Worked Reward

1

 初めての朝、鎧戸の隙間から漏れる陽光に自然と目が覚める。

 窓を開けてみたけれど日はまだそれほど高くなかった。寝坊はしていないだろう、たぶん。

 着替えて部屋を出ると、キッチンでは既に家の主が朝食の支度を始めていた。


「おはようございます」


 まず挨拶をしてから少し思案し「遅くなってすみません」と付け加える。いつまでに起きるようにと言われてはいないけれど、主人より早く起きるべきだったのではないかなとは、思わなくもなかった。


「おはようございます、リズ。当面は朝食の支度が終わるまでに起きていていただけば充分です。食事の支度は暫くのあいだ私が行いますのでお気遣いは不要です」


 彼女はちらりとだけ振り返ったが手を止めることはなく、そして私が手伝うと言い出すより早く釘を刺した。確かに、料理をしたことはないのだけれど。


 リズというのは私、リゼッタの愛称だ。今日からここで使用人として働くことになった。といってもなにひとつ満足にできず、昨晩さっそくカップをひとつ犠牲にした。

 今朝食の支度をしている少しばかり年上の彼女は主人のベアストリ。元は私の屋敷で働いていた使用人だったのだけれど、今はなんと二十年分もの賃金を前払いして私を雇っている。

 彼女がなぜこれだけの大金を用意できたのか、そして今どんな仕事をしているのか、私はなにも知らない。




「リズ、私が出掛けているあいだにお願いしたい作業があります」


 朝食とその片付けを終えたところを見計らってベアストリから声をかけられた。食器の片付けは自分から申し出たものなので、実質初めて彼女から与えられる仕事になる。


「はい、なんでしょうベス……ベアストリさま」


 今までのクセでつい愛称で呼んでしまい、慌ててあとを繋ぐ。仕事も聞かないうちから気まずくなっている私に対し、しかし彼女は表情を変えることなく小さく首を横に振った。


「今までどおりベスで結構ですし、さまも要りません」


「でも……」


「私が家でくつろぐための配慮だと考えてください。厳格な上下関係を自宅に持ち込みたくないのです」


 それも仕事だといわれてしまうと反論はできない。私としては上下のけじめはあるべきだと思っているのだけれど、主人である彼女本人がそれを望んでいないという状況はまったく想定していなかった。

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