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私の身の回りの世話をするために雇われていた彼女は元から少し不愛想で融通の利かない、よく言えば生真面目な性格をしていた。
そんな彼女が向けてくる仕草や言葉からひとかけらの蔑みも憐れみも見いだせないことを、私は少しだけ不思議に思っていた。
よくも悪くも私の今後に関心のあった周囲のひとたちとは違い、私の行く末になどなんの興味もなかったのだろうか。
それとも、生真面目な彼女は仕事に私情を垣間見せないよう努めていただけで、つまり私が知らないだけで、やはり彼女なりに気持ちの変化があったのだろうか。
だとしたら、本当はどう思っていたのだろう。
そしてもし再び出会うことがあったなら、貴族の生き方から脱落した今の私を彼女はどう扱うのだろうか。
私が、今となってはなんの意味もない思索に耽っているのには理由がある。
それは歳の離れた男性とふたりきりで馬車に揺られている居心地の悪さや手持ち無沙汰だけでなく、これからに対する現実逃避だった。
向かっている奉公先について、私はなにも知らされていない。
こちらからは尋ねたのだけれど、仲介は気持ちよく済ませたい主義だから心配しなくてよい、という主旨の返事をされただけだった。
これからすぐに会うことになるのだから隠しても仕方ないだろうと頑張ってみたものの彼はあくまでも教えるつもりがないようで、のらりくらりとはぐらかされてしまう。
そうなるとやはり立場的にあまり強く出る気にもなれず、不安を覚えつつも途方に暮れた私は仕方なく現実逃避に勤しんでいたというわけだ。
共に馬車に揺られている彼のほうはというと、ぼんやり窓の外の景色を眺めてはときどき他愛ない独り言のように景色や天気の話を振ってくるだけだった。視線もあまり向けてこないが、関心がないというよりは気を使っているようにも感じる。
彼は父の友人で、以前から何度か話をしたこともあったので気心はそれなりに知れていた。
私に代わって父の浪費を諫めてくれたことも一度や二度ではなく、父が姿をくらましたときにはすぐ捜索の手配をしようとしてくれた。
私はもっと他にやるべきことがあると主張してその手配を断ったけれども、 それ以降も借金の返済処理に苦戦する私に嫌な顔ひとつせず個人の引き取り手や故買商を紹介してくれたりと、使用人の彼女と並んで恩人と言えるひとだった。
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