渉り
おじいさんから拒絶された僕は、彼女に出会う前の淡々とした自分を思い出しながら、必死に淡々とお願いしたら、おじいさんは首を縦に振ってくれた。
ありがとうございます。
飛び跳ねたい気持ちを必死に抑えて、淡々とお礼を述べた。
修行の開始だ。
「早く成仏させてください」
「もう某に頼まないでくれませんかね」
向日葵畑で手を振る姿が。
太陽に向かって駆け走る姿が。
片眼鏡を眼鏡拭きで拭う姿がよく似合う彼ならば。
強くなった僕を辛うじて成仏させてくれるだろうと予想していたが、予想というのは大概外れるもの。
修行時の僕に匹敵するくらいに一生懸命。それはもう形相を変えて彼は挑んだのだが、成仏はできなかった。
強くなりすぎたかな。
なんて嫌味を心中で言いながら、諦めないでくださいと迫った。
「僕はどうしても君に成仏させてほしいんです」
「姉弟子がいるので彼女を紹介しますよ」
「いいえ。姉弟子じゃだめなんです。君じゃないと」
「某では力不足です。あなたのような強い霊なら余計にね」
「一人前になりたくないんですか?」
「某はまだ中学三年生です。一人前なんて。まだまだ先ですよ」
彼は片眼鏡の鼻パッドを摩りながら苦笑した。
「まあ。同じ中学三年生。しかも誕生日は某より後の姉弟子は一人前ですけど」
「同じ年。正確には彼女が年下だとしても、彼女が先に修行を始めた、とか?」
「そうですね。一週間早かったですね」
「一週間は大きな差ですよ」
「修行も一緒にしているのに、彼女はいつも涼しい顔で終わらせますが、某はいつも倒れ込む情けない姿を晒しています」
「一週間が大きかったんですね」
「もう下手な慰めは結構です」
「慰めじゃなくて本気で思っています」
「あなたがどう思おうが、某には関係ありません。諦めてください」
「じゃ。じゃあ、君はいつ諦めなくなるんですか?高校三年ですか?大学四年ですか?就職してからですか?」
「君に宣言する必要はないです」
「あります。僕は君に成仏させてほしいんですから」
「しつこいですね。どうして某にそこまで………なるほど。わかりました」
「え?」
(な、何だろう。いきなり無表情になって)
思わず身構えてしまった僕を、彼は無表情のまま見上げた。
「霊だから。という理由だけで某は判断しません。強いあなたなら、意思疎通もきちんとできそうですし。だから、とりあえず。節度ある付き合いを重ねて行きましょうか?」
「え?」
(2022.5.9)
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