほら、上の者がやれって言うからさぁ。仕方なくやったんだよね。」

「うん。まーでもそれは、しょうがないよ。さっ、やろうよ。」

「ちょっと待てって!エグゼクティブマン!」

「なに?」

「あれだろ?どうせあのエグ何とか光線?」

「エグゼクティブ光線の事?」

説明しよう。エグゼクティブ光線とは、ご存知!エグゼクティブマンの必殺技中の必殺技である。十本の指全てから放たれる光線で、どんな凶悪な怪人をも倒してきたのだ。

「そう!それ!どうせ今日もそれで決着をつけるんだろ?」

「そうだよ。」

「痛いじゃん。」

「痛いよ。」

「激痛じゃん。」

「うん。でも、それもしょうがないよ。」

「その光線から出てる有害な何かとか、もっと環境問題に目を向けろよ!」

「博士が作ったんだから、そんなもの出てるわけないだろ!」

説明しよう。博士とは、事故で家族を失い、一人生き残った重体の彼に改造手術を施し、正義のヒーローエグゼクティブマンとして蘇らせ、この地球を心から愛する人物であり、エグゼクティブマンにとっては、育ての親なのだ。そして、エグゼクティブマンと共に、悪の怪人達と日々戦っているのである。今は、怪人イノシシ男の時に負った怪我により、最寄の整形外科に通院する日々でもある。

「戦うよ。」

「待てって!俺の話を聞いてくれって!」

「聞いてるよ。」

「だいたいさぁ。俺なんてこのカマだけだよ?」

「でも、そう言う怪人なんだからしょうがないよ。」

「カマと光線だよ?ないわぁ。ない!いや、なにもね。やられたくないって言ってんじゃないんだよ。」

「ならいいじゃん。」

「あいつ死にたくないんじゃないかとか、意気地無しだとかって言う人間がいるかもしれないよ。でも俺は言うね。そんな人間に言うね。やられるのなんて恐くない!」

「エーグーゼークーティーブー!こ」

「待てって!早いって!エグゼクティブマン!」

「止めないでよ!」

「止めるよ!そりゃ必死で止めるよ!」

「やられたくないんじゃん。」

「そーじゃない!そーじゃないよエグゼクティブマン!何て言ったらいいのかなぁ?もっと痛くないのってないの?」

「エグゼクティブタイフーン!」

説明しよう。エグゼクティブタイフーンとは、エグゼクティブマン自身が回転して強風を巻き起こし、怪人を銀河の果てまで飛ばしてしまうのである。過去に一度、怪人ポニー男の時に使用している必殺技である。

「寂しくなるなぁ。他には?」

「エグゼクティブレインボー!」

説明しよう。エグゼクティブレインボーとは、エグゼクティブマンの武器、エグゼクティブバズーカの別名である。七色の光線が発射されるため、そう呼ばれているのである。エグゼクティブレインボーをくらった怪人は、木っ端微塵になり、地球上に少しの肉片すら残す事なく消えて逝く運命なのだ。ちなみに、怪人ポリバケツ男と怪人ミジンコ男の時に使用している必殺技である。

「それ痛いじゃん!」

「一瞬だよ。」

「他のないの?」

「エグゼクティブファイヤー!」

説明しよう。エグゼクティブファイヤーとは、熱い!とにかく熱い!めちゃくちゃ熱い!のである。

「熱いじゃん!熱いのは、痛いのより苦手なんだよね。」

「エグゼクティブ毒!」

説明しよう。毒である。

「苦しいじゃん!苦しいのは、痛いのより熱いのより苦手なんだよね。」

「やっぱりやられたくないだけじゃん。」

「聞いてくれエグゼクティブマン。」

「なんで急にシリアスになるわけ?」

「本当の事を言おう。いや!君には、それを聞く権利がある!」

「本当の事?」

「なぜ、俺がこんなに戦いを拒んでいるのか?」

「うん。」

「本当は、戦いたいんだ!今すぐにでも、エグゼクティブマン!君に倒されたいんだ!だけど・・・・・・・・・。」

「いくぞ!!カマキリ男!!」

「早いよ!だけどって言ったよ?最後まで話を聞けって!そんなんじゃ、正義のヒーローエグゼクティブマンが聞いて呆れるよ。」

「ごめん。」

「戦えない理由があるんだ。」

「戦えない理由?」

「実は、俺のこのカマ。左の方が調子悪いんだよ。ほら見て。ここまでしか曲がらないの。あたたたた。なっ?あたたたた。」

「なっ?て言われても、さっきまで痛がってなかったけど?」

「ついつい強がっちゃうんだよなぁ。そう言うとこあるんだ俺。」

「まあ、それはそれって事で。いくよ?」

「いかないよ!分かってないなぁ。エグゼクティブマンよ。」

「何が?」

「いいかい?こんな手負いの怪人と戦ってるとこをちびっ子達が見たらどう思うと思うのさ。」

「頑張れエグゼクティブマン!」

「頑張る必要性がないだろ!」

「負けるなエグゼクティブマン!」

「負けるかよ!そうじゃなくって!いい?ちびっ子達は、こう思うんだよ。あっ!エグゼクティブマンが弱い者いじめをしてる!ってね。」

「してないよ!」

「してない!確かにしてないんだよ。」

「ならいいじゃん。」

「エグゼクティブマン的にはな。だが!ちびっ子達の目線になって考えてみろよ!どう見てもエグゼクティブマンが怪人カマキリ男をいじめてるようにしか映らないだろ?」

「そうかなぁ?」

「そうですよ!ちびっ子達なめちゃ駄目ですよ。彼等の瞳は、純粋そのものですよ。」

「どんなキャラだよ。だったら、どうすればいいわけ?」

「今度の月曜って暇?」

「暇だけど?」

「よし!その時に決着をつけようじゃないか!」

「えっ!?今日じゃないの?でもまあ、ちびっ子達に誤解されるのも嫌だし・・・・・・・・・分かったよ。」

「じゃ、月曜日にとりあえずまたここで。」

「ここ?ここで戦うの?喫茶店だよ?」

「いいんだよ。とりあえずここに集合って事だよ。いい?分かった?」

「わ、分かったよ。」

「じゃ、今日は俺が。」

「いいよ。自分のは、自分で払うよ。」

「いいんだって!俺が呼び出したんだからさ。」

「いいって。」

「いいのいいの。しまって、しまって!エグゼクティブ財布しまって!」

説明しよう。エグゼク

「無いからそんなもん!勝手に変なアイテム増やさないでよ。これは、ただの財布だから。自分で払うよ。」

「違う違う。今日は、本当にそんなんじゃないから。」

「自分で出すって。」

「いい加減怒るよエグゼクティブマン!カマ出ちゃうよ!」

「わ、分かったよ。ごちそうさま。」

「御礼なんかしなくっていいから、俺の方こそありがとう。じゃ、来週の月曜日にここで。ごめんね今日は。」

「別にいいよ。」

「あっ、ゆっくりしてっていいから。それじゃあ!わっはっはっはっはっ!必ず貴様の息の根を止めてやるからな!!さらばだ!エグゼクティブマン!!カマカマー!!」

「行っちゃったよ。何だったんだろう?来週の月曜日かぁ・・・・・・・・・。すいませーん!御冷下さーい!」

地球の平和とちびっ子達の未来を守るため、今日もエグゼクティブマンは、悪と戦う!頑張れエグゼクティブマン!負けるなエグゼクティブマン!戦え!我等のエグゼクティブマン!!


第十七話

「エグゼクティブマン」


「すいません。領収書下さい。前株で悪の怪人軍団でお願いします。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る