第四話・閑話 頭痛い

私の名前は「エレネス・フォン・クレヴィア」

シルファール王国のとある子爵家の次女として生まれた。次女ということであまり良い待遇を受けなかったが、運良く魔法の才能があったため小さいが屋敷を貰うことができた。こんなことができるのはこの国に貴族が少なく領地が大きいからだろう。


それはともかく、今日から使用人が一人居なくなり、新しく一人来る。

前の使用人はまともに仕事をしない上果樹園の木や畑の一角を枯らした。その上屋敷の掃除はやってるふりをして全く綺麗になっていなかった。

今度は良い人が来ると良いですが。


「こんにちは。」


執務室で趣味である魔法の研究をしていると誰かが訪ねてきた。

玄関へ向かい訪問者に対して


「はーい。どなたですか?」


と質問をする。

メイド服を着ているので恐らく今日から勤める使用人の人だが。


「今日からここで勤めるフレニカと申します。宜しくお願いします。」

「あぁ、今日から来るというメイドさんですね。それではよろしくお願いします。」


やっぱりそうだった。


「はい。早速ですが、この屋敷での仕事を教えて頂きたいのですが。」

「解りました。ひとまず屋敷の案内、それから仕事の説明をします。」


新人さんはとても真面目なようだ。

早速仕事について聞いてきた。

とても期待が持てる。


ひとしきり説明を終えた後で執務室に戻りまた魔法の研究を始める。

昼食前に使用人の人が呼びに来てくれる筈だからじっくりと研究できる。


「エレネス様、食事の用意が出来ました。」

「・・・今向かいます。」


気づけば使用人の人が呼びに来ていた。

研究途中の資料を机にまとめてから部屋を出て食堂へ向かう。


食堂へ来てから出された料理は、


「本日は畑の野菜のみを使ったコンソメスープとブドウ入りのパン、レモンの果汁をあえたとキウイとリンゴのフルーツサラダになっています。デザートは別で用意しております。」


と、とても豪華なものになっている...

それより、野菜と果物以外ろくなものがこの家にはなかった筈だけれど。


「・・・よくこの短時間で作りましたね。

それに主食のパンはなかった筈ですが。」

「お褒め頂きありがとうございます。

私は魔法を扱えるのでそちらを使いで用意致しました。」


やっぱりですか、つくったんですね。

というより、そんな魔法があるのだろうか?少なくとも私は知らない。


「魔法ですか。私の記憶ではそのような魔法は無かったと記憶していますが。」

「?...普通に「時空系統」の魔法と「生活系統」の魔法を組み合わせて使いましたが。」


その言葉を聞いた瞬間わたしは頭を抱えた。何故なら既に失われた魔法の名称が聞こえたきがするからだ。


「どうかされましたか?」


と訪ねてくる使用人の人に説明する。


「・・・良いですか、まず「時空系統」の魔法は既に失われた筈のものです。ましてやそれに加えて他の魔法を使う等できる筈無いのです。ただでさえ消費魔力が多いのです。それにそのような効果の「生活系統」の魔法は聞いたことがありません。」


