遅咲き冒険者の七星光芒(セプタ・グラム)~俺が脱落した後、勇者パーティーは何事もなく魔王を討伐しました。今更もう遅い覚醒から始まる、最強最悪最高の大冒険~
第28話:よーく覚えとけ。勇者パーティーは六人じゃねえ、七人なんだヨ!
第28話:よーく覚えとけ。勇者パーティーは六人じゃねえ、七人なんだヨ!
「しかし、本当に心配していたのだぞ。別れ際の様子があまりに酷かったからな。私を頼ってくれたのは嬉しかったが、やはり王都で仲間の帰りを待つよう勧めるべきだったかと。まあ、それはそれで王女様がお前を囲い込もうとしかねないが」
「ハハハハ。まさかそんな」
あのお姫様ならやりかねないなと思い、ちょっと背筋に悪寒が走る。
魔王の居城は魔境の奥――奥と言っても大陸の中央部だが――に座し、オーレンたち勇者パーティーは魔王討伐の後、《龍脈》を利用した長距離転移の術で直接王都に帰還した。そのため、ナグルファル領に滞在する俺とは再会の機を逃していたのだ。
これについては、オーレンたちとの連絡を一方的に絶ち、所在を知らせなかった俺に非がある。わかっているから、リュカは拘束するみたいに腕を組む力を強めないで。やわもちメロンが当たってるから……!
「解決すべき問題もあるが、まずは城で再会を祝そう。無論、城の一流シェフが腕によりをかけた馳走と、上等な酒も用意するぞ!」
「最高ジャン! 事件が解決したら《魔境》に出る予定だし、ここで高級料理の食い溜めしとかねえとナ! タダ飯タダ酒ー!」
「リュカ! いや、確かに魔境じゃサバイバル飯が続くだろうがなあ」
ナグルファル辺境伯の案内により、俺たちは検問も顔パスで都市に入場。
城まで続く中央通りを進んでいると、行き交う市民から次々と声をかけられた。
「ナトリ様! 無事お帰りになったんですね!」
「ナトリ様のお好きな茶葉を仕入れたので、是非また店に足を運んでください!」
「見てください! また格上の魔物を討伐してきました! ナトリ様にご指導頂いて以来、霊格が一段どころか十段は上がったみたいに調子が良いんです! これも全てナトリ様のおかげ! 二人きりの個・人・授・業、またよろしくお願いしますね?」
「全くナトリ様こそ次期辺境伯、いいや王様にだって相応しい御方ですよ!」
その大半がナグルファル卿でなく、次男坊のナトリに向けられたもの。
花やら金品やら手渡そうとする者もいて、近衛兵が壁を作って押し留めたほどだ。
「ナトリ様は、とても市民から慕われているんだな」
「うむ。街で人助けや冒険者の真似事などして、私も知らぬうちに民の信頼を勝ち取ったようでな。世話係に任せきりだった上、報告の内容が芳しくないので心配していたのだが……全く、子供とはちょっと目を離した間に大きく成長するものだな」
軽く涙ぐんだ父に、ナトリは謙遜するように頭を掻いた。
「いやあ、皆ちょっと大袈裟なんですよ。大したことなんてしてないのに、いちいちオーバーに驚いたりして。それに僕は貴族といっても次男ですから、いずれは家を出る身。街の郊外に店でも開いて、のんびりスローライフでも遅れれば十分なんですが」
「うーむ。私としても、お前の好きにさせてやりたいとは思うのだがな。フランクさえ後継ぎとしてしっかりしてくれれば――」
「フランク様というと、長男の?」
「ああ。やや自信家に過ぎる所こそあれ、優秀な息子だった。それが最近では、振る舞いも言葉遣いも酷く乱暴になってな。毎日のように問題を起こし、私が言っても聞く耳を持たないばかりか、『俺様は神に選ばれた』などと妙な妄言を口走る始末。まるで人が変わってしまったかのような調子でな」
人が変わったかのよう、ね。
俺という前例がある以上、《ヴィクター》のスキルツリーを移植された人物が魔族とは限らない。しかし確たる証拠もない今、下手な発言は控えるべきだ。
俺はリュカとアイコンタクトでそう結論付け、そのまま話を続けた。
「そいつは大変そうだナ。それなら、次男の方が立派な後継ぎになれるんじゃねーノ? この人気っぷりだし、皆も親父さんも安心だロ」
「いやあ! 世界を救った勇者パーティーの、リュカさんや他の皆さんに比べたら僕なんてまだまだ! でも万が一後を継ぐとしたら、皆さんを手本に優秀で立派な領主を目指したいなあ、なんて」
「私としてはフランクやナトリには、ザックのことをこそ一番に見習って欲しいところだな。考えも立場もそれぞれ異なる仲間たちの意見によく耳を傾け、皆が納得できる正解へと導く。ザックがパーティーで果たしていた役割は、領民に対する領主の姿勢にも通じるものがある。さしずめ、良き大樹を育てる豊かな大地といったところか」
