02 異世界動物研究部へようこそ
こじんまりとした教室、学校の隅っこに佇む理科室の……隣に存在する理科準備室。ここが生物部の部室らしい。理科室?そっちは化学部に取られたらしい。
そんな場所に僕は連れてこられた……無理やりね!
「いやはや勧誘に乗ってくれてありがたいよボーイ!」
「勧誘じゃなくて脅しだよあれ!!」
遡ること数分前、僕はこの星形サングラスの変人さんに部活動に誘われた。もちろん断った。こんな不審者について行きたくないし!なによりどの部活にも入る気はなかったんだ!
それがコイツはなんて言ったと思う?
『断るの?なら叫ぶけども。さあどうする?側から見たらキミはいたいけな女子高生に無理やり襲い掛かってる悪い男にうつるだろうね……』
「ふざっけんなーっ!!」
「いい作戦だったろう?事実、ワタシはこうしてキミをここに連れてくることに成功したんだから」
「そりゃ警察沙汰になりたくないからねっ!!最悪だよバカ!!」
いや、本当に最悪だ!この女に対する信用性はもう地の底。その場しのぎで連れてこられたけど、部活にも当然入る気はないよ!
「っていうか汚い!なんですかこの部屋!?ゴミ溜め!?」
「仕方ないだろう準備室なんだから。モノがたくさんあるし散らかりもするさ」
「ちゃんと片付ければそんなことないと思うんですよ……なに、この積み上がった箱は?捨てなよ……」
「ああ、それはお土産の生八ツ橋だ。食べるかい?」
「絶対腐ってるでしょこれ!!遠慮します!!」
はい、もう僕帰ります。
◆◆◆◆
「頼む!少しだけ、少しだけでいいから見てくれよ!活動内容を!!」
めっっっっちゃ食い下がってきた。慟哭しながら足にしがみついてきたときはもうドン引きですよ。嘘でしょ?恥じらいとかないの?
「わっ、わかったよ。見てればいいんでしょ」
「よっしゃ!そうこなくちゃあ面白くないよねぇ!フヒヒっ!!」
根負けした。
仕方ないから見るだけ見てみる。まあ最初から印象最悪なんで入る気は全くないし。
それに、これは中学のときの経験談ですけど、部活なんて入るだけクソですから。
いきなり「スライディングしてみてよ!」って無茶振りされたことある?辛いよ。僕出来ないからね。
あぁ!!そうですよ!!所詮、僕は運動部の癖に身体の動かし方下手ですよ……と、この話は楽しくないからやめよう。
「まずはいまここにいる生き物を紹介しよう」
この変人はむくりと立ち上がると、そう言った。
別に何きても驚かないけど。折角なら珍しいのにしてほしいよね。せめて退屈なしのぎくらいには……。
「そう、これがイグアナのキャシーだ」
「いやまてまてまてまて!!」
生物部だ。イグアナが出てくる。ここまではまあ珍しいかもしれないけど自然だ。問題はそのイグアナのキャシーの姿。これさぁ、どう見ても、どう見ても。
「どう見てもドラゴンだよ!!イグアナじゃないよね!!」
ピー、という鳴き声と共にはためく翼は、蝙蝠のような骨格で、それでいて爬虫類の鱗に覆われている。このキャシーというイグアナ、まるで創作物のドラゴンそのもの。
そしたら変人グラサン女は決めポーズみたいなことしてこう言った。
「ようこそ、異世界動物研究部へ。ワタシは部長の
はっはっはと高笑いが教室に響く。このサラダという女。やばいやばすぎる(確信)
これは多分悪夢に違いない。
「頬をつねっているが、キミ、これを夢だと思っているのかい」
「
「じゃあ触ってみるかい?そうすれば否が応でもわかるだろうねぇ?夢かどうか」
「……!!」
そう言われて、サラダが抱きかかえたドラゴンを差し出され、僕は恐る恐る手を伸ばした。その翼に。嘘だよな。嘘だと言ってくれ……。
「ギャァ!!」
「痛え!!」
翼でほっぺぶっ叩かれた。痛すぎワロタ。
いや違う、あり得ない現実を受け入れられずに笑うことしかできないんだ。マジかよ。実態じゃん、ドラゴンじゃん……。
「信じてくれたかな?」
そう言われたのでアンビリーバボーって返した。
◆◆◆◆
「ドラゴン類ファフニール科。食性は肉食。イグアナとは言ったが似ても似つかないなぁ。敏捷に動き、前脚と後脚にしっかり伸びた黒い爪は、間違いなく捕食者側の持つソレ!二足歩行で動く様は某映画のラプトルを彷彿とさせるね!」
なにその見たことない生物分類学。
僕は未だ目の前に写ってるのが夢なんじゃないか?と思わずにいられないんだが、頭が時間と共に順応してく。「これは現実だ」って。
「最初は意味不明だと思う。ワタシもびっくりしたよ。どこからともなく不思議な生き物が現れるんだから。だが理解してほしい。真実なんだと」
「僕からすると貴方も不思議な生き物みたいなもんなんですけどね……」
「失敬な!ワタシも人間だぞ!」
「普通の人間は学校に星形サングラスしてきません」
そんなことしてたら怒られますよ?あのゴリラ顔の体育教師に。ただでさえ校則厳しいんだから。そんなふざけたモノしてたらどうなることやら。
「"普通"ねぇ?それはキミの中の物差しでの"普通"でしかないだろうに。視野が広がれば価値観も変わる。常識を疑え、日常の何気ない一幕から目を離すな。それが人生を豊かにする」
なにそれ?なんか意味深っぽい言い方するなぁ。
と、サラダは「そんなことより」と、話を強引に進める。
「改めて紹介しよう。異世界動物研究部。表向きは生物部、どこからともなく現れる不思議な生き物、現象、物体、それらを解明するべく、ワタシが立ち上げた部活!!」
「どこから、ともなく?」
サラダは頷いた。曰く、この世の怪奇現象やらUMAやらの8割はこの世界とは別の、所謂『異世界』からやってきていると。胡散くさ!
「そう!例えばこのキャシーくんもまた、地球外からやってきた生き物になのさ!」
僕は小さなドラゴンのキャシーの目を見た。首を傾げている。まんまるなお目目が愛らしい。
「さて!
「うわっ!!な、なんですか!?ネギ君??」
バン!と机を叩き、突然立ち上がる。びっくりするので、やめてほしい。あとネギ君ってなに、
「キャシーのいた"異世界"へ行ってみよう」
「はぁ?」
よくわからない発言は困惑するので、もっとやめてほしい。
「どういうことですか?異世界に行くって」
「そのまんまの意味さ!!キャシーのいた故郷。こことは違う世界、ドラゴンや不思議な動物たちが当たり前のように生きる世界!!そんな素晴らしい世界を一目見る気はないかと問うているのだ!!」
両手を広げて高らかに。彼女は鼻息を荒げながら熱弁する。
「ネギ君!!」
「
「ワタシはちょっくら行ってくるがキミはどうする?行かないというのなら……ここで約3600秒の時間を浪費し、暇を弄ぶ事になると思うが?」
「まって、異世界ってそんなコンビニ感覚で行けるんですか」
「ああ!いけるとも!!」
「えぇ……」
弱ったなぁ。異世界なんてフレーズ聞いたらちょっと気になるんだけど。流石に怪しすぎない?
だって普通さ、異世界って行ったきり、苦労しても帰ってこれるかどうかな場所でしょう?いやだよ。いくら現実が嫌いだからって家に帰れなくなるのもそれはそれでいや。
なんならこれきっと新手の詐欺だよ。気づいたら路地裏に連れ込まれて黒服の男たちに捕まって、みたいな想像できちゃうくらい怪しいよ?
いやぁ、流石に行かな……キャシー?なんで裾引っ張るの?そんな、来てほしいみたいな、そんな。
「おやおやぁ?随分と懐かれているじゃないか」
「な、懐かれても困るんですけど!?」
一体僕の何を気に入ったのか、キャシーはぴったりと巻きついた。さっき羽根で引っ叩いてきたのにどういうこと?
「これはアレだね、寝ようとしてる」
「えぇ?」
「こんな一瞬で警戒されなくなるなんて、キミ、天性の動物使いかもしれないね」
「はぁ」
キャシーはそのまま目を瞑り、すやすやと眠りの体制にはいる。今ここで僕の知られざる才能が目覚めたらしい。なんともピンとこないし釈然としないような才能が。
悪い気はしないんだけどさ?
「で、どうする?行くかい異世界」
そうして答えを急かすように言われて、僕はつい答えちゃう。
「行きます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます