第十一話 辺境伯領にて

ソフィアさんと2人で先行し始めて2時間程が経過しました。ソフィアさんは流石獣人というべきか、一切疲労を見せること無く走り続けています。


偶に魔物に遭遇する時には顔を顰めていますし、体力は無尽蔵という訳では無いでしょうが…

そんな事より、早く目的地に着きませんかね…

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「おかしい…」


あれから更に1時間程走り続けていると、唐突にソフィアさんがそう言いました。

目的地に近づくにつれて私も違和感を感じたので分かります。おそらく、彼女の言いたいことは…


「魔物が多すぎる…」


そう、魔物が多いのだ。頻繁に遭遇するなどというレベルでは無く、走り続けて1つの群れを過ごしたら直ぐに別の群れに合うという程だ。

それどころか、後ろからも魔物が増えている気がするのですが…?


出発したての時は20分で1回遭遇するかしないか程度だったのに…あまりに数が多い為進む速度が落ちてきた。ここまで魔物が多いとは、何が起こっているのでしょうか…


「フレニカ、」


魔物の群れをなんとか捌きつつ進んでいる中、ソフィアさんが話しかけてきた。


「風系統魔法で上空から突破する。フレニカは移動系が使えるか?」

「使えます。というか、私は魔力を温存してたのでソフィアさんを一緒に運べる程残ってますよ…!」


ソフィアさんは戦闘時に手に纏っている爪のせいで魔力を相当消耗してた筈…なら、いっその事私がソフィアさんも運んだら、と思いそう提案する。

それに対するソフィアさんの答えは、


「……お願い出来るか!」

「任せて下さい…!」


絶えぬ魔物の群れのせいで相当消耗しているのだろう。喋る事すらキツそうな声でそう返答してきた。


ソフィアさんも一緒に連れていくことを考えると使う魔法は…『風系統・纏風』まずは自分とソフィアさん2人を覆うように魔法を展開する。


「なっ、無詠唱…!?」


何か言っているがそれよりも早く離脱しなくければ…『空間系統・飛行』これもソフィアさんと自分に掛けたが、ソフィアさんは慣れていないのか上手く飛べてない…!


「失礼します…!」


ソフィアさんに一言断りを入れてから身体を支える。……ふぅ、何とか上空まで離脱出来た…

取り敢えず、ソフィアさんと方針を相談しよう…


「ソフィアさん、これからどうしますか?早く向かった方が良いと思うのですが…」


すると、少し放心状態にあったソフィアさんがハッとして話し始める。


「そうだな…ひとまず、このまま辺境伯領を目指して行く。着いてから次を考えよう…」

「分かりました。では、このまま魔法を掛け続けるので案内はお願いします。」


私の言葉にソフィアさんは頷き、前を飛び始めた。

こんなに魔物が多く居るとは…一体、何が起こっているんですか…?

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「エルバートさん。何か、おかしいですよ。」

「そうですね、違和感があります。」


ロゼリアさんの呼びかけにそう返す。どうやら違和感を感じたのは私だけではなかったようだ。


ソフィアさんとフレニカさんに先行して貰ってから約3時間…私達も急ぎ足で向かっているためこの調子なら予定よりも数時間程早く着く…そう思っていたんですけど…


何かがおかしい。そう、あまりに早く進みすぎている…何が原因だ?いくら急ぎ足とはいえ早すぎる。

……そういえば、まだ1回も休憩していない。


何故だ?3時間もの道のりを軽くとはいえ走っている。いくら全員が高ランク冒険者とはいえ疲労する筈だ。移動だけで無く戦闘だってしているから…


戦闘?そういえば、出発してから魔物と戦っていない気がする。それどころか、魔物の気配すら感じていない……何が起きている?


取り敢えず、魔法で周囲を調べることができるロゼリアさんに魔物が居ないか聞こう…


「【麗冥の淑女】さん、魔物の気配は?」


私の言葉にハッとしてしたのか、ロゼリアさんは…


「出発してから一度も確認してません…!」


そう答えた。これは本格的に…まずい事が起こっていそうですね……

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「フレニカ、目的の場所が見えてきたぞ…」


ソフィアさんの言葉を聞き目にしたのは、前方の草原を聖国の者と思われる軍、そして私達の来た方向…後方を魔物に囲われる街の姿でした。


「ソフィアさん、これは一体…」

「フレニカ、バレないように街の中に入れるか?」


私の言葉に被せるようにソフィアさんが問い掛けてくる。バレないように…恐らく、聖国軍と思われる方にバレないように、という事でしょう。

…多分、先日使った阻害結界なら、出来るはず…


「…出来ると思います。」

「頼んだ。」


私の答えに一言だけ、そう言ってソフィアさんは黙った。阻害結界を使えば問題無く出来るが、少し間違えれば今発動している魔法ごと阻害してしまう…


阻害結界はあらゆるものを外から認識出来ないようにする…とは言ったが、認識出来ないだけで無く魔法自体を阻害する効果もある…だからこそ先日は魔法が触れないように大きく結界を張ったのだが…


それ程大きい結界だと今回の場合は相手にバレる可能性がある。取り敢えず、やりますか…


「ソフィアさん、こちらへ。」


少しでも危険が無いようにソフィアさんを近くに呼び、結界を張る…『空間系統・阻害結界』…取り敢えず張れましたが、誰かが居ると制御が難しいですね……早く向かいましょうか。


「出来ました。ソフィアさん、向かいましょう。」


私の言葉に無言で頷くソフィアさんと共に街へと降りていく…何が起きているか、分かると良いですが。それに、分かれた姉様達が心配です…

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