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 受け取った答えが今ひとつ腑に落ちなかった私は彼女のあとに続きながらも質問を続ける。


「ええと、今後なにも植える予定はないということですか。じゃあ、今まではなにを?」


「私があの花壇を使ったことはありません」


 今度は答えまでに大したはなかった。ただ、あまりにも予想外の答えではあったけれど。

 え? と短く声をあげた私に対して彼女は律儀にもう一度同じ言葉を繰り返した。


「私があの花壇を使ったことはありません」


「えええ……」


 変な呻き声が出てしまった。言葉にできないとはまさにこのことだろう。

 庭の一角に花壇があり、他の場所と同じようにきっちりと手入れもされている。にもかかわらずなにも植えたことがない。

 まったくの無関心であるのならまだしも、これだけ手入れをしているのであれば例え彼女がくるみ割り人形だったとしてもなにかの種くらい蒔くのではないだろうか。

 私は動揺しながらも彼女のあとについて家の中へ戻りつつ、たとえ差し出がましいと言われようともあの花壇にはなにか植えようと固く決意したのだった。




 食事はその日の夕食から彼女と一緒にとることになった。

 主人の食事に使用人が日常的に同席するなど私が知る限りでは初耳だったけれども、時間をずらすと片付けの手間が増えるなどといった理由が彼女にとっては大事なようだった。


 思えば屋敷での食事は大抵ひとりだった。

 父はあまり家で食事をしなかったし、他にいるのは使用人だけなので共に食卓を囲むことはない。友人が少ないわけではなかったけれども、私から積極的に屋敷に招きはしなかった。昼間から酩酊している父の姿や、その父が連れ込んだ見知らぬ女性の姿を友人に見られたくなかったからだ。

 どちらも私にとって珍しい光景ではなかったけれども、他人に見られて恥ずかしくないとは到底いえたものではない。それによって父が蔑みの目を向けられたり私が憐みの目を向けられたりすることも避けたかった。

 幸い、友人たちはみんな私を食事やお茶に招いてくれることはあっても屋敷にきたいと言ったりはしなかった。今にして思えばみんな気を使ってくれていたのだろう。


 手を止めてぼんやりと思索に耽っていた私の様子を怪訝に思ったのだろうか。気が付くと彼女も手を止めてじっとこちらを見ていた。

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