物理実験室で (後)
「……
一部始終を見ていたはずの男子生徒が問う。
「そんなことするわけないでしょ! うちはホワイトな部活なんだから」
「ホワイトなのは間違いないですね。まあ、そのせいでこの有様ですが……」
確かにこの教室は4人で使うには広すぎる。
ぽかんとしながら部員たちの様子を見ていると、俺が放置されているのを察した男子生徒が、
「ああ、すまない……。クイズ研究部にようこそ。部長の
「だから拉致してないわよ!」
残念ながらここで握られたままでいた手が離れてしまった。今まで感じたこともなかった繊細で柔らかなその感触をもうちょっと感じていたかったのだが。
「――わたしは
俺をクイズ部に引っ張り込んだその人は、そう言って軽くお辞儀した。
そしてもう一人。
「私は
後ろ姿からも想像がついたが、ふんわりとしたショートボブの彼女はやはり利発そうな綺麗な瞳をしていた。
「ところで、君の名前を教えてほしい」
「
たどたどしい自己紹介に、
「固くならなくてもいいよ。同じ1年生じゃないか」
そうは言うが、先輩だっているし……。
出雲さんは妙な敬語など気にしていないと言いたげな笑顔で、
「珍しそうに見てたけど、クイズに興味あるよね?」
普通それは廊下での第一声になるはずであって訊く順序が逆だろうと思った。
「うろついていたら目に留まったので――」
偶然を装おうとしたが、
「――実は、高クイを見てここに来ようって思ったんです」
言い直した。それならどうして今まで見学にも来なかったのか、と言われそうで気まずかったのだが。
「本当に? 嬉しいよ!」
出雲さんの表情から察するに、心配する必要など皆無であった。
出雲さんの表情がいっそう明るくなったのは勿論のことだが、同時に高千穂さんの顔がほころんだのも、俺は見逃さなかった。
「先輩たちは去年の高クイに出たんだよ」
「まあ、ひな壇にいて、顔もテロップと一緒に流れただけだから見覚えないかもしれないけど」
白紫さんの説明に、出雲さんはこう補足して照れ隠ししているが、実に誇らしげである。
「もっと早くここに来てみたかったんですけど……その、全国大会に出るようなところですし……キツい部活だったらどうしようって
「まず学校生活に慣れるのがたいへんだもんね。でも安心していいよ。うちは厳しくないから。課題が終わってなかったらそっちを優先していいし。むしろ私たちが見てやってもいいよ」
高千穂さんは深く相槌を打つ。
実に頼もしい。本校最上級の頭脳がバックアップしてくれるとあらば、高クイだろうが大学入試さえも怖くないってものだ。
「見るだけではつまらないだろう。高村君がよければ今日から参加してみてはどうだろうか」
白紫さんに誘われて、
「もしよければ、参加したいです」
またも遠慮がちな言葉を発してしまったが、
「悪いなんてことあるはずないじゃない。こっちにおいでよ」
出雲さんはそう言って早押しボタンを手渡した。
「それじゃ、早押しクイズ始めよっか!」
高千穂さんは教壇に登って出雲さんに言った。
「問読みは僕がしよう。ひかりもそろそろ答えたいだろ」
「ありがと!」
元気よく高千穂さんに返事した出雲さんは、謎の装置がたくさん詰まった箱に手を伸ばした。
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