三
翌日、事件が起きた。川沿いの色街にある娼館で男女の遺体が見つかった。男の遺体は客間の寝具の中で喉に洋鋏が突き刺さった状態で発見された。客間に荒らされた様子はなかった。凶器となったのは洋鋏であった。一方で女の遺体は娼館から離れた桜の木の下で発見された。遺体は喉に身に付けていた
遺体で発見された男の名は鈴木と言い、先の大戦で財を成した商家の一人息子である。眉目の整った男前で、その色街では名の知れた色男であった。女の名はよしのと言い、鈴木が贔屓にしていた娼婦である。目鼻立ちの際立った顔をしており、華やかな出で立ちから咲き誇る桜に例えられた。匂い立つようなその容姿は群を抜いており、娼館でも指折りであった。
鈴木の遺体を発見したのは娼館の女中であった。朝の六時を回った頃、娼館の二階にある客間に明かりが灯っていることを不審に思い、密かに覗いたところ鈴木の遺体を発見した。客の遺体が見つかったが、居るはずのよしのの姿が見えなかった。直様娼館はよしのの捜索を始めた。娼館の男衆全てを駆り出して辺りを探った。そして桜の木の下で変わり果てたよしのの姿が見つかったのである。
警察は捜査を開始した。昨晩の状況を把握する為に、娼館やその周辺での聞き込みを行った。その結果次のことがわかった。
まず生前の彼らの姿を最後に確認できたのが昨夜二十二時頃である。証拠として、その時間に客間から女の声で「愛しております」と言う声が聞こえた、という証言があった。またその十分程前によしのから酒を持ってくる様に頼まれたという。酒を運んだ
次によしのの遺体が別の場所で発見された件についてである。昨晩二十二時から午前零時の間に怪しい人影を見たという証言はなかった。当然人を担いで歩くような人物など見られなかった。
鈴木の命を奪った凶器に関する証言も得られた。凶器である洋鋏は、娼館にあったものであり、何者かによって盗み取られた様である。洋鋏は、女中が裁縫に使っていたもので、刃渡りは九
最後に亡くなった二人の関係に関することである。彼ら二人は互いに想い合っていた。関係の始まりは鈴木の一目惚れからであった。鈴木は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます