お約束、目覚めたら裸
異世界に来ての2回目の目覚め。次はやけに意識がはっきりとしており、眠りの余韻等は感じなかった。起き上がってみると体の関節がギシギシいう。寝すぎたのだろうか。
ん?体?俺体があるぞ?さっきまで魂でふよふよ浮かんでいたのに。あのステラとかいう子に話しかけられて……じゃあ俺は助けてもらえたんだな。何か怪しいことは言っていたけど、体を作る実験?か何かだったのか。
まずはとりあえず状況把握。辺りを見渡す。観葉植物が植わっている鉢、弓矢、棚の上には小さい人形。試験管等が置いてある。どうやらあの子の部屋みたいだ。俺の状況は、簡易的なベッドに寝かされて、布をかけられている状態だ。触ってみた感じ顔とかも普通の人間っぽい。鏡が無いからわからないけどな。
後は、まあこういうのにありがちだけど裸っぽい。布を外す。
あ、息子が無い。というかつるんとしてて何もない。更に言うと、膝とか肘の関節がなんっていうんだろう。あの人形にありがちな球体関節……?
ええええっ!?何これ!俺の体どうなってんの?人間辞めちゃったのか俺?
体のあちこちに触ってみる。見た目の割には感触が人間そのものでギャップが凄い。よく見ると体のあちこちにも分割できるような線が入っている。
ドオオオオオオオン!!
次はなんだ!?
自らの新しい体を撫で回していたら、隣の部屋から爆発音。
次はなんですかもう。
「ケホッ……うーん、失敗したな……おっ、起きたのかい魂君。時間通りだ。どうやら成功したみたいだね」
「君はさっきの」
ギイと扉が開き、先ほどのステラと名乗った少女が入ってくる。白衣を着て、その両手にはマグカップが2つ持たれている。
「えっ、どうしたの?」
古典的な程に黒焦げアフロ。さっきの爆発のせいか?いやそんな事無いだろ。ギャグ漫画でも無いんだし。
「ああ、これか?失敗してな。浴びた人をアフロにする薬が出来てしまった」
「なんだよそのピンポイントギャグ漫画!?」
ツッコまれた少女の見た目は元に戻る。ああ、ギャグ漫画もすぐ戻るもんな。
布で体を隠しながら俺はベッドに座りなおす。自分の体のように動くけど、見た目が違うという状況に違和感を覚えるが、動作に問題は無いようだ。
「恥ずかしいところを見せてしまった。ここはオルスメニア国ジーニュの町外れにある私の家だ」
「ありがとう。助けてくれたみたいで」
「礼なんていいさ。私も成功したみたいで良かった」
壁の近くから椅子を持ってきてベッドの近くに腰掛ける。チヒロ君の分だ、と片方のマグカップを渡された、中身もコーヒーによく似た飲み物だ。この世界にもあるのだろうか?
水面に映る顔は、当たり前ながら前世のものとは違う。飛びぬけてイケメンって訳じゃない。だけど悪くは無いと思う。
「改めて私の名前はステラ。能力は【
「俺はチヒロ。能力は【成長】。属性は【火】ってことかな」
「【成長】……?聞いたこと無いな」
また顎に指を当てるステラ。
なんだ?この世界の住民も聞いたこと無いって相当レアなのか?もしくは地味すぎて消えた能力って可能性も……
「そうだ、その体の調子はどうだい?」
「今のところ問題無いけど。なんなんだこの体?」
「それは私の【人形技師】で作った『魔導自動人形』……まあいわゆるゴーレムだ。君の魂は消えそうだったから、勝手に憑依させてもらった。感触は人間そのものだろう。もっとも、見た目だけは改良の余地があるんだけど……」
なるほど、ゴーレム……なんか俺の考えている見た目と随分違うな?この世界のゴーレムは人間そっくりなんだろうか。
それに魂を定着させられたから、消えずに済んだということってことかな。何気にすごい魔法じゃないか?
