帰り道
腕にしがみつかれながら歩く帰り道。
一之瀬さんが「でも、残念だなー。」と言った。
「ん?なにが?」と聞き返すと、「お姉さんが働いている所見れなかったー!」と悔しそうな表情の一之瀬さん。
「仕事って言ってもほとんど雑談してただけだけどね。」と苦笑いすると「それでも、見たかったー!」とやっぱり悔しそうな表情の一之瀬さん。
「次来る時は教えてね!絶対見に行くから!」と言う一之瀬さんに「だめです!遊びじゃないんだから!」と返すと「雑談してただけって言ってたじゃーん!」とプンプンしだす。
このままだと、しばらく続きそうだった為、話題を変えることにする。
「そ、そういえば!まさか一之瀬さんがお嬢様学校に通ってたなんてほんと驚いたよ!」と改めて言った。
すると「えー!それってわたしがお嬢様っぽくないってこと!?」と、怒る一之瀬さん。
私はそれになにも言わず顔を逸らす。
「お姉さん?ねぇ!なんで!なんでこっち見ないの!?」と問い詰められ。
さすがに腕にしがみ付かれたままじゃ顔を逸らすのも限界で。
私は一之瀬さんの顔を間近に見ながら、答える。
「わ、私のお嬢様のイメージってお淑やかな感じで。」と。
すると「たしかに学校にはそういう子も多いけど、わたしみたいな子もたくさんいるもん!」と怒り、「まぁ…先生にはもうちょっと落ち着きを持ちなさいって注意されるけど…。」と少し落ち込み。
「でも、見てて!」と言うと一之瀬さんは私から離れると、私の前に立ち、姿勢を正し、両手を前の方で重ねて、微笑む。
その姿は私のお嬢様のイメージ通りで。
そして…
「いかがですか?」と言う一之瀬さんに、クスッとしてしまう。
そんな私に「えー!なんで笑うの!?お嬢様っぽくなかった!?」と問い詰める一之瀬さん。
「ううん。私のイメージ通りだった。ただ…」
私は引越しの時に初めて見た一之瀬さんはお嬢様っぽかったことと、そのあと一変したことを思い出して笑ってしまったことを伝えた。
「お姉さんわたしのことそういう風に感じてくれてたんだ!」と嬉しそうな一之瀬さん。
「うん。でも…そのあとが…ぷくく」と笑いを堪えなくなってしまう私。
「だって!お姉さんがわたしと早く仲良くなりたいって言ってくれたから!だから、遠慮しないで普段のわたしで行っちゃおって思ったのー!」
「それにしても変わりすぎだよ。」と笑いながら言った。
「むー!だって、お姉さんに嫌われたらやだなって思ってたから…。もしかして、あのままの方がよかった…?」と、不安そうな表情の一之瀬さん。
「ううん。そんなことないよ。今の一之瀬さんがいいな。」
だって、それは一之瀬さんが遠慮したままで。それじゃあほんとに仲良くなることなんて出来ないし。
「よかったー!わたしね!お姉さんに仲良くなりたいって言ってもらえてほんと嬉しかったんだよ!」と笑顔の一之瀬さん。
そんな一之瀬さんは本当に嬉しそうで。
だから、もしかしたらと考えたら。
恥ずかしさを忘れて。
「もしかして、それで私のことが好きに…?」
気づくとそう聞いていた。
「ううん。違うよ。お姉さんのことが好きなのはもっと大切な理由。」と答える一之瀬さん。
「そ、それって。どんな…」と私は気になり質問する。
すると「知りたい?」と真剣な表情の一之瀬さん。
「う、うん。」と答える。
「それはね…」
「それは…?」
どんな理由なんだろう。
私は緊張しながら、一之瀬さんの次の言葉を待つ。
「まだ教えてあげなーい!」と、イタズラっぽい表情の一之瀬さん。
「え?」と、予想外の答えに固まる私。
「お姉さんがわたしのこと好きになって、恋人にしてくれた時に教えてあげる!」と、私に抱きつく一之瀬さん。
そんな一之瀬さんにドキッとして。
私は照れ隠しで「じゃ、じゃあずっとわかんないのかー。」と言ってしまう。
すると「むー!お姉さんひどい!」と私の胸に顔を埋めて黙ってしまう一之瀬さん。
