第10話

まずは本題に入る前にジャン王子がこの国についてどう思うとエレナに問うてきた。


この国というとエクール王国のことよね?

エレナにとって生まれ育った国であり、どう思うと言われたところでエレナにはわからなかった。


「そうですね…。いい国なんだと思います」


とりあえず、エレナにとってはいい国だと思うので、まずは無難な返事をしてみる。

エレナはいい国だと思っていても他国の王族からみたら違って見えるのかもしれないし、他人から見ることによって当事者が気づかなかった事がわかることもある。


誰が聞いているかわからないため答え方は慎重にならざるを得ないが、ジャン王子は私の答えを聞くと一つ頷き、


「そうだな…俺もそう思うよ。だがな……」


ジャン王子は少し目を細めて、深妙な面持ちで話を続けていく、


「この国を治める王族があまり仕事していない人間達だと俺はここに滞在している間感じたことだ」


あまり仕事をしない?どういうことなのかしら?

エレナは自分達王族が他国の王族に侮辱されたら腹が立ってもおかしくはないのに、なぜか納得できた。


「……怒らないのだな…。こんなこと言われて腹は立たないのか?」


エレナの様子を見てジャン王子は不思議そうな表情を浮かべていた。

その様子からすると、エレナの第一声は怒りの声だと想像していたらしい。


「……今までのわたくしでしたら第一声は怒っていたでしょうね……。ですが、ジャン王子の言うことになぜか納得できる部分もあるのです」


そうなのだ。お姉さまが失踪するまでは当たり前に思っていたことが、今では何かおかしいと感じてしまっていた。


それはここ最近、プロフィトへ視察に行って帰ってきてから強く意識していることで、どうにかできないかと思っていたのだ。


「…なるほどな…」


ジャン王子は一つ頷き、こうも続ける。


「この国で出会った王族の中ではエレナ皇女が一番まともだと判断した上で聞いてもらいたいのだが、このまま話を進めてもいいだろうか?」

「かまいませんわ」


エレナはこの国の未来の事を考え、どんな話がきても驚かず、受け止めようと決意をする。

実際、お父様も姉もまともでない事はエレナがよく知っているからこそ、エレナがしっかりしてきている部分もある。


「ありがとう。……では話を戻して、俺がそう思いいたった理由から説明するぞ」


エレナが静かに頷くと、ジャン王子が真剣な眼差しになり話していく、


「この国は滞在してみてわかった事だが、国民は生き生きとして活気がとてもある。それだけ見るといい国だが、上に立つ人間が遊び呆けていることに俺は思う事があるんだ」


「…それは…、確かにわたくしはお父様が長い間デスクワークできないことや、お姉さまが仕事を真剣にしているところなど見たことありません」


「そうだろう?俺は見ていて、まともに仕事をしているのはエレナ皇女とその部下たちだけだと思うぞ。エレナ皇女がしっかりしているからこそ国王もエクレオも甘えているとみた。エレナ皇女は今までそれに疑問に思わなかったのか?」


「お恥ずかしい話、こうしてジャン様と関わりを持つまで疑問に思うこと、自分がしなくてもいい仕事をしていたとは思ってもいませんでした」


エレナは考えてみればおかしいと思うことを今まで気付かなかった自分が恥ずかしくなった。

これが今まで普通だと思っていたし、これからもそうだと思っていたけど実は違ったのね…


「気づかないのも無理はない。そのように教育されてきたのだから当たり前だと思うぞ。だがこのままだとエレナ皇女に負担がかかっているのは事実だし、国王や未来の王妃がそれでいいのかと俺は疑問なんだ」


ジャン王子が言うにはエレナに負担がかかりすぎているため、このままではエレナが倒れてしまうという。

事実、ここ1週間働き詰めであまり休めていないエレナであったし、今は仕方なかったとしても今まで姉の仕事も手伝っていたというのもおかしな話だった。


「そこで提案なのだが……」


ジャン王子がこの問題を解決する案を出してくれるみたいで、一体どういうものかとエレナは疑問に思う。


「まずはエレナ皇女、貴方はウォルフ国に来る気はあるかな?」

「えっ!?」


エレナは自分の耳を疑ってしまった。

今なんて言ったの? 聞き間違いよね?

そう思って見るとジャン王子は至って真面目な顔で私を見つめてくるので冗談ではないようだった。


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