第12話わかる人には、わかるもの

店主が店の奥から、大事そうに物を抱えて戻ってきた。

(お待たせしました)

店主が持ってきたものを山田の前に置いた。

古くて、平べったい木箱が2つ。

なにやら紋章が書いてある。

(サーヤとリールが着る防具ですから、うちの中で、一番のものを持って来ました)

まず最初の箱。

箱は白色をベースに、十字架をモチーフにした紋章が書かれている。

フタを開けると、白色をベースにしたロープが入っていた。

(きれいな色ね)

いつのまにかサーヤとリールもやって来ていた。

店主は

「シスター達が祈りを込めて織った聖なる糸を甲冑師の黄徹が、黄家に伝わる秘伝による特殊コーティングを施したとされる聖職者のローブですよ」

と箱から白色のローブをふわっと取り出した。

肌触りもよく、やわらかく、軽く、そして防御力が高い。

「あなたの鋼の鎧よりも防御力は高いですよ」と店主が言う。

本当だ。これはいい防具だ。

そして次の箱。

今度は藍色をベースとして、月と星をモチーフとした紋章が書かれている。

(これは魔法使いが10種の秘薬につけて、ていねいに織った糸を林家の甲冑師が、これまた秘伝のコーティングにより作製した魔法使いのためのローブです)

紺色をベースとしたローブが箱から出されて、聖職者のローブと並んで置かれた。

山田が魔法使いのローブを見ると、自分の鋼の甲冑より防御力が高く、こちらも軽い。

(さらに、この2つのローブには素早さ補正がつくのですよ。)

防御力が高く、しかも素早さ補正がつけば、サーヤとリールにとって有利になる。

ただ、山田の持ち合わせでお金が足りるかどうか・・・

(足りない分は出世払いで結構ですよ。)

店主はサラッと言った。

山田は転生前、出世レースに負け、身体を壊し、もう野心も何もなくなっていた。

医者からも

(山田さん、あなたも一度は出世を目指したと思うが、これからは身体のことを考えて、今いる場所で、頑張って、無理しないようにしてください。)

と言われていた。

その俺に出世払いとは皮肉だな・・・と。

(しっかり出世して、ご期待に沿うようにしますよ)

(期待してます)と店主。

山田は持ち合わせからお金を払った。

(では、残りはローンで)

こっちの世界でもローンを背負うことになる山田だった。

(ねぇ、試着してもいい?)

(そうだね、二人とも着てみて)

(あちらに試着室があるので、ご利用ください)

サーヤとリールがローブを持って試着室に入ると、山田は店主に話しかけた。

(見ず知らずの者に、よくこんな高価なものをローンで売って・・・、こちらはありがたいけど)

店主は自分自身に苦笑した。

(あなたには、他人とは違う匂いがしますよ、見た目より世の中を経験してる・・・。何か大きなことをやってくれそうな・・・)

店主には山田が転生していることがわかっているのか、意味深なことを言う。

(こちらは、これからのローンのことで頭が一杯です)

山田は言った。










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