さすがに酷かったと自覚した私は一之瀬さんに謝るのだけど、怒っているみたいで返事をしてもらえない。
どうしたらいいか悩んでいると。
一之瀬さんは顔を離して「お姉さん。」と真剣な表情で見つめる。
私が返事をすると「お姉さんに聞きたいことがあるんだけど。」と言った。
私は「なに?」とちゃんと一之瀬さんの顔を見て、そう言う。
すると一之瀬さんは「わたしがお姉さんにしてきたこと嫌だった?」と。
それを聞いて、考える。
今までしてきたことっていうのはつまり好きだというアピールのことで。
嫌かと聞かれると、動揺したりで困ってしまうことばかりだけど…。
「ううん。嫌じゃないよ。」と正直に答える。
「ほんと?」と聞き返す一之瀬さん。
「うん。照れたり、困ったりして否定することはあるけど、本当に嫌だったらもっと本気で拒んでるから。」と答えた。
すると「よかった。」とだけ返事する一之瀬さんはすごく安心した表情で。
そんな一之瀬さんに今度は私から質問をする。
「一之瀬さんは嫌にならないの?」と。
意味がわからなかったのか首を傾げる一之瀬さん。
私はもっとちゃんと伝える。
「あんなに好きだって伝えてくれてるのに、私が全然その気持ちを受け入れようとしてないこと。」と。
「うん。いいよ。だってね…」と言うと私から少し離れて。
「お姉さんに大好きだって気持ちを伝えられる今のわたしは幸せ者だから!」と笑顔になる一之瀬さん。
「で、でも…それでほんとにいいの?」と再度確かめる。
「うん!今はそれでいいの!それにお姉さんが本気で嫌がってる訳じゃないって分かったから!」と、微笑む一之瀬さん。
続けて「だから、これからもいっぱい大好きって気持ち伝えていくから覚悟してね!いつかわたしのこと好きにさせて、恋人にさせちゃうから!」と言うと、また私に抱きつく。
まだ一之瀬さんの気持ちを受け入れられないけど、でもいつかそんな時が来るような予感もして。
「うん。その時は私のことが好きな理由も教えてね。」と返事した。
「もちろん!きっとお姉さん驚くよー!」と笑顔の一之瀬さん。
結局、私のことが好きな理由は分からなかったけど、今はそれでいいかなと思う。
それから、また一之瀬さんが私の腕にしがみつくと歩き出す。
そして、部屋に着くと一之瀬さんが私に質問する。
「ねぇねぇお姉さん!キスってしたことある?唇と唇の方ね!」と。
「へ?な、ないけど?」と動揺しながら答える。
「そっか!じゃあじゃあ!初めてがわたしでも大丈夫?」と私に近寄り質問する一之瀬さん。
「ふぇ!?も、もしかして私されるの!?」とさらに動揺しながら後退りする私。
「今はしないよー!」と笑顔でさらに近寄る一之瀬さん。
「い、今はってどう言うこと!?」とちょっと動揺しすぎて足が震え始めるけど後退りする私。
「んー。キスしたいって気持ちが抑えられなくなってー。もし、しちゃったら嫌われちゃうかなーって。どうかなー?」と照れながらもさらに近寄る一之瀬さん。
「え、えっと。き、嫌いにならないけど。で、できれば…ね?」とついにその場に座り込んでしまい、上半身だけ後退りする私。
「そっかー!嫌われないなら安心だー!」と私に覆いかぶさる一之瀬さん。
「し、しないよね…?」ともう完全に逃げられない私。
無言の一之瀬さんは私を見つめるとやがて顔を近づけて…。
頬へとキスをした。
「へ?」
てっきり唇にされると思っていた私は呆然とする。
「お姉さんのほっぺにキスしちゃったー!」と大喜びの一之瀬さん。
相変わらず呆然としている私。
「えへへー。だから今はしないって言ったじゃーん!」と笑顔の一之瀬さん。
続けて「でも、次はしちゃうかもね?」と私の唇に触れそう言うと抱きつく一之瀬さん。
その後、動揺しすぎてしばらく立つことが出来ない私であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます