量り




 節度ある付き合い。

 朝の登校時、パン屋で待ち合わせて一緒に学校へ行きながら会話。

 昼の休憩時間、給食がない中学校なので、屋上に行って家族手製の弁当、もしくは購買部、またはパン屋で買った物を食べながら会話。

 夕の下校時、一緒に学校から帰りながら会話をしてパン屋で別れる。


「という予定を立てたんだが、どうだろうか?」

「そんなことを言っている場合じゃないと思うんですけど!?」


 僕と彼は一緒に駆け走っていた。

 強くなったおかげで可能になった空中での駆け走り。

 何度経験しても感激が薄まることはないのだが、今は論外。

 駆け走りに必死で感激は薄まっている。けれど薄まっているだけ。なくなることはない。


(えーっとえーっと。何で駆け走っているんだっけ?)


 悪霊を見つけて。

 僕を護る為に彼が立ち向かって。

 片眼鏡を眼鏡拭きで拭いたら、ベレー帽がよく似合い僕のお師匠さんであるおじいさんが来てくれて。

 おじいさんが彼の協力霊(霊を成仏させたり、悪霊を祓ったりする時に祓い人に力を貸す霊)なのかと思ったら。

 眼鏡の拭き方がなっとらんってすごく怒りだして。

 おじいさんまで悪霊になっちゃって。

 見つけた悪霊とおじいさんが合体して。

 逃げているわけです。


「逃げているわけじゃない。あなたを安全に匿える結界に向かっているだけだよ」

「そこは君も安全に匿ってくれるんですか?」

「いや。あなただけだ」

「えええ!?」


 混乱する。とても。だって。

 悪いけど、彼がこの事態を解決できるなんて思えないからだ。


(こ。こうなったら僕が)


「なぜ急に立ち止まろうと考える?」

「君は心の中を読めるんですか?」

「いや。ただ、そう考えていると、あなたの顔を見ればわかっただけだ」


 わかりやすいよ。

 彼はこんな刻なのに笑う。

 強い人だ。

 強い人だ。

 僕もこんな刻なのに、胸が熱くなった。


 けれど。


「君は祓い人なんですよ」

「知っている」

「祓い人は悪霊のせいで怪我をしたり、ひどい時は、意識を失ったまま起きられなくなったりするんですよ」

「知っている」

「生きているのに」

「死んでいるからいなくなったって構わないと言いたいのかい?」

「言わないよ。僕。強くなったんだよ。強くなったんだ」

「悪霊と闘ったことはあるのかい?」

「ない」

「じゃあ。一緒に闘おうか」


 立ち止まった瞬間は、同じ。

 立ち向かった瞬間も。

 彼は片眼鏡を外して。

 僕は僕という霊力を掌に集めて。

 身体が小さくなったって構わない。

 消滅さえしなければ、僕は。

 彼を見た。

 彼は持っていた。

 片眼鏡を変化させた彼の武器を。

 竹の扇を。


「おじいさんと悪霊を分裂させる。あなたは悪霊にそのありったけの霊力をぶつけるんだ。ただしあなたは消えてはいけない。某はまだ節度ある付き合いを重ねていないのだから」


 彼は不敵に笑った。

 こんな刻なのに、胸が高鳴った。

 いや。こんな刻だからこそ、なのか。


 吊り橋効果。

 ふとその単語が頭を過った。


「おじいさんは某の協力霊だ。某が助けるよ。いつものように」

「え?」


 いつもの?

 ように?


 疑問符が頭の中いっぱいに埋め尽くす中、彼のかけ声に勢いよく押されるように、限界ぎりぎりまで霊力を掌に集めて、彼が悪霊とおじいさんを分裂させると、悪霊に向かって霊力玉を投げつけた。








(2022.5.10)



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