チケット
翌日。
仕事を終え、マンションに帰ってきた私は玄関の前で二枚のチケットを見つめ、すごく緊張していた。
これがなにかというと遊園地のチケットで。
なぜ、私がチケットを持っているかというと、お昼の時間に先輩とお弁当を食べている時のことだった。
先輩が突然「枝島さんはちゃんと彼女さんとデートしてる?」と聞いてくる。
「だ、だから彼女じゃ…」と否定しようとするのだけど「そういうのはもういいから!どうなの!?」と食い気味の先輩。
私は一之瀬さんとの同居生活を思い出す。
平日は仕事で遊びに行くには時間がないし。
休日は一緒に出かけるにしても近くで買い物をするくらいだし。
一之瀬さんと遊びに行くってことをしたことないなと考えた私は正直に「してないです…。」と答える。
すると先輩が「それじゃあだめよ!これあげるからデートに誘って行ってきなさい!」と二枚のチケットを差し出す。
「ど、どうしたんですかこれ。」と尋ねると「昨日私が担当した方のお客様がお詫びにってくれたの!貰い物で悪いのだけど、昨日代わりに行ってもらったお礼ってことで受け取って!」と先輩が言った。
「で、でもせっかく先輩が貰ったのに悪いですよ。」と遠慮する私に「お願いだから貰ってちょうだい。私には…ほら…」と言うと机に顔を伏せ「相手がいないものぉぉぉぉぉ!」と泣き叫ぶ先輩。
その後、先輩を宥め、チケットを受け取る。
というわけで、先輩からチケットを貰ったのだけど。
その時の私は一之瀬さんを誘って遊びに行きたいなって思ったのだが、よく考えてみたらそれは先輩が言ったようにデートに誘うということで。
そう意識すると、なんだか恥ずかしくなってきてしまい、現在に至る。
私はカバンにチケットをしまうと、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
平常心になった私は普通に誘えばいいんだ。遊びに行くだけなのだし。と考え玄関のドアを開けた。
すると「おかえりー!お姉さん!」と笑顔で出迎えてくれる一之瀬さん。
「ただいまー。」と返すとさっそくチケットを渡そうと思ったのだけど…。
私に抱きつき、頬へとキスをする一之瀬さん。
それに驚き動揺する私。
「えへへ。いってらっしゃいと、おかえりなさいのキスはワンセットだよ!」と笑顔の一之瀬さん。
そこで私はやっと思い出す。
チケットのことばかり考えていて忘れてたけど、今朝いってらっしゃいのキスを頬にされたことを。
平常心ではいられなくなった私はチケットを渡せず、自分の部屋へと向かう。
部屋着に着替えた私はまた落ち着くと、今度こそ!と意気込みカバンからチケットを取り出そうとした時。
コンコンとドアをノックする音が聞こえる。
私は驚きながらも「ど、どうぞー。」と言うと一之瀬さんがドアから顔を覗かせて「ちょっと買い忘れたものがあったから買いに行ってくるね!」と言った。
「あ、それなら私が買ってくるよ。」と提案するのだけど「ううん!わたしが行くから大丈夫!」と一之瀬さん。
それから、お互い譲らず、結局二人で行くことにした。
「えへへー。お姉さんと夜のデートだー!」と嬉しそうに左側を歩く一之瀬さん。
デートという単語に恥ずかしくなってしまう私は「そ、そうかなー。」と返す。
すると「デートだよー!」と嬉しそうに腕に抱きつく一之瀬さん。
「だ、だから歩きにくいんだってばー。」と言いつつも前回のことで引き剥がすのは諦めている私。
その後、買い物を終えて、部屋に戻ってくるとやっぱり嬉しそうで。
「デート楽しかったねー!」と笑顔の一之瀬さん。
近所に買い物へ行っただけなのに本当に嬉しそうで。
そんな一之瀬さんを見ていると私も嬉しくなって。
誘う恥ずかしさよりも、誘って喜んでもらいたいという気持ちが強くなった私は、自分の部屋に置かれたカバンからチケットを取り出すと、「一之瀬さん。明後日の休みに遊園地行かない?」と誘う。
すると「遊園地?行きたい行きたい!」と喜ぶのだけど「でも?急にどうしたの?」と不思議そうな一之瀬さん。
私は一之瀬さんに説明する。
先輩と話してて、一之瀬さんと遊びに行ったことないなと気づいたこと。
それを話したら、チケットをくれたこと。
遊びに行きたいけど、デートに誘ってると思うと恥ずかしくてなかなか言い出せなかったことを。
「そっかぁ。えへへ。嬉しいなぁ。」と照れた表情の一之瀬さん。
そんな一之瀬さんがかわいくてドキッとした私は「あ、そ、それじゃあご飯食べよっか!」と提案する。
「うん!あ、だけどその前に。」と言うと私にソッと身を寄せ「お姉さん。デートに誘ってくれてありがと。」と言った。
また一之瀬さんにドキッとしつつも、今度はデートという単語に恥ずかしがらずに「うん。どういたしまして。」と伝える。
それから、寝る前のこと。
一之瀬さんが自分の部屋で電話をしていたので、私も自分の部屋で待っていた。
少しすると一之瀬さんがやってきて「お姉さん。明日なんだけど少し夕飯遅くなっても大丈夫?」と心配そうに尋ねる。
「うん?大丈夫だけど、なにか用事?」と返すと「友達と寄りたいとこがあって!」と一之瀬さんが言った。
「私のことは気にしないでゆっくりしてきて大丈夫だよ?」と。
毎日家事をやってくれてるし、お友達と遊ぶのだってしてないみたいだし。
そう思って言ったのだけど。
「えー!だめだよ!お姉さんと一緒にご飯食べるの!」と言う一之瀬さん。
「んー。だったら明日は外食にしよっか。」と提案する。
「いいの?」と言う一之瀬さんに「うん。帰ってきてから準備するの大変だろうし。」と返すと「わかった!それじゃあお仕事終わったら教えて!」と言う一之瀬さんに「うん。連絡するね。」と返すとその日は休むことにした。
こうして、明日は外食。明後日はデートすることが決まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます