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世間的には奴隷商人などという不名誉な仇名で呼ばれたりもするひとではあるけれど、私のなかではかなり信頼のおける人物だった。
だからといって私自身がその仇名のお世話になるなんて夢にも思いはしなかったし、心中穏やかでいられるとはいえるはずもないのだけれど。
では、彼はどうなのだろう。
私が最後の手段である年季奉公を選ぶより前に、実は彼から別の清算方法を提案されていた。
それは裕福な平民との結婚だ。
我が家の借金を肩代わりできるほどの資産を有する平民男性を婿に迎えることで、私は借金を清算し婿入りした平民は貴族の階級を得る。ある意味で政略結婚と言えないこともない。
私にはよくわからなかったけれど、彼によれば大抵は財産を得ると次は名誉が欲しくなるものであるらしい。
そんな資産家の平民にいくつか心当たりがあると、望む結婚ではないにせよ、なにもかも失うよりはずいぶんマシなのではないかと、要約するならばそんな話だった。
彼としては心から親切での提案だったのだろう。
実際に裕福な平民の資産目当てに婚姻を結ぶ貴族は私の周りでも幾度か聞いた話だったので、そう特別な手段でもないのだと思う。
私だって貴族として生まれ育った以上、必ずしも結婚相手を選べるとは限らない。むしろ選べない可能性のほうが高いことは重々承知していた。
けれども私はその提案を断った。
彼の提案が親切からのものでも、もともと親のいうままに結婚するしかなかった立場であっても、今その選択肢へ自分から手を伸ばしてしまうのは、それは私の一生に自分で値段を付けてしまう行為のような気がしたのだ。
年季奉公であればいつか年季があけて自由の身になる。とはいえそのあいだもそのあとも、おそらくは結婚を選ぶよりずっと大変な道になるだろうことは私にだって容易に予想できる。
後悔だってきっとするだろう。
世間知らずの私が予想できる程度の苦労など現実には到底及ばないかもしれない。
それでも、だとしても、だからこそ、自らの手で一生を売って安穏に今の生活を維持するような選択はしたくない、自分でなんとかしたいのだと彼に伝えた。
私は、今でも一応勤勉を自認しているのだ。
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