恐らく彼女の言っていることは本当のそとだろう。私の知らない魔力の残り方をしている。しかし、


「そうなんですか?」


と、そんな風に驚く彼女に対してどうしても不信感を抱かざるを得ない。


「一つ、聞いても良いですか?」


そこで私は彼女に質問をなげかけた。


「貴女は何者ですか?」


その問いに対して彼女は、


「ただの一般人です。」


そんな言葉を返してきた。


「そんな筈がありません。・・・もう一度問います。貴女は一体何者ですか?何故そこまでの力を持ちながら、この屋敷へ来たのですか?」


もう一度質問をする。彼女に対して「自分のスキル」を発動しながら。

すると彼女は少しつまったあと、


「・・・私は、一般人です。」


そう答えた。私のスキルに反応は無い。

しかし会ったばかりで、更には『消失魔法ロストマジック』を使える彼女にそれを伝えるにはあまりにもリスクがある。なぜなら父から遣わされた者かもしれない。

なので、


「・・・そうですか。疑って申し訳ありませんでした。貴女に対して『真偽の宝玉』を使用させて頂きました。そして貴女が嘘をついていないということがわかりました。」


そう嘘をつく。


「そうですか。それなら幸いです。」

「はい。まぁ、貴女の認識と私の認識のずれはいずれ無くなるでしょう。」

「そうですね。」


そう、いずれは打ち明けることもできるだろう。しかしこの人は私がどこにも持っていられる場所が無い服を着ているのに宝玉で騙されました、大丈夫でしょうか?

そんなことを考えていると彼女は突然、


「お嬢様、僭越ながら私に常識を教えて下さいますか?」


等と言ってきた。


「・・・突然ですね、良いでしょう。どうせ私は忙しくもありません。これから使用人となる貴女に常識を教えるとしましょう。」


唐突のことに混乱して思わず了承してしまいました。


「ありがとうございます。」

「しっかりと仕事をして貰えれば構いませんから。それでは午後も残りをお願いしますね。」


誤魔化すために適当なことを言うが、


「既に終わっておりますが。」


そんな言葉が聞こえてきて思わずまた頭を抱えてしまう。


「・・・・・・そうですか。えぇ、そうですね。

まずは食事を済ませましょう......」


一旦頭のすみに置いときましょう。えぇ。


「冷めぬうちにお食べ下さい。」


そして食事を始める。

ええ、全ては後にしましょう。今は食事を楽しむ時間です。

食事はとても美味しかったです。


食事が終わったので話し合いができる客間へ移動します。執務室は資料が...


「まずはじめに、この世界の国等についてどの位知っていますか?」

「そうですね。「王国」「帝国」「公国」に対して「聖国」が宣戦布告したことは知っています。」

「えぇ、その通りですね。」


さすがにそこは知っていたみたいです。


「次に、『消失魔法ロストマジック』については知っていますか?」

「申し訳ありません。しらないです。」


早くも頭を抱えてしまう。


「・・・良いですか?『消失魔法ロストマジック』とは、およそ五百年前にあったとされる『魔力破壊マナブレイク』 と呼ばれる災害によって継承者が殆どいなくなった魔法のことです。今使える人間は数少なく、その殆どが国に属すかギルドに入っています。」

「『消失魔法ロストマジックも『魔力破壊マナブレイク』もわからないのですが。」


説明が無駄に終わりました。


「そこまでですか。えぇ、良いでしょう。

常識を貴女に求めるのは諦めます。」

彼女については全てを諦めましょう。

「説明しましょう。『消失魔法ロストマジックというのは話をきいていればわかると思うので後にします。まず『魔力破壊マナブレイク』というのは空気中の魔力が溜まりすぎたことにより魔物が大量発生する事態になったのですが、その結果魔物の発生に魔力が使われ、急激に減ったことにより圧縮された魔力が解放され、各地で『魔力暴走』が起きて世界の魔力が不足しました。そして魔力の不足と魔物の大量発生が重なった結果、魔法を使用する際の消費魔力が増加、かつての名のある魔法使い達だけでは対処できず、その弟子まで駆り出されました。そして、結果的には人々は魔物を倒しましたが、魔法使い達の殆どは死んでしまいました。そして生き残った僅かな魔法使い達は各国へ散り、それぞれが国を守ることになったのです。」

「・・・成る程。理解できました。」


今ので理解できるとは。

自分で説明しといて理解できるとは思いませんでした。


「とりあえず、一般的な常識を教えます。しっかり、覚えてくださいね?貴女が居なくなったら私に仕える人が居なくなってしまうので。」


そうお願いをして、私の元で監視しようと思います。父の手先なら解雇、一般人ならとても有能な魔法使いなので。


「わかりました。これからお願いします。」

そう返してきた彼女に対して私は、

「はい。」


と、全てを諦めた笑みを浮かべた。

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