ゴーレムだけど冒険者登録出来んのか?
「サイズぴったりだなこれ。ありがとう」
「大丈夫だよ」
ステラに関節を隠せる服を貰い、俺たちは酒場へと出かけた。俺はついさっきのことに感じるけど、酒場近くで出会ってから1週間経ったらしい。その間に用意したのだろう。
鏡で全身を見たところ、外見年齢は前世と変わらなそうだ。ショタでもおじいさんでも無く、年が余りにも離れていなくて良かった。顔はどことなくステラに似ているような気がする。作成するにあたり参考にでもしたのだろうか。
日差しが眩しい。家の中の時計は、朝の10時を指していた。前だったら仕事が始まって先輩に怒られていた頃だろう。
家がある街の外れから、中央通りに進むと、路上市場や屋台も見かけ、人通りもなかなか多い。この前は必死だったこともありよく見ていなかったけど、整備も整えられていて街並みも美しい。
「ここはオルスメニア国の中でも小さい町だけど、大国ということもあって規模が違う。魔王城からも遠いし、安全だということも理由の1つかな」
市場で買った果実を齧りながら歩くステラ。周りをぐるりと見てみても、見た目はどこからどうみてもリンゴ。というか恐らくリンゴなのだろう。コーヒーもそうだったし、前世の世界にあったものがそのままこの世界にもあるということなのかもしれない。
「魔王城はどこなんだ?」
渡されたリンゴを齧ってみる。味もやはりそれ。ちらっと他の市場を見ても、見たことがあるような物が売っている。
「この国から西にあるウェロパが一番近いな」
ウェロパ、あの隣国と戦争をしそうだという国か。姫も行方不明だし、降伏でもして寝返ったっていうことなのだろうか。
……イベントが起きそうな雰囲気がめちゃくちゃするぜ。
「この国とウェロパの他にはエイスト、ルースという国がこの大陸には存在している。魔王城と離れたところにも魔物は現れるが、まあその分レベルは低い」
「それってつまり、ウェロパが魔王軍に落とされるとヤバいんじゃないのか?」
「マズいな。そこを拠点とされるとレベルの高い魔物も現れるようになるからね」
おいおい、結構マズイ状況の時に転生させられたな。能力の【成長】役に立つのかこれ。時間そんなに無さそうだぞ。
「まあ心配はそこまでしなくていい。他にも冒険者は大勢いる。彼らもただ見ているだけじゃないだろう。特にミハルって子が最近魔物軍の勢いをだいぶ食い止めているらしいからね」
え?三春?いや、聞き間違いか?
「さて、着いたぞ。【
タイミング悪く、目的地に着いた。覚えていたらまた聞けば良いか。
俺からしたらついさっき来たばっかりの建物。朝はクエスト希望の人が多いんだろうか、昨日より人の出入りが多く見える。
ここまで多くの人が居たっていうのに、姿を見ることが出来たのはステラだけって、奇跡みたいな確率じゃないか?出会えなかった時のことを考えると恐ろしくなる。
店の前に設置されているごみ箱にりんごの芯を捨て、俺達も中に入る。
「安心してくれ。登録の作業は私がする。君は立っていれば良い」
頼もしい。異世界で独りぼっちなんてのはたまったもんじゃなかっただろう。前世でも一人だったことが多かったし、その時の事を考えると少し悲しくなるけど、今は違う。
「いらっしゃいませ!酒場ですか?クエストですか?」
あの帽子を被った可愛い子だ。今日は朝から勤務なのか。
朝から酒場行く人もいるのか?と思いチラっと横を見ると、結構賑わっている。まあ前世の居酒屋とは違う。
あれ?そういえばステラが無言だぞ?すべて説明してくれるって言ってたよな?
様子を見ると、下を向いて指をもじもじと動かしている。
「ステラ……?」
「あ……えーっと……私の連れ?チヒロ君が、冒険者登録したいということで。あっ、チヒロ君っていうのは私の隣のこの……」
めっちゃコミュ障じゃん。俺よりかも更にコミュ障じゃん。え?俺に最初話しかけてきた時コミュ障だったからあの言い方でちょっと脅してきたって事?
