第1話

「おひさしぶりです。エクール国第二皇女エレナ・アーティス・エクールと申します。この度姉が体調を崩しましたので快調するまでジャン王子のお世話係となりましたのでご挨拶に参りました」

「あぁ…」


一度目を向けただけですぐに視線を持っている書類へともどしたこの人は姉、エクレオ皇女の婚約者であるジャンという。


この度ウォルフ国から親善大使として半年間滞在中で、あと2、3ヶ月この国にいるらしい


エレナとジャン王子は毎回挨拶はするが、それきりでそんなに接点はない

なので、どんな人物であるかはほぼお姉さまから聞いたことがすべてなのである


お姉さまからは『威圧的で愛想はない』と聞いていた

確かに愛想はなさそうだけど、思ったより威圧的ではないような気がする

まだしっかりとお話ししていない断定するにはまだ早いと思うが…


今日から私はこの方のお世話係になったのだけれどその役目はお姉さまがしていた

できるだけお姉さまがしていたようなことをしたいのだけれど…

お姉さまはジャン様がきている間何をしていたのだろうか?

滞在中、快適に過ごせるようにということで配属されているのだから役割はきっとあるはずだ


近くにいたジャン王子の側近にそれとなく聞いてみる

「お姉さまは普段なにしていましたか?」

「そうですね。特になにもなさってませんでしたよ」

「えっ!そうなんですか?」

「はい。彼女はここにきてずっとお茶を飲んでいましたね」

「そう、なんですね…」


お姉さま!何をやっているのですか!?

ジャン王子のお手伝いをするわけではなく、お茶を飲んでいただけなんて、邪魔しにいっているのではないですか!?


お姉さまはもしかしてお世話係りの仕事をまったくしていないのでは?

いや、断定するのはまだ早い…しばらく様子を見なければ…

お姉さまが国際問題に発展するようなことをしていたという疑念がここにきて浮上してきたが、それを追求するのはお姉さまが見つかってからだ


お姉さまは現在、失踪し見つかるまでは私が担当になったのだからこれから解決していけばいい

幸いお姉さまの事でウォルフ国の皆さんは問題にはしてそうにもないが、一歩間違えれば国際問題にまで発展する案件…

これから気をつけてなくては…


「こちらにきて何かご不便は感じておりませんか?」

「いや…特にないな」


だよね。お姉さまはほとんど何もせず、今まで自分達でやってきたんですもの、そりゃないよね


「では、これからは何かございましたら。すぐにお申し付けください。対応をさせていただきますので…」

「ああ」


その答えは了承したということと判断しても大丈夫ですよね

「では、何かお手伝いする事はございますか?」

「いや、ないな」

「そうですか…」


なんかお姉さまの気持ちがわかったかも…

そっけなくてこちらから歩みよろうとしてもバッサリと言われるとイラッときますね

だからお姉さまはこちらに1日に一回は訪問してお茶を飲んでから立ち去っていたのではないかと推測した


「ああ、そうだ。頼み事はないからそんなに毎日こなくてもいいから」


そんな事を考えているとジャン王子が私を見てそう言ってきた。

そうですか、自分達でなんでもするからいらないってことですよね

それよりお姉さまじゃないとダメということかしら?


「そうですか。わかりました」

「俺も忙しいし、特に用がないのなら無理に来る必要はない。それにここに来るよりもっとすべき事があるんじゃないのか?」


確かに、私も一国の皇女であるから公務はある

それにお姉さまも失踪した今、やらなくてはいけない事は沢山あるのだ

ジャン王子の申し出はありがたいけど、言い方になにか気に触るものがあるな


「お気遣いありがとうございます。ですが一日一回はこちらに訪問させていただきますので、よろしくお願いしますね」

何もないようなら本日はこれにて退席させていただきますわ

とエレナは部屋から出ていった


お姉さまみたいにお茶飲んで帰る事はしないよ、だって仕事もしないのにここにいる時間がもったいないもの


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