第二話 ハードロック①ー4
「――――という考えなんだけど、ミカサはどう思う?」
「な、なるほど! 確かにそれならハードロックを倒せると思うよ! さすがソウトだよ!」
オレの作戦をミカサに簡潔に話すと、ミカサは目を輝かせて体を乗り上げてきた。
「じゃあ早速だけど、取り掛かろう」
「了解――――『アクアレイト』!」
ミカサは元気よく立ち上がり、そして杖を振りかざす。そしてミカサはハードロックを包み込めるほどの水を出現させた。その水はふわふわと宙を漂い、ミカサの意思に合わせて動く。
水を出現させて操作する――それがミカサの水魔法『アクアレイト』だった。
「ソウト―準備できたよ!」
「じゃあ始めてくれ!」
オレはミカサから離れた位置から声を上げる。そんなオレの目の前には、スイカより一回り大きいほどのサイズのハードロックがある。
だが今回の作戦でオレが出来ることは、正直な所とても少ない。作戦の根幹はミカサの魔法頼みになっている。
そのことを理解したうえで、オレは自分の仕事をこなす。力を持たないオレに出来ることは、あくまでパーティの頭脳であることだ。だからこそ、ミカサに指示を出す。
「それなら作戦通り、ハードロックを持ち上げてくれ」
「りょうかーい!」
ミカサは元気いっぱいに声を上げて、それに合わせて手を振り上げる。そしてその手の動きに合わせて出現した水も連動して動いている。
そしてその水が網のように広がり、それが纏わりつくようにハードロックを覆った。
「せーの!」
ミカサは天を指すように手を挙げる。すると遅れてハードロックが飛び跳ねたように見えた。
実際はミカサが操作している水によって、ハードロックを持ち上げただけだ。そのハードロックはスイカ五つ分ほどの大きさの為、オレの力では到底持ち上げることは出来ない重量だ。
それを軽々持ち上げる魔法とは、やはりすごいなと感心しつつ少しばかりの嫉妬もあった。
ミカサは仲間だ。仲間の力に嫉妬する自分に嫌気がさす。そんなことを考える自分の頬を叩き、気持ちを切り替えた。
「ソウト―、どの辺りに持ってくればいいのー?」
気が付くとミカサが持ち上げたハードロックは、小さく見えるほどはるか上空を漂っている。
「あ、えーと、もう少しオレの方に寄せてくれ!」
「りょーかい! これぐらい?」
「えーともう少しミカサから見て右側に……ここでオッケーだ」
オレは親指を立てる。それにミカサも反応して親指を立てた。
今オレの足元にあるハードロックの真上に、ミカサが魔法で持ち上げていたハードロックが綺麗に並んだ。
これで、オレたちの作戦の準備は整った。後はミカサの魔法を解除するだけだ。
「ミカサ、魔法を解除してハードロックを落としてくれ」
「おっけー、後はソウトの作戦がうまくいくことを願うだけだね」
「頼むぞ」
オレはハードロックの元から離れて、ミカサの横に立った。ミカサもハードロックから離れた位置にいたため、オレたちは二つのハードロックを視界に入れることが出来た。
「いくよ!」
ミカサの掛け声と同時にハードロックを持ち上げていた水が消えた。すると当然支えを失ったハードロックは垂直に落下する。地面に引っ張られるように段々と加速していき、その速度のまま地面にあるハードロックと衝突した。
鈍器同士をぶつけ合ったような衝突音が響き渡り、その二体のハードロックを中心に砂埃が舞い、ハードロックの姿が見えなくなった。
「どうなったの?」
ミカサが腕で顔を覆いながら、何とか砂埃の中心に目を向けている。だが深い霧がかかったようにハードロックの姿は見えない。
その中でオレは自分の策がうまくいっていることを願っていた。
オレの作戦、それは『ハードロックにハードロックをぶつける』というシンプルなものだった。
ハードロックが刃物も魔法も効かないほどの硬さを持っているのなら、その硬さを利用すればいいと考えた。
その結果が、ハードロック同士をぶつけるというものだった。
ハードロックの硬度にも個体差があるはずだ。それならば二つのハードロックをぶつければ、硬度に劣る個体が破壊されるはずだ。
もちろん確実にうまくいく保証はない。ルビーにダイアモンドをぶつけてもどちらかが欠けるとは限らない。
だけど可能性は0ではない、その僅かな可能性を願うことに罪はないのだ。
「頼むぞ……」
オレは再び結果を懇願する。それに呼応するかのように衝突によって舞い上がった砂埃が徐々に収まっていく。そしてハードロックの姿が視界に映った。
球体を維持したハードロックの辺りに、粉々になったハードロックの残骸が転がっていた。
「ソウト……」
「あぁ、これは……」
オレとミカサは顔を見合わせる。そしてお互いの口角が上がったのが分かった。ミカサは天真爛漫な笑顔を見せて、オレは安堵から笑みが零れた。
「クエストも、ミカサのノルマもクリアだな」
「うん、ありがとねソウト!」
オレたちは粉々に砕かれたハードロックを眺めて、クエストの達成を噛みしめた。
――――そして同時刻、ヘルグランデの地より南西に位置するアイギスの谷から一人の少女が二人を見ていた。
少女は『ロブスコープ』というアイテムを使用して、何キロも先にいる二人の一部始終を眺めていた。
二人の目的がハードロックの討伐だとすぐに理解したが、それを達成することの難しさも知識として分かっていた。女性の方は強いという噂は聞いていたが、男の方は見たこともない服装をしている上に、武器も持っていない。
そんな二人でどうやって倒すのかと好奇心から眺めていたのだが、その結末は意外だった。
「もしかして、あの二人なら……」
そんな期待を膨らませながら、少女は二人と同じファウストの街に戻っていった。
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