第4話 奪ったもの・奪われたもの 1

 ヒカルの名前と存在をうばった少女は、幸太郎こうたろう生涯しょうがいえたあとより少し先の時代に生きていた。

 令和れいわとは多少のまち景色けしきらしが変化へんかしていても、少女はこの時代の普通ふつうの女子高生だ。


「あーっ、ウソでしょ!?昨日きのう登校とうこうしたばっかりなのに!サイアク!!」

 自分の部屋にあるモニターに何度アクセスしてもエラーが表示されることに少女はあせり、かべの時計を見て青ざめる。


 学校には年に90日の授業じゅぎょうとイベントに登校すれば残りは家で授業を受けてもいいことになっているが、各家庭かくかていのデバイスから教室へアクセスできなければ当然とうぜん欠席扱けっせきあつかいだ。

 

 モニターそのものはこわれていないようでおとなりさんのタクミにはつながった。 

「おはよう!ということで学校にいこ!」 

「は?どういうことで?」

「アクセス不可ふかで入れませーんっ。」

「一人で行けば?」

「だってさ、その…時間ヤバくない?」

「ああ、そっちが目的か。」


 タクミが何かに気づくようにスッと席を外して画面のわくから消えると車で送るよという声がした。

 少しはなれた距離きょりからコーヒーカップを持ったタクミの兄がひょいっと顔をだし、車のキーを持った方の手をヒラヒラさせて見せた。

「さっすがリョウくん!ありがとう!」

 一瞬いっしゅん椅子いすからこしを上げたがリョウの苦笑にがわらいに気づいてすぐにすわり直した。

「なんか見えた?ちゃんと着替きがえたら、行くね。」

 モニターにうつるところだけちゃんとしていればいいと思って、上は制服せいふくで下はパジャマだったのをすっかりわすれていた。手をかるり返して、すぐにモニターをオフにした。



「そういえばおばさんは?」

「服をリビングにらかしてあわてて仕事に行ったみたいよ。」

 リョウとの会話を助手席で聞いているタクミが親子だなとつぶやいた。

「何よ。ガサツだって言いたいの?」 

「それもあるけどさ、親子でワープ苦手?」

「うん、うし体中がゾワゾワするからムリ。」


 13才以上が近距離きんきょりをワープで移動可能な時代とはいえ、この技術に半信半疑はんしんはんぎの人や体質的に合わない人、あえてアナログな暮らしを好む人など生活スタイルは様々さまざまだ。 


「まぁ、僕も車の方が好きだから滅多めったに使わないからね。」

 ふふっと笑いながら優しい声でフォローするリョウとミラーしに目があった。

「ふーん。それだと時間旅行タイムスリップもキツそう。」

「行かない、行かない。過去にしか行けない上に指定されたルートしか回れないとか何がいいの?」 

「右に同じ。僕も過去は興味なし。」

 リョウも心底同意しんそこどういするように肩をすくめる。


「夢がないなぁ。ハタチと女子高生の若者にしてはさぁ。」

 そんな話をしているうちにタクミと通う高校に到着とうちゃく。リョウは仕事のために家に戻った。




(5話 奪ったもの・奪われたもの2へつづく)

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