ある撮影の1シーン

kukukuri

第1話

 北海道東部深夜、耳が痛くなる程静かで息をするたびに白く吐き出される。

人気もないこんな所にいるのは、動画を撮影するためだ。

 普段見慣れない画像を視聴者に提供して小銭を稼いでいるが、自分自身好きで撮影をしている。都会に住んでいては見れない画像は、意外と再生回数が稼げるしな。自然豊かな風景が、ここには沢山ある。

 しかし今日は心霊スポットで撮影だ。何回か色々な所に言っているが変な事が起こることなんて滅多にない、それを視聴者が喜ぶ物に撮影するのは、企画と素材を生かせる腕だな。

 それに本当に怖いのは幽霊じゃない、月の出てない夜なんて手を伸ばしても何も見えない暗闇が怖い、視覚が塞がれると音に敏感になる。自然の中にいると色々な音がする。少しの草の音でもビクつくものだ。

 この辺りに人に飼われていない自然の馬がいるが、昼間でも出会って囲まれた時に凄いプレッシャーだったが、夜の蹄の音と鳴き声を聞いた時には終わったと思った。星灯をバックにした馬のシルエットは幻想的で良い画像が撮れたけどね。でもここで一番危険なのは「やまおやじ」だ。出会ったら命が危ない。この季節には出てこないが、現代でも自然は危険だ。

 でも逆に自然は、本当にたまに幻想的な景色を見せてくれる。


 本日も良い画像が撮れてる。満月なので怖いと言うより、ホラー映画の1シーンの様な画像だ。川の温度が気温より高い為に、モヤがまるで雲の上を歩いている情景を作り出している。白樺の林もキラつく雪とのモノトーンで、この世に自分しか存在しない気分になる。上手く視聴者に伝わると良いな。

 帰り支度を済ませて駐車場へ向かうと、雲ひとつない空に満月が正面に見える。滅多に見れないと思いカメラを向ける。月の光は静寂が似合う、まるで昼間の様に明るく照らされているのは不思議だ。

 その時鳥の鳴き声が響いてきた。そして満月を横切る様にV字編隊の白鳥が横切って行くのが見えた。御伽噺に出てくる様なシーンで思わずその光景に心を奪われた。

 一瞬の出来事だったが、改めてその動画を見ると上手く感動が伝わらない、俺もまだまだだな、これからも良い画像が撮れる様に頑張るとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある撮影の1シーン kukukuri @kuri8463

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