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 庭先で力尽きたように休んでいた私に、慌てて駆け寄ってきた彼女が最初に命じたのは入浴だった。

 主よりも先に湯を使ってよいものかと思ったけれども「いつまでもその汗と埃に塗れた姿で家のなかを歩き回られては困ります」と言われては従うしかない。

 それに本音をいえば私自身も早く汗を流して着替えたかった。


 浴槽に浸かると、湯の温もりが全身に染み込んでいく。続いて疲労が溶け出して抜けていくような感覚。休憩のたびに感じていた脱力感とは違うなにか。

 酷使されて強張り疲弊した手足が解れていくような心地よさ。これまでも暑さ寒さに辟易して昼や夕方の早い時間から入浴することはあったけれども、今日ほどその有難みを感じたことはない。これは一日かけて汗に塗れくたくたになるまで働いたからこそ感じられるものなのだろう。

 それは金銭だけではない労働の対価のようにも感じた。もしかすると、この仕事を最初に与えたのは労働というものを知らない私への、ベスの気遣いだったのだろうか。


「考えすぎ、でしょうか」


 本当は大した意味などなかったのかもしれない。けれども私はこれ以上考えるのをやめた。都合よく解釈しておくのもきっと日々を楽しく過ごすコツだと思うことにして。


 それからしばらく、風呂の支度は私の日課になった。もっとも翌日は全身筋肉痛で満足に立ち上がることも出来ず早速休みを申し付けられたのだけれども。

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