「うるさいな……あまり日常的に会話しないんだよ」
俺の視線に気づいた。いや恥ずかしそうな顔で言われてもなんか説得力無いし、俺まだ何も言ってないし。
「えっと、ステラさんですよね?いつも採取クエストを受注されていく」
おお把握されている。あ、ああそうです……と反応をしている。コミュ障がコンビニの店員に把握されているかのような状態。
「そちらの方の冒険者登録をすればよろしいんですね?わかりました」
伝わった。さっすが。少し困惑した様子はあったけど、こっちの言いたいことは汲み取ってくれた。
「そうしましたら、そちらの手形に手を置いて、ステータスの登録をお願い致します」
俺は受付嬢に言われた、カウンターに置いてある手の模様がある板に視線を移す。
……これどう見てもただの板だよな?何かあるのか?ステータスオープンすれば良いのかな?
「ステータスオープン」
板が水色に光る。なんかの魔法なのかこれも?
「汎用魔法の応用だ。これによって組合にステータス情報が登録される。ああ、あとステータスは口に出さなくても表示される」
「えっ、そうなのか」
これまで無駄なことを言っていた。あんなきっちりしている役所みたいなとこだったら、この異世界の説明書とかくれても良いのに。まあ最初魂だけだったから読めもしなかったんだけどな……
「あれ、お客様、種族ゴーレムって……」
発行された用紙を見て幽霊でも見たようなリアクションをしている受付嬢に再び視線を移す。おそらくステータスが書いてあるのだろう。
「えーっと、そうみたいです……ダメ?」
手袋をずらし、チラっと指の関節とかを見せてみる。もしかしたらやっぱり持ち物とか召喚獣扱いになってしまうのか?
「本当にゴーレムなんだ……あっ、えっと、その、ちょっと待っててください!」
てんちょー!!とカウンターの奥に帽子を押さえながら、パタパタと小走りで向かう受付嬢。店長では無い!マスターと呼べ!とそれに続いて聞こえてくる。
前例が無いのだろうか?なんかここも役所みたいだな。
「君か!シーニャの言っていたゴーレム坊主は!」
奥から頭に鉢巻を巻き、2振の刀を携えた、やけに暑苦しい人が出てきた。歳はまだ若そうだけど、ここのマスターをしているということは実力があるということだろう。シーニャはその後ろで縮こまっている。
マスターが出てくるということは、一大事とでも思われたのだろうか?大丈夫だって言ったじゃんかステラ。本人は知らん顔してコミュ障発動してるし。
「あ、はい俺です」
恐る恐る返事をする。
「ふーむ……確かにステータスはゴーレムとある。が、ここに表示されているということは冒険者登録出来るということだな……この坊主のマスターは君かい?」
「ひゃい!」
力強い両目を向けられ、いきなり注目を浴びたステラは軽く飛び上がったように上ずった声を上げる。
「見た目も人間そっくりのように見える……君は凄いな!」
ふふん、才能だね!といわんばかりに腰に少し震える手を当てる。まあ、声には出てないんだけど。意外と凄い奴には間違いないらしい。
いや問題はそこじゃなくて俺の処遇の方。このまま研究機関にステラと一緒に連れられてとか……そんなの嫌だぁぁぁ……
「ふふふ、チヒロさん?は結構思っていることが顔に出るタイプなんですね?面白いです!」
「え?そんな俺顔に出てた?」
シーニャさんに笑われてしまった。笑った顔も可愛いけど、こっちは結構真剣なの!
ステラも笑いを堪えられないという様子でいる。俺の気持ちも知らないで……
「心配しなくて良い、このギルドマスターヒバチ、君の冒険者登録を俺は認める」
「え、あ、良いんですか!?」
「ああ、事情は分からないが冒険者登録が出来るのは間違いない。だとするとただのゴーレムって訳じゃないみたいだからな。断る理由は微塵も無い!」
「ありがとうございます!」
無事冒険者として異世界転生の第一歩を歩むことが出来そうだ。まるで大学受験が成功したかのうように嬉しい。受験もしたこと無いんだけど。
それにしてもマスターでも事情が分からないって、そこまでのことが出来るステラって何者なのだろうか?疑問を持ちながら彼女を見る。
「ほら、大丈夫って言っただろう?」
「めちゃくちゃコミュ障発揮してた奴に言われたかねえ」
「コミュ障……ってなんだ?」
「秘密だ」
頭にハテナマークを浮かべている。
通じない言葉もあるんだな。全部通じると思ってた。
「良かったですねチヒロさん!」
シーニャさんがとびきりの笑顔を渡してくる。ありがとううぇへへみたいなきもい返事がのどから飛び出そうだったあぶねえあぶねえ。
手を振ってまた店の奥に入っていくヒバチさんにお礼をし、登録作業に戻る。
「そしたら登録料銀貨3枚になります!」
「えっ、お金いるの?」
聞いてなかった。というかこの世界の通貨の単位も聞いていない。さっき市場でリンゴを買ったときに通貨を渡していたから存在は知っていたけど、銅貨?銀貨と金貨もあるのか?
「そりゃ君は持っていないよね。良いよ。私がここは出そう。クエストの報酬で返してくれれば良い」
ステラがカウンターに銀色の通貨を3枚置く。
ありがとう。何回目かわからない感謝の言葉を言う。どうしてステラはここまで俺にしてくれるのだろう。実験体だから?見返りの無い奉仕?
まあそれを聞くのは無粋だろう。今はただただ感謝しておこう。
「はい、これがチヒロさんのギルドカードです。クエストを行う時はお持ちください。登録された情報が他の方に見れるようにもなります。後は身分確認にもなりますよ」
いわゆる免許証サイズのカードを渡される。いつ撮ったのか丁寧に顔写真付きだ。
表面には基礎情報が書かれている。名前、属性、クエストクリア回数など。その都度更新されるようだ。結構ハイテク。
「あれ?これ種族が人になっているみたいですけど」
ゴーレムで登録したのに、何かのミスだろうか。俺は渡されたカードをシーニャに見せる。
「あ、多分ヒバチてんちょ……マスターですね。ゴーレムより人のほうが何かと便利なんで変えてくれたんだと思います」
「そんな事も出来るんだ」
ありがたいけど結構ガバガバなんだなこれ。身分の保証になんてなるんだろうか。一応俺どこの誰かも知らないやつだぞ。
「あと、職業は冒険者にしておきました。ステータス的には騎士が適性アリだったんですが……」
「ですが?」
「騎士になるためには、王都の騎士学校を卒業しないといけないんです。騎士と魔法使いは条件が厳しくて……」
そういう条件もあるんだ。まあ格式高そうだもんなその2つ。騎士かぁ、お姫様を護るっていうのもなかなか良かったけど。例の国の姫も行方不明だし、状況的には美味しい展開になっていたかもしれない。
「冒険者はどんな職業なの?」
「一番基本的な能力になります。どんな職業にもなれる可能性はあります」
「私も最初は冒険者からスタートだったさ。弓をよく使っていたら弓使いになれた」
なるほどそういう事。騎士学校に入るのは無理だろうし、剣士とかしか無さそうだな。
「わかった、ありがとうシーニャさん」
どういたしまして!と答えが返ってくる。
その様子を少しもじもじしていた様子で見ていたステラが口を開く。
「じゃあチヒロ君。私とパーティを組もう」
パーティ、家でも少し話題に出たもの。RPGだと結構職種とかでもバランス考えないといけないけど……
ステラはいつもの少し笑みを帯びたまなざしでこちらを見ている。他の人でもパーティは組めただろうに。
「他の人に声かけられなかったから俺とってこと?」
一層ワクワクした様子のステラに、少し意地悪な口調で聞いてみる。
「ぐっ……そんな事、無いぞ」
「最初は魂だけの状態で話すきっかけを作ったから、俺には話しかけやすかったってことかと思ったけど」
他の人に聞かれるのもアレだし、耳元に顔を寄せて小声で聞く。赤くなった顔を見るに事実らしい。わかりやすい奴。
「うるさいうるさい!私には君の魂をもう1回抜くことも出来るんだぞ!」
おっと、言い過ぎた。ステラは獣のような目でこっちを見ている。周りの人には聞こえていないとは思うけどもうよそう。
「ごめんごめん、わかった。よろしくな。シーニャさん、登録よろしく」
シーニャさんに頼んでパーティ登録をしてもらう。わかれば良いんだよと少し拗ねた顔をしている。
何をともあれこれで異世界でのスタートラインって言った感じだな。この体ってことでどうなるかわからないけど、魔王ぶっ倒すくらいの目標持ってみるか。
「では早速入門クエストに行きますか?」
「入門クエスト?」
チュートリアルということだろうか?
そういえばだいぶ俺達に時間を取らせてしまっているな。気になって辺りを見回すが、お客さんは少なくなってきている。ピークは過ぎたらしい。
「あ、まずはクエストの説明からになりますね。ごめんなさい」
しまった!といった顔で、器用に帽子を被ったまま頭を下げた。
「いやいや、大丈夫だよ」
「すみません。説明いたしますね」
少しズレた帽子を直しながら、カウンターの下からPOPなイラストと共に説明された紙を取り出す。
俺とステラはその紙に視線を向ける。そういえばこいつのレベルは何なんだろうか?登録していたみたいだけど。
「クエストは基本的に入口から入ったあたりの掲示板におすすめのものが貼ってあります。参加したいクエストがありましたらカウンターにお持ちください。また、こちらでは全てのクエストを見る事も出来ますのでお気軽にお聞きくださいね!」
「なるほど、ありがとう、シーニャさん」
「頑張ってください!」
唐突に俺の手を両手で握ってくる。めちゃくちゃ柔らけえじゃねえか女子の手……おいおい良いのかよ。こんなことされたら俺はすぐに好きになっちまうぞ?冗談だけど。半分くらいは。
「何にやけてんだチヒロ君」
「そんなことねぇって!」
また顔に出てたか俺?あんまり人と話してこなかったからわからなかったけど、俺は結構顔に出やすいタイプみたいだ。平常心平常心。変なことは考えないっと……
「それよりステラはレベルいくつなんだ?」
「私もまだレベルは3だ。生活費稼ぎぐらいしかしていないし、本分は研究者だからな」
鞄からギルドカードを出して見せてくる。職業もアーチャーとなっているし、よほどで無いと一人で難しいクエストは無理だろう。なんかどんくさそうだし。
「今失礼なこと考えていなかったか?」
「いや何も。シーニャさん、入門クエストはどんなのがあるの?」
「入門は基本的に
クエスト内容が書かれた紙を差し出される。この前のプルプルしてたあいつか。結局強いか弱いかわからなかったけど、入門の課題で出てくるなら強くは無いんだろう。
報酬は銀貨3枚。登録料とプラマイゼロか。
「なあ、リンゴ1個いくらだった?」
「銀貨1枚だ。ああそうか、通貨は小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、金貨がある。それぞれ10枚で上のお金と同価値になるという訳だ」
俺の質問の意味に気づいて説明してくれる。なるほど。リンゴが100円くらいと仮定すると、金貨は10,000円ってことかな。前世の時とそこまで感覚は変わらない。
それにしても報酬が安いような?上のクラスのクエストもこんなもんだととても生活なんか出来ない気がする。
「安心してください!もっと上のクエストはもっと報酬も上がります!」
訝し気な表情で報酬の辺りを見ていたことに気付いたのか。シーニャさんがフォローを入れる。お金は大事ですからね……と噛み締めるようにそのまま呟く。
「そしたらパーティで入門クエスト【スライム討伐】受注でよろしいですか?」
「俺は良いけど、ステラは大丈夫か?」
「いや、チヒロ君こそ大丈夫じゃないだろう。武器も無いんだから」
呆れたような様子でそう答える。確かにそうだ。考えてもいなかった。
ゴーレムの体なんだから素手でも戦えないのだろうか?
「確かに徒手空拳でも戦えるが……それはそれで後で試すとして、とりあえずはうちにある剣を出発前に渡そう」
「お、サンキュー」
弓使いでも剣は持っているものなんだな。
「じゃ、シーニャさん受注するよ」
「かしこまりました!場所は……コーヤ広野ですね。近い場所なので大丈夫だと思いますが、お気を付けて!」
……そのまんまの名前だな。ピンと張っていた心の糸がダランと緩まるのが分かる。まあ、名前がどうであっても、異世界初めてのクエストだ。何も無いことを願おう。
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