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「お口に合いませんでしたか?」


「えっ、あ、いえ、大丈夫です」


 食事は贅沢ではないとはいえ充分に美味しかったのだけれど、確かに貴族の娘なら平民の食事が口に合わないと言い出しても、言わないまでも思ったとしても不思議はない。

 私は慌てて食器に視線を落として食事に口をつける。

 誤解されてしまっただろうか? 不安になってちらりと視線を彼女へと向けたけれど、黙って食事を再開した彼女の顔から感情を読み取ることはできなかった。


 これから毎日一緒に食事をするというのに、初日からさっそく彼女を不快にさせてしまったのではないだろうかと不安が首をもたげてくる。なにか言わなくては、そんな気持ちが私に口を開かせた。


「誰かと食事をするのは久しぶりだったので」


 屋敷で唯一食事を共にする機会のあった父が失踪してからというもの、私は今日まで一度も誰かと食卓を囲むことはなかった。

 使用人の食事は主人の食事が片付いてからというのが我が家に限らず一般的なので、当然と言えば当然なのだけれども。しかし慣れていたつもりでもひとりの食事というのはやはり味気ないのだ。

 当時は気付かなかった、そんなことを考える余裕もなかったのだけれど、今ならわかる。


「今にして思うと屋敷にいた頃の食事はいつもひとりで、なんとなく冷たい食卓だったような、そんな気がするんです」


 なにぶん無口な彼女なので和気あいあいといった雰囲気ではないし、初めてのことで緊張もしているのだけれど、それでもひとりでの食事よりはずっと暖かいと感じた。


「なので、その……ちょっと、嬉しくて」


 なんと言っていいのかわからないけれど、とにかく気持ちが伝わって欲しいと思って口にした言葉だった。

 たぶん私は嬉しいのだ。

 手を止め沈黙で私の言葉が終わるまで聞き入っていた彼女は、伏し目がちに視線を食器に落とし「同感です」と一言だけ呟くように言った。


 同感。


 同じように感じている。


 今の会話でなにと同じかといえば、それは嬉しいという言葉しかないだろう。つまり、彼女も私と一緒に食事をするのが嬉しいということなのだろうか。

 予想外の言葉に聞き返しそうになったけれど、少々しつこいかと思うと気が引ける。

 とはいえ気になって仕方がないのもまた事実で、落ち着かない気持ちで食事を続けながらちらちらと彼女の様子を伺っていたのだけれど、結局無表情な彼女の気持ちを見通すことはできなかった。

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