仕事②

午後の仕事が始まってすぐのことだった。


先輩の元に一件の電話が入る。


私は側で電話が終わるまで待っているのだけど、なにやら焦っている様子の先輩。


電話が終わると「どうしたんですか?」と尋ねる。


「んー。それがね、お得意様が今から話がしたいって言われて。でも、先約があるからって説明したんだけど、どうしても話したいらしいのよ。」


「その先約ってずらすことは出来ないんですか?」


「今日は重要な事じゃないから出来ることは出来るんだけど、約束していたのにこっちの都合でずらすのも信用に関わるし…。」


「そうなんですか…。」と言うと、新人の私では良い案が思い付かず黙ってしまう。


すると、先輩が「枝島さんって人見知りするタイプ?」と尋ねてきた。


特に人見知りするわけではないので「しないですね。」と返す。


すると「じゃあ、問題ないわね!」と、急に笑顔になる先輩。


その後、いくつか説明する。


私一人で先約の方に向かってほしいこと。


今日はカタログを見せるだけなので大丈夫だということ。


ただ、話すのが好きだから時間かかっちゃうかもということを。


それを聞き、新人の私で大丈夫かなと不安になるけど、ちゃんと先約の方には説明するし、事情も伝えておくので問題ないと思うと言われ、お世話になっている先輩の助けになれるならと、引き受けることにした。


というわけで、私は先約である都内のお嬢様学校へ来たわけだけど。


さすがに人見知りしないといっても、初めて一人で行う仕事なわけで。


来賓室へと案内された私はすごく緊張していた。


そんな時、スマホに通知が入る。


先輩からかな?と確認してみると、どうやら一之瀬さんからで。


お姉さーん!わたしの愛情いっぱいのお弁当食べてくれたかなー!残りも頑張っていこうねー!というメッセージと猫がキスしているスタンプが送られてきていて。


それを見るとなんだかクスッとしてしまい、いつのまにか緊張が解けていた私は、ありがと。と返信した。


それから、少しして先約の方が来て、挨拶をすると、話し始める。


カタログを見ながら、これ良い物だったわよー!とか、新人の頃って仕事覚えるの大変でしょう!など、初めは仕事の話だったのだけど、やがて世間話になっていき。


先輩が言ってたのはこれかぁと思いながらも、話していく内に私も段々と楽しくなっていき、終わったのは数時間後となった。


初めて一人でやり遂げた達成感を味わいながら、先輩に報告をしようと思った時。


「あれ?お姉さん?」と、聞き慣れた声が聞こえて私は振り返ると、そこには三人の女の子がいて。


「え?え!い、一之瀬さん!?」


その中に一之瀬さんがいて驚いてしまう私。


「わー!やっぱりお姉さんだ!」と、私に駆け寄ると一之瀬さんが抱きついてくる。


そんな一之瀬さんを引き剥がしながら「一之瀬さん、どうしてここに!?」と、質問すると「どうしてって。わたしここに通ってるんだよ?」と、不思議そうな顔で答える一之瀬さん。


「そうだったの!?」と、お嬢様学校に通っていることを初めて知った私はさらに驚いてしまう。


今までそういう話をしてこなかったというか。


一之瀬さんのアピールが多すぎて、あまり普段のことを話す機会がなくて。


それに、一之瀬さんの制服姿も初めて見る。


というのも、朝は私が先に出てしまうし、夜も私の方が遅くて。


見送りも、出迎えも部屋着を着ている一之瀬さんだった為、制服姿を見る機会がなかったのだ。


「それで!それで!お姉さんはどうしてここに!」と一之瀬さんが私に質問する。


私は仕事で来ていたことを説明すると「なんだぁ。わたしに会いに来てくれたのかと思ったのにー。」とがっかりする一之瀬さん。


だけど「でもでも、ここで会えたのは運命だよね!やっぱりわたしとお姉さんは運命の赤い糸で繋がってるんだね!」と笑顔になる一之瀬さん。


「違います!ただの偶然!」と否定する私に「ちがうよー!運命だよー!」とプンプンと怒る一之瀬さん。


そんなやりとりをクスクスと笑っている後ろの二人に気づき一之瀬さんに友達?と聞いてみた。


「うん!そうだよー!お友達の凛ちゃんと柚子ちゃん!」と一之瀬さんが紹介すると、二人も近づいてきて。


「初めまして。楠野凛です。」と少し大人っぽくクールな感じの子と。


「はじめまして〜。佐伯柚子といいます〜。」とおっとりした感じの子が挨拶してくれる。


私も挨拶をすると、お姉様とお話し出来るなんて感激です〜。お会いできて光栄ですお姉様。となぜか喜んでる二人。


初対面なのになんでだろうと思い、一之瀬さんの方を見ると顔を逸らされてしまう。


これはなにか隠しているなと思い、私は一之瀬さんを連れて一旦二人から離れると、問い詰めることに。


「一之瀬さーん?どうして顔を逸らすのかなー?」


「え、えっとー。お姉さんがかわいすぎて見れなくてー。とか?」と明らかに嘘をついている一之瀬さんと無言の圧力をかける私。


「お、お姉さんがかわいいのはほんとだもん!」と、私を褒め始める一之瀬さんとやっぱり無言の私。


やがて、耐えきれなくなった一之瀬さんは白状する。


どうやら、一緒に暮らしてることや、楽しかったこと、嬉しかったことなどを二人によく話していたらしく。


なんだ、それなら別に隠さなくても。と思ったのだけど…。


一之瀬さんの白状はさらに続く。


「あと、お姉さんのかわいいとことかいっぱい…。」と、そこまで聞くと恥ずかしくなってしまう私。


「あ、でもね!お姉さんとお風呂に入って、スタイル良いなぁって思ったこととかはまだ話してないよ!」と笑顔の一之瀬さん。


いやいや、スタイル良くないから。っていうかそんなこと思ってたの!?と思いながら「それは絶対やめなさい!」と顔が赤くなりつつも注意すると「はーい。」と一応納得している様子の一之瀬さん。


まぁ、変なことは言ってないはずと思うと、許すことにした。


それから、先輩に連絡することを忘れていたことに気づき、終わったことをメッセージで送るとすぐに電話がかかってきた為、一旦三人から離れると電話に出て、終わると三人の元へと戻る。


「お姉さんはこれから会社に戻るの?」と一之瀬さんが聞いてきたので「ううん。戻ると遅くなるからこのまま帰っていいよって。」と答える。


すると「えー!それじゃあお姉さん一緒に帰ろー!」と大喜びの一之瀬さん。


その後、その場で二人と別れると一之瀬さんと一緒に帰ることにする。

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