「……俺自身は芽も出ないまま、なんの成果も残せずに脱落したわけだがな」
思わず、そんな愚痴っぽい言葉が俺の口から零れてしまった。
するとナグルファル辺境伯は、静かな中に強い気持ちを込めた口調で言う。
「なにを言うか、盟友よ。お前の勇姿を、私を昨日のことのように鮮明に思い出せる。英雄たちの中で誰よりも弱く、それでいて誰よりも英雄たちを支え助けた。特別な力も才も持たず、どこまでも泥臭く等身大で。しかし如何なる宝石よりも眩く力強い背に、我々がどれほど奮い立たされたことか」
顔馴染みの近衛兵たちも、同意を示すように俺に微笑みかけてきた。
「確かに理不尽なことに、世間にお前の名と偉業は知れ渡っていない。しかしお前が頼もしい仲間と共に、七人でこの街を救ってくれたことは変わらぬ事実だ。私もこの街も、決してその恩を忘れはしないとも」
誓いを立てるような宣言に、なぜかリュカまでウンウンと満足そうに頷く。
俺はなんと返せばいいかわからず、照れくさい気持ちを悟られぬようそっぽを向いた。
気づけば俺たちは都市の中央部、十字に伸びた大通りが合流する地点にいた。十字の中心には噴水が鎮座している。
ナグルファル辺境伯は微笑みを浮かべて、噴水前に建てられた像を指し示した。
「見てくれ。街を救った英雄を讃える像だ。……たとえそれを「世界が知らずにいたとしても。お前が、お前たちが成し遂げたことの証はこうして残っているのだ」
「ああ、そういえばそんなのが建っていたっけ――」
俺はなにげなく像を注視して、凍りついた。
台座の上に並ぶのは【星剣の勇者】、【聖天騎士】、【大魔導士】、【龍霊射手】、【錬金学士】、【狂闘士】の像。【冒険者】のいない、六人の英雄を称える像。
当然のように、それが自然であるかのように、俺がいた証なんてどこにもない。
「ど、どういうことだ、これは!? なぜザックの像だけがなくなっている? これは一体誰の仕業だ!」
「あのう、クロード様? 申し訳ありませんが、おっしゃっていることの意味が……なくなっているもなにも、勇者様のパーティーは六人ではありませんか」
「そもそも、その分不相応な身なりをした小汚い男は何者なのです?」
「荷物持ちだか雑用係だか知りませんが、粗野な冒険者といえど礼儀を弁えないのにも限度がありましょう。クロード様や【龍霊射手】様と肩を並べて歩くなど、不遜な。下僕は下僕らしく、三歩は後ろに下がって控えるべきでしょうに」
「なにやら盟友などとおっしゃっていましたが、冗談も程々になさってください。このような卑しい輩相手に、寛容も過ぎれば領主としての威厳を疑われますよ」
そう口々に言うのは、顔馴染みでない方の近衛兵たちだ。
目つきといい口調といい、まるで主の正気を疑うかのような態度。ナグルファル辺境伯や顔馴染みの近衛兵が、怒りを通り越して絶句する。
だが、世間では彼らの反応こそが当然なのだろう。なんの功績も残せなかった俺の存在なんて、世の中の九割九分が知らない。知らない人は存在しないのとほぼ同義。そして九割九分が「七人目なんかいない」と主張すれば、事実に関係なくそれが真実だ。
だからなにを喚こうが、俺の存在は否定される。六人の像はまさにその象徴。
俺はいない。皆で歩んだ旅路のどこにも。いない。イナイイナイイナイ……。
「――退けヨ」
剣呑な声と共に、すぐ間近で雷が唸る。
怒りが突き抜けたような真顔でリュカは弓に矢を番え、制止する間もなく放った。
矢は放物線を描いて台座に命中。そこから、雷が天を突く柱のようになって噴き出す。
光が治まると、綺麗さっぱり跡形もない。範囲を絞った分だけ圧縮された破壊力は、六人の像を完膚なきまでに消し飛ばしたのだ。
「ゆ、勇者パーティーの……六英雄の像がああああ!?」
「どこの愚か者がこんな真似を――え? 【龍霊射手】様? 本物?」
弓を構えたリュカの存在に気づき、市民らは困惑し切った顔だ。
憎しみさえ込められた眼差しで一同を睨みつけ、リュカは高らかに叫ぶ。
「よーく覚えとけ。勇者パーティーは六人じゃねえ、七人なんだヨ! 【星剣の勇者】、【聖天騎士】、【大魔導士】、【龍霊射手】、【錬金学士】、【狂闘士】、そして【冒険者】! あたしたちは、七人揃っての勇者パーティーだ! 今度そこのところを間違えやがったら、承知しねえからナ!」
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