Awkwardly Reversal
1
見知らぬ部屋の見知らぬ天井。ベッドと鏡台と書棚つきの小さな机、それからクローゼットがひとつ。これが今日から私の住む部屋になる。
つい先日のこと、私の家は破産した。
貴族階級である我が家は父の放蕩が原因で多額の借金を作ってしまい、当の父は蒸発。この家の人間としてただひとり残された私が家の財産を整理してその返済を行うしかない。
しかし全財産を投じても残念ながら完済には足りなかった。
そこで残りの借金を支払う手段として、決まった年月の賃金を先に受け取ってから働く年季奉公を選択した。
先に受け取った賃金はすべて借金の返済に充てているため年季があけるまで追加の収入はなく、住み込みになるので自由もあるとは言い難いのだけれど、自分で選んだことなので悔いはない。
今のところは、だけれど。
それに、悔いはないと強がったところでやはり懸念は絶えない。例えばそう、今一番の懸念は私を雇った主人のことだろう。
主人は、まだ私が貴族として悠々自適に過ごしていた頃に身の回りの世話をしていた使用人だった女性なのだ。
破産した私が元使用人に逆に雇われるという状況は、なにかよほど恨まれていて仕返しでも目論まれているのではないかと勘繰ってしまいそうになる。
しかし幸か不幸かそのような心当たりはなく、家に招き入れられた時の態度などを見るかぎりではそのような考えは杞憂にも思われた。
もっとも、私が恨みに鈍感な愚か者でない保証はどこにもないのだけれど、こればかりは祈るしかない。
どちらにせよ前払いで報酬を受け取ってしかも使い切ってしまっている私が彼女のもとで働かないという選択肢は存在しないし、そもそも家事のひとつも満足にすることなく安穏と過ごしてきた私に人並みの仕事ができるのか、というところからずいぶんと怪しいので懸念を言い出せば本当にきりがない。
それでも決して安くない額を支払って私を雇い入れた理由がただの偶然とはさすがに思えず、さりとてこれから長く仕える相手に単刀直入に聞いてしまう勇気もなく、この想いはただ澱のように心に沈めておくしかないのだった。
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