第四話・閑話 疑いの目

私は「エレネス・フォン・クレヴィア」

現在私は昨日あったことについて考えていた。執務室でいつも通り魔法の研究をしていると、扉をノックする音が聞こえた。


「お嬢様。お客様が参られました。」

「・・・解りました。今向かいます。」


使用人のフレニカが呼んだ声だった。

今日は先日の伯爵の件で取り調べを受けるらしい。恐らく、客人とはその取り調べに来た人だろう。


フレニカに連れられながら客室へ行く。

フレニカは客室へついてからノックをして、


「お嬢様をお連れいたしました。」


そう言うと、部屋から返事がした。


「どうぞ。」


声からして女性のようだ。取り調べに来たのが男性でなくて良かった。男性だったら恐怖で対応出来なくなっていたかもしれないので。


私が客室のソファーに座ったのを確認してからフレニカは斜め後ろの位置に立つ。

取り調べに来た人の顔を見ると、魔法を研究している私にとって、とても見覚えのある人物であった。それは、『永遠の魔女』と呼ばれる魔法使いだった。


彼女は『魔力破壊マナブレイク』以前から生きる魔法使いで、今のこの世界では1番強い魔法使いだ。

私が驚いていると彼女は話し始める。


「さて、エレネス嬢。本日訪ねさせて頂いたのは他でもない。以前この屋敷を訪ねた伯爵だが、暗殺者らしき者を送り込んで捕らえられたのは知っているな?」

「ええ。この屋敷に侵入してきた者達が伯爵の手の者だったと。」


まずは事実確認から入る。私の耳に入っていることと相違がないので頷く。


「その通り。今回はその件についていくつか質問をしたい。」

「質問、ですか?」


質問…彼女がわざわざ来て、何について聞かれるのでしょうか?


「そう。端的に言うとエレネス嬢とそこのメイドさんに容疑が掛かってる。伯爵が言うには自分が嵌められたとね…」

「私が、ですか?私は何もしていないのですが…」

「ふむ。エレネス嬢は『真偽の宝玉』を知っているね?」

「ええ。使用したこともあります。」


『真偽の宝玉』、それはフレニカに質問した時に使用したと嘘をついたものだ。

便利な反面、ハッキリとは分からないというデメリットがある。


「それなら解ると思うが、あれは多少曖昧な物だ。嘘と事実を織り混ぜるとどれが嘘か、どれが事実かが判断出来ない。細かく質問を分ければ嘘が解るが、仮に伯爵が本当に嵌められてた時、そこまで時間をとらせる訳にはいかない。それに伯爵の言葉だからね、無視することが出来なかったんだよ。」

「そういうことですか…解りました。」

「では、質問させて貰うよ。メイドさんも良いね?」

「かしこまりました。」


私は何もしていないので良いのですが、

フレニカまで質問とは...彼女は常識が欠落している面があるので不安だ。

そう心配していると質問が始まる。


「最初の質問だけど、エレネス嬢。

貴女は彼を陥れる様なことはしたか?」

「いいえ。していません。」

「そう。じゃあ次。メイドさん、貴女は犯罪に関わった?」

「いいえ。」

「ふむ。じゃあ2人とも。貴女達はさっきの会話で嘘を付いた?」

「いいえ。付いていません。」

「私も付いていません。」

「そう…じゃあ質問を終わるよ。」


早いですね。全部で3つの質問しかされませんでした。まぁ、フレニカに関しての懸念が無くなったので良かったのですが。


「質問が少ないと思った?まぁ、嘘かどうか確認するだけだし、メイドさんに関しては件の侵入者達を本当に捕まえたのか確認するだけだしね。」


なるほど...しかし、彼女程の人間がこの程度の事で来るとは思えない。何か本題がある筈だ。


「さて、私は仕事が終わったけど、今回の本題についてだ。」

「本題…ですか?」


やはり、何かありました。そう思っていると、彼女は驚きの言葉を発する。


「そう。さすがにこの確認だけをする程私は暇じゃ無いからね。今回はエレネス嬢が伯爵に盗まれそうになった魔法の研究についてだ。それを私の名前を貸して【魔法議会】に提出しないかい?」