「ゴーレムとはいえチヒロ君という魂が動かしている。エネルギーとして飲んだり食べたりも必要だ。排泄は必要ないけどね。あ、それと材料はそこらへんの土を使った」
「土?じゃあ水に弱いとか?」
「それは大丈夫だ。私の技術でそこもカバーしてある」
ふふんと笑い、マグカップの飲み物をどうぞと促される。恐る恐る一口飲んでみると、味もコーヒーのようだ。美味しい。
「どうだ?飲めるか?」
「うん。美味いぞ」
「それは良かった。家の近くに生えてた豆を試しにすり潰して濾したんだ。毒では無いようだな」
「んな自分がわからん物飲ますんじゃねぇよ!!」
微笑みながら自分も飲むステラ。ツッコみどころがありすぎる。家の近くにコーヒー豆が生えるってどんなとこだよ。
「そもそも、この体に毒とか通じるのか?」
「……考えてもみなかった。苦いなこれ。毒か?」
それは毒じゃない。と半分呆れて伝える。
「話を戻すと、水の魔法にも強いはずだよ。試したことは無いからわからないけど」
「その属性っていうのはなんなんだ?」
気を取り直して話は戻る。水、俺の火とステラの土。魔法があることはわかるけど、何個あるか等はもちろんわからない。
「……驚いた、属性も知らないって君はどういう人なんだ?しかもなぜあんなところにいたんだ?私は【人形技師】の効果で魂が見えるんだけど、チヒロ君で2例目だよ。」
まあそりゃそうだ。町の真ん中に魂がいるなんてそうそう無いんだろう。
転生者っていうことはそのまま話しても良いんだろうか。でもダメとも言われていないしな……
「信じてもらえないかも知れないけど、俺は異世界から魂だけ転生させられたんだ」
……こんなん俺が言われても信じられないわ。
「ほう、転生者!」
なんだ?反応が変わった。この世界ではそんなにポピュラーな存在なのだろうか。
「なるほどなるほど。転生者。文献だけのものかと思っていたけど本当に存在するとは思わなかったよ。何も知らないはずだ」
マグカップの中の飲み物を一息で飲み干し、立ち上がる。さすがに熱かったのかめちゃくちゃむせているけど。
「大丈夫か?」
「ゴホッゴホッ……大丈夫。チヒロ君、あまりその事は言いふらさない方が良い」
「なんでだ?」
俺は背中をさすりながら聞く。
「魔物に狙われる。転生者は魔物を滅ぼす者という文献があるからな」
まあ、色んな話でそんな展開あるからな。そういう事なんだろう。
「わかった。仲間くらいにしか言わない」
「それで良い。さて、属性の話だったね」
さすり終わり、また椅子に座らせる。この子、口調とかで頭良いキャラに見えるけど結構天然か?
「この世界には属性魔法というものがあって、住人はそれぞれ生まれながらに適性属性 があるんだ。まあ、必ず適性が全員使えるわけでは無いんだけど、種類は火・水・雷・風・土の5種類がある」
ちなみに土は少し珍しいんだよ。とドヤ顔で語る。
「魔法の中でも色々種類がある。私は土魔法の中でも重力を操ることが得意だ」
そう言い、柵の上の人形に手をかざす。
「グラビティ」
人形が浮かび上がる。やはり呪文はそのままで良いらしい。
「こういうこと。もっとレベルを上げれば強い呪文を使えるようになるが……」
そこまで言ったあと、また少しステラは考える様子を見せる。
「チヒロ君、冒険者組合に登録する気は無いか?」
冒険者組合!!さっきまでいた異世界転生あるある!
「するつもりだったけど、この体で大丈夫なのか?」
ステラの能力で作られた体。ゴーレムがこの世界でどういう位置付けなのかはわからないけど、魔物か持ち物とかなんじゃないか?嫌だよ俺、備品として登録なんて。
あと、関節とか隠せる服とかも手袋の必要だよな。
「大丈夫じゃないか?魂は人間なんだし」
肝心なところ適当だな……
「それと、この世界での基本常識を伝える。魔物と呼ばれる生物、その生物を倒すとマナと呼ばれる物質が放出される。いわゆる経験値というものだ。そしてそれが倒したものに溜まるとレベルというものが上がるという訳だ。強さの指標だな」
ますますゲームじみている。ドラクエとかそこら辺の世界観。まあザ・RPG。
「そうだ、ステータス見てみなよ。何か変化があるかもよ」
確かに、前見たときは魂の状態だったから悲惨なものだったけど今ならマシにはなっているはず。
「ステータスオープン」
その声に反応して、また目の前にウィンドウが現れる。
ステータスはそれぞれ能力値が追加されているな。ゴーレムだからか守備力が高い。他のステータスも段違いに高くなっている。
それよりかも目につくのは能力と属性が増えている。これも体の追加効果か?
「何か変わっているかい?ギルドカードが無いとパーティメンバー以外のステータスは見れないんだ」
「なんか前見た時より能力と属性が増えてるんだけど、この体の効果?」
「いや?そんなはずは……」
再び悩む素振り。結構わからないことがあると自分の中で整理する癖があるみたいだな。
「そうか、成長、か。もしかしたら【成長】の効果でゴーレムの体自体が成長したのかもしれない」
体が成長?確かにスキルの説明には自分の成長性って書いてあったけど、そういうのも含むのかよ。あの説明だけじゃわからない他の効果があるかもしれないな。
「増えたのはなんだい?」
「えっと、属性が雷と、能力が【解析】……えっ?」
解析といった途端、視界にマークや項目がいくつか現れ、視線を合わせたものにマークが次々と付与される
なるほど【解析】ね。
付与された物を調べようと心の中で思うと、その物の情報が視界に詳しく表示される。
これはなかなか使えそうな能力だ。漫画とかのロボキャラにいそう。今は俺もロボみたいなものだけど。
「どうした?」
「いや、能力が発動して戸惑っただけ。大丈夫」
ただこれずっとONにしておくと結構うざいな。OFFに出来ないんだろうか。表示されたのは解析といったからだろうし、逆に消すのは……解析OFF?お、全て消えた。
他にも項目はあったし、色々と後で試してみるか。他にも使える機能があるかもしれない。
「さて、そしたら早速組合に行って冒険者登録をしよう。あとは歩きながらにでも話すさ」
椅子から立ち上がり、マグカップを2つとも持つ。
俺もつられて立ち上がりそうになったとこで、大事なことを思い出す。
「あのー……ステラ」
「なんだい?」
「服、無いですかね?」
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