第2話 ミエルチカラ。

 少年の名は、佐野幸太郎さのこうたろう


「こうちゃん、またかみがくるんってなってるよ?」


 幸太郎のことをそう呼ぶ女子は、遠藤えんどうりさくらいだ。あとは、近所のおばちゃんと祖母そぼ


 小学生の頃は「こうちゃん」「りっちゃん」と呼び合い、おたがいの家を行き来するなかだったが、疎遠そえんになった4年間のかべはとても大きくて、彼のほうはというと「遠藤さん」呼びからなかなかけ出せない。


 昔はもう少し気軽きがるにいろんな女子と会話できていた気がするが、たまに言葉を交わす女子といえば、遠藤りさくらいの17歳になっていた。あとは、近所のおばちゃんと祖母そぼ


 雨の日は、くせっ毛の幸太郎をゆううつにさせる。

 でも、少しは感謝かんしゃしている。


「ここにすわって。」

「あ、うん。」

「わたし、こういうの得意とくいなんだ。」


 ──知ってる。休み時間に友達ともだちかみをセットしてるのをたまに見るし。


「ほら、うち両親りょうしんとも美容師びようしだしさー。」


 ──知ってる。おばさん元気かな?昔はおれもよく髪を切ってもらったっけ。


 頭の中に話したいことがかんでは、「あー、うん。」「そうなんだ。」の返しでわってしまう自分がもどかしくなる。


 本当は、自分でもセットできる。でも、遅刻ちこくしそうになった日にたまたまったらかしにしたら、こんなふうに話すキッカケになったから、言わないでおこうと幸太郎は思っている。


 平均へいきんよりは小柄こがらで、長い髪が似合にあっていて、よくわらい、誰にでもやさしくて、手先てさき器用きようなのに何でもないところでよくつまづく女の子。


 気がついたら目でうようになり、スマホで雨の日をチェックするのが日課にっかになって、晴れマークが続くとガッカリしては、「そんな天気とか関係ねぇよ、普通ふつうに話しかけろよ!」と1人ツッコミしてみたりで、自分の不甲斐ふがいなさにヤキモキするようになった幸太郎。


「遠藤さん」呼びがいつか「りっちゃん」になれたらいいな。


 そのうち、いつか。

 まだまだ、時間はあるんだから。


 そんな風に遠藤りさへあわい気持ちを自覚じかくし始めた頃、ソレは発動はつどうした。


 人の死期しきを夢の中で能力のうりょくひさしぶりに発動はつどうしたのにもおどろいたが、夢にあらわれたのがよりによって、遠藤りさだったこともさらにおどろかせた。


 幸太郎は、それからというもの回避かいひこころみる。


 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 新しい夢を見ては、彼女かのじょを守った。


 夢を見なくなった頃、幸太郎は「りっちゃん」と呼べるようになっていた。


──そして、あの夜に2人の男女に襲われるのだ。

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