そんな、私にとってとても嬉しい提案だった。

しかし、今回の事件では伯爵に無理やり名前を貸すから【魔法議会】に出せる資料を渡せ、そう言われて起こったことです。

なので、彼女であろうと少し警戒してしまいます。


「良いのですか!?ですが…その…」

「伯爵に騙された後だから信用出来ないとは思うけど、私を信じて私の名前を貸すだけだからあくまでエレネス嬢本人に提出して貰うよ。私が付き添うことも約束しよう。」

「…解りました。宜しくお願いします。」


私はその提案を受け入れた。私のスキルを使って彼女に嘘があるかを確認して。

そもそも、彼女なら伯爵のような事をする意味が無いからだ。


「じゃあ、エレネス嬢、魔法について話し合わないかい?」

「良いのですか?」

「勿論。エレネス嬢の様に魔法について話せる人物とあいたかったんだよ。」


私にとってとても良い提案をされた。

彼女の知識を直接聞けるというのは、この世でも有数の人間しかいないだろう。

そんなチャンスを逃すことはない。


そうして私は『永遠の魔女』との魔法についての話し合いに花を咲かせるのだった。


___________________


「エクレシア様、本日は貴重な時間をありがとうございました。」

「いいえ、私も有意義な時間だったよ。

それではまたいつか。」


私は彼女の知識に触れ、改めて尊敬を持つようになった。そして、彼女はフレニカに案内されて去っていく。


彼女はやはり、『永遠の魔女』と呼ばれるだけのことはある。私程度の魔法知識では話について行くのが精一杯だったからだ。


そうして彼女と話した内容を頭の中でもう一度繰り返す。そうして、違和感に気付いた。何かは分からないが、違和感がある。


それは、『永遠の魔女』といわれる彼女が、私程度に話をした事だ。

私の話したことは少なかったが、それに対して彼女は興味を示していた。


そこから考えるに、本当に私に用があったのだろうか…しかし、話の内容を考えると彼女が7割以上話していて、私は殆ど話していない。これは彼女に益があるのか?


本当の目的は、もっと他にあるのでは無いか?そう考えている内に、ある事に気づく。

フレニカが帰ってくるのが遅い。屋敷から出て以降、屋敷の扉が開いた音が全くしないのだ。

何かあったのでは?そう思った私は玄関から出てその光景を目にした。


「……しかも、それは問題が起こる前提で話しに来てるな?」

「なんの事かにゃー。じゃ、また今度!」


何かを話し終わり、去っていく『永遠の魔女』と、それを見送るフレニカの姿があった。フレニカは、『永遠の魔女』といわれる彼女と、友人のように話していた。

そこで、私は、


「フレニカ?貴女はエクレシア様と面識があるのですか?」


思わずそう尋ねた。


「エレネス様...」


彼女から帰ってきたのは、驚愕の声と動揺。彼女が私に仕えて以来、初めての動揺を見せた。何かを隠しているのだろうか。


「エレネス様。どうされましたか?」

「え?貴女が戻るのが遅かったので見にきたのですが...それよりも、エクレシア様が「また今度」と言っていたのですが、貴女は面識があるのですか?」


彼女は明らかに誤魔化している。

そこで私は『永遠の魔女』が発していた言葉を元に彼女に問いかけた。すると、

今度はそれに対して、


「彼女には魔法を教わりました。私が多少魔法を扱えるのはそれが理由です。」


そんな答えが出た。彼女とは師弟関係である、そう言った。しかし、そうなると私程度に仕える意味が分からない。更に質問する。


「エクレシア様に魔法を…そんなに凄いのにどうしてわざわざ私に仕えたのですか?」


彼女からは沈黙が返ってくる。

そこで私は、彼女にこう言った。


「やはり、何か事情があるのですか?

前からずっと思っていましたが、そこまで話せないのなら話さなくてもいいです。

恐らく、貴女が連れてきた姉も、何かあるのでしょう?」


そう、話したくなければ話さなければ良いのです。誰にだって秘密はあります。


「…私は何も話すことは出来ません。

ですが、貴女を裏切ることだけは無いと言えます。」


彼女は、そう答えた。

やはり、言えない何かがあるのだろう。

しかし、伯爵から私を救ってくれた彼女だ。裏切ることは無いと…その言葉を、信じたい。


「…分かりました。貴女を信じます。

それに、2人しか居ない使用人に居なくなられても困りますからね。」

「ありがとうごさいます。」

「私は執務室に戻ります。何かあれば呼んで下さい。」


そう。今この屋敷には使用人が居ない。

彼女に居なくなられては困るのだ。

話したくなければ話さなければ良い。

そうして私は執務室に戻る。

しかしいつか...いつか、私を信頼できる時が来れば、全てを打ち明けてくれますか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る