消滅まであと7日

牧村 美波

第1話 真夜中の訪問者

 深夜2時。


 黒づくめでフードをかぶった男女がとある少年の寝室しんしつ侵入しんにゅうしていた。


 女のほうはやや緊張きんちょうしていて、ふるえる右手を左手で押さえながらふうっと静かに息をいた。

 男が女のかたたたくと、親指で背後はいごのドアを指す。

 ここにお前がなくても一人でなんとかするぞと言いたいんだろう。

 女はブンブンと首を振り、手の平から手品のようにじゅう召喚しょうかんしてみせた。男も同じように短剣たんけん召喚しょうかんさせる。


 一瞬いっしゅん、2人は目を合わせるとコクンとうなずき、まずは男が短剣を少年の頭にりあげた。


 だが、少年は眠ってはいなかった。

 タブレットでゲームをしながらうたた寝をしているところに2人が現れ、タヌキ寝入りでこの場をやり過ごすか、タイミングをみてにげるか考えていたのだ。


 男の短剣を偶然ぐうぜんに近いタイミングでかわして、短剣はまくらさる。

 少年は、とにかく手当てあたり次第しだいにそこらへんにある物を投げつけた。

 男のひたいに目覚まし時計が当たるりひるんでいるのを見て、ベッドから降りた少年はよろよろと、部屋のドアに向かおうとした。


「待ちなさいよ。」

 左のこめかみにヒンヤリとした感触かんしょくが当たり、少年の動きが止まる。


「ねぇ、何でこんなことになってるか分かる?」

「えっ……いや、えっ…。分か、分かりません」


 恐怖きょうふのあまり少年はうまく言葉が出ず、ややうわずった声で分からないと答えるのが精一杯せいいっぱいだ。



「よくも、やってくれたわね!」

 女はフードをいで少年に顔を近づけてにらみつけた。


 こんな時に思うことじゃないが、サラッとした黒く長い髪にやや気が強そうなつり目だがととのった顔立ちの美少女で、つい少年は顔を赤らめてしまった。

 おそらく、年もそれほどはなれてはいない。


「チッ」

 腹立はらだたしげに少年をゆかたたきつけると、今度はひたいに銃を突きつけた。


「どうして、あの子をすくったの。」

「え…」

「どうして、未来をこわしたの。」

「え…あ…」

「どうして!どうして!どうして!」


 カチッ。

 カチッ。カチッ。


 女は、泣きながら何度も引き金を引いたが不発ふはつに終わった。


「それ貸して!」

 男の短剣をしがったが「今日はもう帰ろう」と止められた。


 男は女をき上げるとしずかな声で少年にいった。

「これはヒーローが瀕死ひんしのお姫様ひめさますくったとかいう単純たんじゅんな話じゃないんだ。映画みたいにそこでエンドロールが流れるわけじゃない。……また来るよ。」



「ちょ!ま、まってよ」

 その場から幽霊ゆうれいのようにスッと2人は消えたが、少年はおどろく気力もなく、しばらくは床に座りこんでいた。


 しばらくして気持ちが落ち着いてくると手元に銃が転がっているのに気がついた。


 あれ?あんな物騒なものを忘れていったのか?

 床に落ちていたそれを拾ってマジマジと見ると、ドラマや映画で見るより雑な子どものオモチャのような形をしている。


 やっぱ、作りもんでしょー。

 あんな華奢きゃしゃな子が持つようなもんじゃないよな?


 ニヤニヤしながら外に向けて引き金を引くとそれはしっかり窓ガラスをやぶり、物騒ぶっそうな音に家族中が目を覚ますのだった。

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